第15話 傷心
泣き疲れたのか春姫はソファに横たわり寝息を立てている。
『少し落ち着いたのかな』
僕はタオルケットを春姫に掛けて自室へ移動した。
うちの両親と春姫の両親は川北中の近くにある某薬品会社の研究員をしている。
その関係で研究所への泊りも多く昔からで家を空けることも多かった。
今日も春姫の両親は帰ってこないとのことなので、体調が悪そうだからと一応連絡だけ入れてうちに泊まってもらう事にした。
ちなみにうちの両親も今日は泊りとさっきメールがあった。
まぁ深く考えちゃうと高校生の男女が2人きりで一晩を共にするとか色々問題があるんだけど、僕らの中では結構お互いの家に泊まることも多かったので今更なところもある。逆に変に意識してしまうと非常に気まずい。
それにしても・・・春姫がここまで取り乱したのは初めてかもしれない。
それだけ僕のプレゼントを大切にしてくれていたって事なのかな。
今回の件は聞いている限り春姫が悪いわけじゃないし何とかしてあげたいけど・・・と考えていると有坂からメッセージが届いた。
[そっちに栗平行ってないか?ちょっと部活で揉め事があって飛び出して行っちまったんだ。みんなで探してるんだけど家にも帰ってないみたいだし、メッセージ送ったけど応答もなくて]
探してるって春姫から聞いた話ではそんな状況にはならないよな。
春姫が飛び出した後何かあったのか?
と僕は春姫が居ることは言わずに探りを入れることにした。
[何があったんだ?]
[栗平だけど、他の1年から嫌がらせを受けてたらしくてな"部活を辞める"って言いだして]
うん。それは春姫から聞いた。
[でも、嫌がらせを受けてたなら春姫が辞めるんじゃなくて、本来嫌がらせしていた方が退部になるんじゃないのか?]
[ああ。ただな、騒ぎを聞きつけて女子テニス部の部長たちが駆け付けた時、嫌がらせをしていた1年の江田と梶ケ谷に栗平が詰め寄ってるところだったんだ。それで、栗平が加害者に見えちまって部長たちも栗平を責めて・・・]
そういうことか。確かに春姫も自分が悪くないのに責められたらショックだよな。でも、だとしたら何で春姫が被害者だってわかったんだ?
[でも、その話だと何で春姫が被害者だってわかったんだ?その江田と梶ケ谷って2人が自白でもしたのか?]
[いや。あいつらは口裏合わせて栗平を加害者にしてたよ。酷い目にあったってな。ただ、それを聞いて船橋の奴が証言したんだ]
[船橋さんが?]
[あぁ 新入部員の中では2人が栗平に嫌がらせをしていたのは周知の事実だったみたいなんだ。ただ、栗平も入部当初は偉そうな態度してたから新入生の中でも色々と反感をかってたから庇ってくれる奴もいなかったんだよ。船橋もそんな栗平を少し突き放してたみたいだけど、流石に我慢できなかったらしくてな]
[そうか・・・・]
[色々あったけど船橋も下北も栗平のことは友達だと思ってるはずだぜ]
[そうみたいだな。春姫も喜ぶよ]
実際、春姫と船橋さんと下北さんはいつも一緒に行動してたもんな。
春姫に媚をうってるようなやつもいたけど、あの2人は違うはずだ。
[でだ。船橋の話しを聞いた部長と栗平を評価してた渋川先輩がブチ切れてな。2人に今すぐ栗平を探してこい!ってなったんだ。部長も自分の思慮不足で栗平を傷つけたって一緒になって探してるよ]
[そうか・・・・部長さんまで]
[僕も知り合いってことで協力してるんだけど何処か心当たりとかないか?]
[・・・黙ってて悪かったけど春姫はうちに居る]
[本当か!]
[ああ。ただ、今の話を聞いて納得したけど、色々とショックだったみたいで憔悴しきっててな。やっと落ち着いて休んでくれたところなんだ。だから今日のところは休ませてあげたいんだけど有坂から部長さんに話とか出来るか?]
[・・・わかった。そういうことなら僕から話はしておくよ]
[悪いな]
[いや、悪いのはあいつを信じてやれなかった僕達の方だ]
何だか大変なことになってるな・・・・
有坂に部活の対応を依頼した僕は、春姫の事が心配になりリビングに様子を見に戻った。
とと目が覚めたのかキッチンで水を飲む春姫の姿があった。
「春姫。起きてたのか?」
「大和・・・何だか色々ゴメンね。迷惑かけないようにするって決めたのに」
「・・・気にするなよ。迷惑だなんて思ってないからさ」
「・・・ありがと。やっぱり大和は優しいね」
僕の方を見て力なく微笑んでいる。
こんな弱気な春姫は久しぶりに見るな。
早く元気になって貰いたいけど。
「さっき有坂から連絡があったよ。船橋さんが春姫の無実を証言してくれたって。それで部長をはじめ皆が春姫に謝罪したいって探してるんだって」
「千歳が私の事を?でも、前は私が嫌がらせ受けてても何も・・・」
「あぁ有坂が言うには、春姫の態度に船橋さんや他の1年も思うところがあったらしい。ただ、春姫に嫌がらせをしていた2人が春姫に罪を擦り付けようとしていたことが許せなかったんじゃないかって」
「・・・・・」
「船橋さんも下北さんも、きっとまた春姫と仲良くしたいんだよ。ちゃんと春姫も2人に謝ってもう一度仲良くしたらどうだ?」
「・・・うん。千歳たちにはちゃんと謝るよ。私も2人とはまた仲良くしたい。言い訳にしかならないかもしれないけど、私は今まであのキャラじゃないとあのグループにはいられないんじゃないかって思ってたんだ。ほら、私って本当は寂しがり屋で内気な性格じゃない」
「ウチキデサミシガリ・・・」
「そこ笑わない!」
まぁ確かにな。
昔の春姫は自分の意見も言えず、僕の後ろをいつも追いかけてきてたもんな。
中学に入ってから強がって無理をしているのは僕も気が付いていたし、それで寄って来る奴もいれば逆に離れていく奴もいた。
「無理して自分を作ることないと思うよ。
それに・・・素直な春姫の方が僕は可愛いと思うよ」
「か 可愛い・・・・」
春姫の顔が少し赤い。
余計なこと言っちゃったかな。今日泊ってくんだよな。
ちょっと気まずい・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます