第14話 特訓
「おら!休んでるんじゃない!普通にやってたら勝てないって自分でも言ってただろ!」
「は はい!お願いします」
しんどい・・・
藤崎先輩に相談した翌日の部活。
阿部部長と藤崎先輩による特訓が始まったわけだけど、あの2人ダブルスの選手だったんだよね。
勿論1対1で対戦しても勝てる気がしないくらい2人とも上手いんだけど、今やってる練習は2対1。正直何処に打っても打ち返されるイメージしかわかないし、実際打ち返されている。
先輩たちはまだ全然余裕ありな感じだけど、こっちは右に左に振られて足腰が結構やばい。
あらためて思ったけど、やっぱり受験で体が鈍ってたんだな。テニス部に誘われるまで運動らしい運動もあんまりしてなかったし以前はもっと体力あった気がする。本当この間の試合に勝てたのは奇跡に近かったのかも。
テニス以前の問題として基礎体力を上げないと駄目だな。。。
などと思いながら頑張るものの気持ちに体がついていかず、いよいよ倒れこんでしまった。
「ま、よく頑張った方かな」
「だな。鶴間少し休憩だ」
「は はい。ありがとうございました」
僕は疲れた体を引きずりながらコート脇に座り込んだ。
と阿部部長が部員に向けて指示を出した。
「ちょっと聞け! 次回から1年は基礎練習のランニングと筋トレの量を増やす。試合に慣れるのも大切だが受験で鈍った体ではイメージ通りにプレイできないことも多いからな。後は部活の時間以外も体力強化は心掛けろ。
前の親睦試合、勝てる試合も幾つかあった。次の親睦試合も同じ組み合わせにするつもりだから次こそは勝て!!」
「「はい!」」
阿部部長ってチャラそうな雰囲気だったけど、やっぱり体育会系だよな。
でも・・・・そういうのも嫌いじゃないかも。
僕は自然と阿部部長と藤崎先輩に声を上げていた。
「部長!もう1セットお願いします」
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「ふぇ~疲れた~」
「今日は、かなりハードだったよな」
「って俺らより鶴間の方が練習きつかっただろ」
「まぁな。正直歩くのも辛い」
部活が終わりシャワーを浴びて着替えた僕は、家の方向が同じ藤沢や秦野と雑談をしながら川野辺駅に向けて歩いていた。送迎バスは部活の時間までは動いてないんだよね。
みんな今日の部活は疲れたと言いつつも充実した顔をしている。
やっぱり負けるよりは勝ちたいよな。
「あ、俺こっちだわ。じゃまた明日な」
「藤沢お疲れ!」
川北中出身の藤沢は学校から家も近く徒歩での通学だ。
ちょっと羨ましい・・・
「なぁ鶴間。お前って川野辺の有坂とは仲いいんだよな」
「ん?まぁ同じ部活だったしクラスも同じだったからね」
「やっぱり、あいつって川野中じゃテニス上手い方だったのか?」
「う~ん。一応部長だったし川野中の中では一番うまかったとは思うけど地区大会とかでは川北に負けたし他校含めるとどうかはわからないな。
最もあいつの場合は、勝負の勝ち負けよりテニスを楽しんでる感じが強かったからな。まぁ僕はその有坂にすら勝てなかったけどね。
でも有坂がどうかしたのか?」
「あ、いやこの間の親睦試合。あと一歩で勝てなかったからな」
「そっか秦野は有坂と試合したんだったな」
「あぁ。俺が川南中の頃に川野中とは何度か試合したけど有坂とは対戦したことなかったんだ。前回は負けちまったけど次は絶対勝ちたくてな」
「そか。試合見てた限り秦野も有坂に負けてなかったと思うよ。
あまり時間は無いけど、次の親睦試合まで練習頑張ろうぜ!」
「あぁそうだな! あ、俺ここからバス乗るから」
「あぁじゃまた明日な!」
いつの間に川野辺駅前に着いた。
秦野はここから更にバスで数駅先の大型団地に住んでるんだそうだ。
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秦野と別れ1人家に向かって歩いていると家の前に座ってる人影が見えた。
『ん?誰だ?』
相手は僕に気が付いたのか、立ち上がって僕の方に向かって歩いてきた。
「春姫?」
「やまと~」
と春姫が頼りなく僕の名前を呼びながら抱き着いてきた。
春姫・・・もしかして泣いてる?
「ちょ ちょっと春姫どうしたんだよ」
「私もうテニス部辞める!」
「辞めるって何があったんだ?テニス大好きだったじゃないか」
両親はまだ仕事なのか家の灯りは消えている。
僕は家の鍵を開けてリビングに泣いている春姫を迎え入れた。
何があったのかはわからないけど、僕は春姫が落ち着けるように大好きな甘めのミルクティーと買い置きしてあったクッキーを出してあげた。
「で、何があったんだ?」
「実は・・・・」
春姫の話を聞いていて、僕は憤りを感じた。
女子テニス部で次期部長と言われている人気、実力ともに優れた先輩が居るらしいんだけど、春姫はその先輩に気に入られて直接の指導を受けるなどの特別扱いされているとのこと。
それ自体は悪いことでは無いしよくある話しなんだそうだけど、先輩に憧れて部に入った部員は面白くなかったらしく春姫に嫌がらせをし始めたんだそうだ。
春姫も誰が何をしているのか気付いていたけど、その内飽きるだろうと無視していたら、最近は荷物を隠されたりと段々エスカレーションしていったとのこと。
そして、今日は鞄にぶら下げて大切にしていたキーホルダーを隠された。
帰り際にキーホルダーがなくなっていることに気が付いた春姫は、怒って相手に詰め寄ったそうだ『大切な物だから今すぐ返して』って。
今まで反抗してこなかった春姫が突然大声で詰め寄ったこともあり、相手もびっくりして素直に取ったことを認め、色々と言い訳をしたみたいだけど結局キーホルダーはゴミ箱に捨ててしまっていたらしく行方不明。
騒ぎを聞いて集まってきた部員たちの中で春姫は『こんな人達と部活やりたくありません!』って宣言して出てきてしまったらしい。
キーホルダーは小さい頃に僕が春姫にプレゼントしたものだ。
2人で遊びに行った川野辺天神のお祭りで買ったキーホルダー。
あの時、春姫が凄く喜んでくれたことは今でも覚えてる。
今回の件で春姫に非はない。
何で春姫が泣いて辛い思いをしなくちゃならないんだ。
「大和のプレゼント。無くしちゃってごめんね」
泣きながら謝罪する春姫。
「謝ることないんだよ。春姫は悪くない」
今の僕にはそっと彼女を抱きしめてあげることしか出来なかった。
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