第8話 戸惑

試合を終え倉北のベンチに戻ろうと歩いていると、川野辺高校の制服を着た女の子が僕の方に駆け寄ってきた。


「つ 鶴間君! おめでとうございます!カッコ良かったです!」

「え?和泉さん?」

「わ 私の事覚えててくれたんですか?」

「ああ 中二の時に図書委員一緒にやったよね。和泉さん川野辺高校だったんだ」

「はい!運動は苦手なのでテニス部ではないんですが、たまたま用事だがあって学校に来たら鶴間君が居るのに気が付いて試合見に来たんです」

「そっか応援ありがとうな!」

「はい・・・・それで、、あの・・・」

「ん?どうかした?」

「よ 良かったらラインのID交換してもらえませんか?もっと鶴間君と色々お話がしたくて・・・・駄目ですか?」

「い いや全然構わないよ。ただスマホはロッカーだから後でいいかな」

「はい!じゃぁ後でお願いします」


まさかこんなところで知り合い。それも女の子に声を掛けられるとは思わなかったな。それに・・・女の子に連絡先の交換とか言われたの初めてだよ僕。


和泉さんと別れて倉北のベンチに戻ると藤沢が興奮した口調で話しかけてきた。


「すげぇじゃん鶴間!豪徳寺に勝っちまうなんて!

 あいつ川北中じゃシングルスの代表でダントツに上手かったんだぜ。それに何だよあの可愛い子。まさか彼女か?」

「ま まてよ落ち着け!さっきの人は中学の同級生だよ。残念ながら彼女とかじゃない・・・

 後、豪徳寺は調子が悪かったんじゃないか?何だか動き悪かったし」

「動きが悪い?」


何だか首を傾げる藤沢。

試合してる側と見ている側では見え方違うのかな?

正直、皆が言うほど豪徳寺って上手くは感じなかったんだよな。


「調子が悪いって言うよりは練習不足だな」

「あ、阿部部長。それに川野辺の二階堂部長も」

「お疲れさん。いい試合だったよ鶴間君。

 それにしても見込みのある新人が入ったな阿部」

「ああ。鍛えがいありそうだろ♪」

「だな。あ、豪徳寺のことだが、鳴り物入りで川野辺高校に入ったせいで調子にのって態度がデカい上に最近部活もサボり気味だったんだ。それに練習に出ても手抜きが多くてね。まぁ注意はしてたんだが中々言うこと聞かなくて困っていたところだ。そんな状態じゃ君に負けるのもあたりまえさ」

「そうだったんですね」

「まぁ荒療治だけど、鶴間君に負けて少しはやる気を出してくれるだろ。

 元々テクニックやセンスはあると思うから、そういう意味では次の大会くらいには君といい勝負が出来る様になってるんじゃないかな」

「ははは・・・お手柔らかに」


そうだよな。練習不足とかでない限り僕がストレートで勝てるわけないよな。

大会に僕が出れるのかはわからないけど、地道に練習しないと次は勝てないな。


1年の試合後は、2年生と3年生も試合を数セット行い今回の親睦試合は終了となった。倉北で部活に参加したときにも思ったけどやっぱり中学の部活とはレベルが違う。それにコンピュータ部とは違った楽しさもある。

阿部部長の誘いにのって正解だったかもしれないな。


着替えを終えた僕たちは、川野辺高校の校門前で軽く部長から今後の予定など色々と話を聞いた後、そのまま解散となった。


解散後、僕は待っていてくれた和泉さんのところに行って連絡先の交換を行った。何気に僕のスマホにある女の子の連絡先は春姫に次いで2件目だ。


「あ あの、メッセージとか気軽に送っちゃても大丈夫ですか?」

「え?もちろん構わないよ。折角IDを交換したんだしね」

「ありがとうございます!じゃあ早速後で連絡しますね!」

「あぁ じゃまたな!」


手を振りながら僕を見送る和泉さん。

もう少し学校に用事があるそうだ。

でも、和泉さんって中学の時はもっと地味目な感じだった気がするけど、結構積極的だったし何だか可愛いかったな。

僕に好意を持ってくれてる様には見えたけど、彼女くらい可愛ければ結構モテそうな気がするし、変な勘違いはしない方が傷は浅くて済むかもしれないけど・・・


にしても、女の子なんて春姫意外は接点がなかったし何だか緊張するな。


春姫・・・そういえば、結局春姫には会えなかったな。

有坂に聞いた限りでは、試合は男子だけだし女子は自由参加みたいだから来なかったんだろうか。テニス部でも孤立気味とは言ってたからな。


でも、もし彼女が試合を見に来ていたとして、僕はどうすればよかったんだろう。試合は勝ったけど春姫はどうせ僕を褒めることはないだろうし、また何かしらの理由をつけて罵倒してきたんだろうか。

正直、そんな春姫には会いたくないし口もききたくない。

それにそもそも僕は彼女に関わるなって宣言したんだよな。

だから、春姫もこの1か月僕に会いに来なかったはずだし、試合を見に来ていたとしても声をかけてこなかったんじゃ・・・・


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<栗平 春姫視点>


出ていくタイミングを逃してしまった私は、元居た木陰に戻り、あの女の事を考えていた。

大和に接点のある女なら多分川野中時代の知り合いだろうし・・・

川野中・・・そうだ思い出した。

あの娘って確か中学の時に大和に馴れ馴れしく近づこうとしてた女だ。

確かあの時は、大和に近づかないようにって脅かしたんだっけ?

でも、前はもっと地味な感じだったわよね。高校デビューのつもり?


何にしても私の大和に性懲りもなくまた近づくなんて絶対に許せない。

今日だってあの女が出てこなければ、私が大和と話をすることが出来たかもしれなかったのに・・・


大和は私と居るのが一番が幸せなのよ!

何で大和はそれがわからないの?

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