第5話 勧誘
春姫が、クラスで孤立している?
あのいつも偉そうにしてた春姫が?
・・・嘘だろ?
でも、小さい頃のあいつは、怖がりでいつも強がってたからな。
罵詈雑言も強がりの裏返しってことは俺もわかってる。
ただ、あいつは限度を超えたんだ。僕にも我慢の限界はある。
とはいえ、始業式の日は、ちょっと強く言いすぎちゃったかもな。
あいつ、もしかして泣いてたのかな。
いや、あいつが泣くはずない。
それに僕はもうあいつとは関係ないんだ。
学校も違うんだし構ってやる必要だってないんだ・・・・
それに有坂の話を聞いてる限りは自業自得だろ。
仲が良かった下北さんや船橋さんに愛想付かされたって仕方ないさ。
・・・でも何だろう。あいつが辛い思いをしてるって聞くと何だか心が痛む。
・・・僕はあいつの事を嫌いになったはずなのに。
--------------------
翌日、授業が終わり部活へ行くために教室を出ようとしたところで、僕は背の高いちょっと見た目カッコいい人に呼び止められた。
「君が鶴間 大和君かな?」
「は はい。そうですけど」
ネクタイの色が緑。3年生の先輩?
この学校では学年ごとにネクタイの色が違う。今年の場合は赤が1年、青が2年、緑が3年生だ。
1年の教室に3年生が来るのは珍しいらしく、他のクラスメイトも僕らのやり取りに注目している。
「失礼。名乗ってなかったな。
俺は3年C組の阿部 直人。テニス部の部長をやってる。
鶴間君は川野中でテニス部だったんだろ?高校ではテニスをやらないのか?」
部活の勧誘かな?
でも僕はコンピュータ部に入ってるし今更テニスは・・・
「中学では友達の付き合いで入部してたんです。高校ではコンピュータ部に入るって決めてて、この後も部活なんですよ」
「そうか・・・でも折角才能があるのに辞めてしまうのはもったいないとおもうぞ?兼部でもいいからテニス部に入ってみないか?」
才能って・・・僕のテニスの腕前は大したことないって散々春姫に言われてたし、そんなに評価されるほどじゃないと思うんだけど。
「僕、そんなにテニス上手くないですよ?」
「そんなことはない。中学3年の時に県大会に出てただろ?」
「はい。出ましたけど2回戦で負けました」
「2回戦で君に勝った子が大会の優勝者だ。君はあの子と接戦だったじゃないか。僕も試合を見てたけど、基礎もしっかりしてたしセンスもある。ちゃんとしたメニューで練習すればもっと上手くなれるはずだ。
コンピュータ部と兼部で週3日、いや2日でも1日でもいいから一緒にテニスをやってみないか?」
僕にテニスの才能があるって?
自分ではそんな事考えたこともなかったけど・・・人に褒められるのは初めてかもしれないしちょっと嬉しいな。
それにそこまで僕の事を評価してくれてるのか。
「う~ん。入部してもいいですけど、兼部となると部長の許可もいりますよね。とりあえずコンピュータ部の部長に聞いてみます」
「おお!!ありがとう鶴間君。
でも大丈夫だ。コンピュータ部の部長って藤崎だろ?」
「はい。藤崎先輩ですけど・・・」
「あいつもテニス部と兼部だ。テニス部を強化するのを文句言うはずがない!」
「そ そうなんですか?」
「そうだ。それに僕も一応コンピュータ部に籍を置いててな。今学期はまだ顔出してないけどちゃんと活動もしてるんだぞ」
何だかよくわからなくなってきたけど阿部先輩と藤崎部長は、コンピュータ部とテニス部を兼部してるって事か?
藤崎先輩はなんというかパソコンが似合う雰囲気の人だけど、阿部先輩は陽キャというか普通にイケメンキャラだよな。パソコンよりテニス部が断然似合う。なんでこの人がコンピュータ部に?
「は はぁ そういうことなら入部してもいいですけど、本当に僕下手ですよ」
「君は随分自己評価が低いんだな。もう少し自信を持っても良いと思うぞ」
「はぁ・・・」(自信なんて・・・・)
「まぁいい。早速だが今週末に川野辺高校との親睦試合があるんだ。
君にも新人枠で出てもらうから明日はテニス部の方に出てくれ」
「ええ!!いきなり試合するんですか!」
ちょっと待ってよ部長さん。入部するのは良いとしてもいきなり試合デビュー?
僕なんかより上手い人沢山いるでしょうに。
「まぁ試合って言っても高校同士の親睦も兼ねた交流戦だからな。気楽にやってくれて大丈夫だよ」
「そ それならいいんですが、他の部員の方は居ないんですか?」
「1年生は君を入れて8人だ。サッカー部やバスケ部に比べれるとだいぶ少ないが、去年は5人だったからまぁ増えた方だ。
・・・うちの高校はな、サッカーやバスケ、陸上は他県から人材をスカウトしてきたりと予算を割いてるのにテニス部は予算が少ないんだよ。単に校長が毛嫌いしているだけらしいけど、コートはあるものの部員は少ないし実績がなかなか出せていないんだ。
だから、外部の支援が期待できない今、君の様な才能ある子に頑張って欲しいんだ!」
「は はぁ・・・・」
僕の目を見て熱く語る部長。
何だか期待が重いなぁ~
今から『やっぱり入りません』は・・・多分無理だよね。
ん?でも川野辺高校と試合? 有坂達と試合するのか。
それはそれで面白いかな。
それにうちは男子校だから女子テニス部は来ないかもしれないけど、もしかしたら春姫も試合を見に来るのかな・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます