スプライト編 支部での3
「今回の件は君たちを危険に巻き込んでしまって本当にすまないと思っている」
マークは頬に出来た傷とその生きてきた証でもあるかのような皺をさらに増やし、申し訳なさそうに言った。
「いえ、今回の失敗は自分たちの責任です」
「そう、言わないでくれ。私の立つ背がなくなってしまう」
マークは苦笑いを浮かべながら持田たちを見る。
「今回は特殊な件だ。私もどう判断していいものかと悩む節ではあるが、君たちに責任は負わせられない」
マークは遠い目をしながら言った。
しかし、持田はなんとなく芝居がかってるなと思いつつも、気をつけの姿勢を保ち続けた。
横目で白石を見るとやはりいつもと変わらない喜怒哀楽のない表情。
持田は視線をマークに戻す。
「しかしながら任務から君たちを外すことは出来ない。それだけは分かって欲しい」
「「了解しました」」
持田と白石は感情はこめずに淡々と答えた。
マークはソファから身を起こし姿勢をただすと、両肘を机の上につき顔の前で両の手を拝むように組む。
持田は本題に入ってきたなと思った。
「話が反れてしまったが君たちを呼び出したのは今回の件の内容についてだ。フェイ君、彼らに資料を」
「はい」
マークの斜め後ろに立っていたフェイは両手で抱えていた書類をファイルから取り出し、持田たちに渡す。
「今回の資料はこれです」
持田と白石は渡された資料に目を通す。
渡された資料には一人の男性の顔写真が添付され、その男性の説明と思しきことが記入されていた。
持田は男性の顔写真を見てみる。
金髪というよりも銀色に近い髪を短く剃りこみ、薄い唇を真横に引き締め、表情は硬い。
いかにも軍人というような精悍な顔つきをしており、体は写真からでも筋骨隆々なのが見て取れた。
何年も前に取られた写真なのか少し色あせ、時間の経過を感じさせる雰囲気が出ていた。
資料にざっと目を通し、重ねられた資料をめくる。
そこにはもう一枚、写真が添付されていた。
最近、撮られたものなのか、鮮明に対象の人物が映し出され、写真の横には被写体となった人物の名前が記載されていた。
《ゲオルギー・アフィツェール》
資料から顔を上げると持田は疑問を隠そうとせず、マークに質問した。
「この資料に書いてあるこのゲオルギーって男と今回の件で何が関係あるんですか?」
マークは一泊おき、一呼吸入れる。
「今回、秀長聡の逃亡に関与していたと思われるのがその男だ。続いてR-TYPE002に君を襲撃させたのも彼の可能性が高い」
持田と白石は顔を見合わせる。
「この男は何者なんですか? あのライノセラスは試作段階のモデルだったとしても民間人が持てる代物ではないはずです」
「今の段階では詳しく何者かはこちらでも把握できない。情報収集に長けた能力者を数人、活動させているが中々、手ごわくてね。今の段階ではゲオルギーはロシア軍に所属していたということだけでそれ以外、掴むことが出来ない」
「誰かに邪魔されているということですか?」
「そういうことになる」
マークは獣のようにするどい瞳を細めると短く息をはいた。
「それに関してもう一つ、フェイ君。説明をお願いできるかな?」
側にいたフェイに何か手で合図をする。
するとフェイは一歩前に出て資料をめくる。
「失礼します。それではお二人とも資料の三枚目を」
フェイは持田と白石に促すと口を開いた。
「今回の作戦が遂行される三日ほど前、秀長は××市△△町のある場所にいることが確認されました。秀長聡を追いかけていた能力者の報告から本人であると確認できました。しかし、確認した次の日から足取りが消えていました。そして今回、作戦が開始される前日、作戦で進入した屋敷に入るのが目撃され、その際、動向して屋敷に入るゲオルギーが目撃されています。時刻などの詳細は資料に書かれています」
以上ですと切り上げるとフェイはマークの後ろに下がる。
「私たちが作戦を考える前に彼に情報が筒抜けだった可能性は十分ある。彼を捕まえなければ秀長の足取りは掴むことはできない。そこで次回の任務は秀長を捕獲、主とし付随してゲオルギーの捕獲も同時に行なう」
持田は読んでいた資料を閉じ、手を後ろに回し、休めの体勢を取る。
「次の任務も君たちの力を貸してもらう。大丈夫か?」
持田はマークが大丈夫だと聞いたのは任務への参加は強制という含みがこめられているんだろうと考え、内心で呆れた。
しかし、顔には出さずに彼は休めの状態を解き、姿勢をただし、敬礼をする。
隣の白石も同じように敬礼をする。
「大丈夫です。持田、白石、共々、全力を尽くします」
「ありがとう。任務の期日が決まりしだいすぐに連絡をよこそう」
マークはソファを横に向ける。
「忙しい中、呼び出してすまなかった。以上だ。もう退出してくれてかまわない」
「室長、退出する前に次の任務に関することでお願いがあるのですが」
マークは厳格な表情のまま持田に向き直る。
「なんだ?」
「轡ちゃんを次の任務で僕の部隊からはずしてもらえませんか?」
持田の要求にマークとフェイはお互いに顔を見合わせた。
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