第11話 勉強

勉強会の約束をした木曜日。

放課後、僕が帰り支度をしていると春姫からメッセージが届いた。


[校門のところで待ってるね]


『えっ嘘。ここに来てるの?』

慌てて窓から校門を見ると春姫らしき人影が門に寄りかかって立っているのがみえた。

男子校に女子が居ること自体目立つので前を通る生徒たちの注目を浴びている。

正直あの場で春姫に声を掛けて一緒に帰るのはかなり勇気がいる。

『せめて何処かで待ち合わせにしてほしかった・・・』

と思いつつも


[うん。遅くなってごめん。今から行くからもう少し待ってて]


と返信を送り、急いで帰り支度をし校門に向かった。


「お待たせ 遅くなってごめん」

「ううん 私が頼んでるんだから気にしないで」


え?『遅い!』とか叱られないの?

というか、この間からどうしたんだ春姫は?

凄くまともじゃないか。


「ん?何か失礼なこと考えてない?」

「い いやそんなことないけど・・・春姫が僕に優しい言葉を掛けてくるから驚いて」

「そ それは・・・私だってそれくらい言うわよ。それに・・・・」

「それに?」

「な なんでもない!それより早く行きましょ。喉乾いたわ」

「ん ってあぁ ちょっと春姫!」


下校途中の生徒達の刺すような視線の中、春姫は僕の手を握りしめ引っ張るように僕の家へ向けて走り出した。

・・・明日学校行きたくないなぁ


----------------

「さ 早く家に入ろ」

「あぁ」


家に到着した僕は家に入るためドアに手を掛けた。

と、家の横の電柱の陰から誰かが声を掛けてきた。


「栗平さん 抜け駆けはズルいですよ」

「え?」

「和泉さん・・・」


和泉さんがなんでここに?それになんで僕の家を知ってるの?


「和泉さんがなんで?それに抜け駆けって?」

「あ、こっちの話です。私も鶴間君に勉強教えてもらいたくって来ちゃいました。駄目ですか?」

「駄目じゃないけど・・・春姫にも言ったけど僕は通ってる学校も違うし川野辺の方が頭いい人多いと思うんだけど」


そう。学校としてのランクは春姫や和泉さんが通う川野辺高校の方が上だし進学校としても有名だ。多分僕なんかより頭がいい人もいっぱいいるはずなんだよな。


「わ 私も鶴間君に教えてもらいたいんです!」

「え?私も?」

「だって、栗平さんは鶴間君に勉強を教えて欲しいって頼んだんでしょ?」

「あ あぁそう言えば確かに」(それってやっぱり・・・)

「だったら私も良いですよね。栗平さんも構わないですよね」

「うっ うぅ・・・し 仕方ないわね」

「じゃ そういうことで鶴間君よろしくね!」


何だかよくわからないけど、春姫も了承したってことは和泉さんの勉強も僕が見ることになったのか?

今一つ納得のいかないところはあるけど、玄関でいつまでも話をしているわけにもいかないので、とりあえずドアを開けて家に入って貰った。


「じゃリビングで勉強会やろ。ちょっと着替えだけしてくるからソファに座ってまってて」

「うん」

「は~い」


部屋に入り部屋着に着替えながらあらためて考える。

話の流れから考えると2人とも僕に好意を持ってくれているんだよな。きっと。

・・・でもどうして急にこんなことになってるの?

特に春姫は、何で急に素直な感じになってるんだ?

まったくよくわからない。

でもまぁ引き受けたんだし、とりあえず勉強会はやらなきゃな。


と参考書などを選んでいると


「大和入るわよ」

「わぁここが鶴間君の部屋なんですね」


と春姫と和泉さんが部屋に入ってきた。


「っておい何で部屋まで来るんだよ。待っててくれって言っただろ」

「うん。でも参考書とか大和の部屋にあるんだし、こっちで勉強会やった方が効率がいいでしょ?」

「た 確かにやりやすいことはやりやすいだろうけど」

「私も鶴間君の部屋で勉強会したいな」

「和泉さんまで・・・わかったよ。じゃテーブル持ってくるからここでやろ」


僕は参考書を本棚に戻し物置から座卓を持ってきて部屋の中央に置いた。

それ程広い部屋でもないので、結構キツキツだ。


「狭いけど大丈夫?」

「はい大丈夫です」


と和泉さん。今更だけど春姫以外の女の子がこの部屋に入るのって初めてだよな。そう思うと何だか緊張する。

和泉さんも・・・俺の事が好きなのか?本当に?

とそんな気持ちを知ってか知らずか春姫が話しかけてきた。


「ねぇ大和。早速だけどこの問題の解き方教えてくれるかな」

「ん?どれだ?」

「この問題なんだけど」

「う~ん。これはだな数式をこの公式に当てはめて・・・」

「おぉなるほど。何だか大和の説明わかりやすいね。凄く覚えやすい」


またもや春姫が僕を褒めてくる。

何だかいつも罵倒されてたから調子が狂うよな。。。

でも、勉強会とか言いつつゲームでもして帰るのかと思ってたけど真面目に勉強するつもりなんだな。それなら僕もちゃんとやらないとな。


春姫は元々頭は良いので、問題のコツや考え方を教えてあげると応用問題などもすぐに出来る様になった。

和泉さんも成績は結構いいみたいで、説明に対する理解も早かった。

というか僕が教えなくても2人とも十分な気がするんだけど・・・


結局、男子1人に女子2人、尚且つ両親は帰りが遅いという状況にも関わらず、甘い展開は無くガッツリと数学や化学・物理などの勉強を行った。

そして時刻は20:00。


「そろそろお腹空いたでしょ?夕飯作るから台所借りるね」

「あぁ何だか悪いけどよろしくな」

「任せといて!」


と僕と春姫を交互に見ながら「わ 私も料理手伝います」と春姫の後を追ってキッチンへ向かっていった。


「うん!美味しい!流石だな春姫」

「ふふん もっと褒めて!」

「・・・悔しいですけど私が作るより多分美味しいです・・」

「ありがとう和泉さん」


その後は1時間程度お互いの学校の話など他愛もない世間話で盛り上がり今日は解散となった。


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