スプライト編 支部での2

持田は困っていた。

特に用はないのだが彼に話しかけたのが間違いだった。

「大丈夫だ。オマエなら何があっても大丈夫!」

持田はこの目の前で自分の持論を語るこの男が苦手だった。

彼の前で語る曳船武蔵の目には熱がこもり、どこか彼の世界に入っていた。

「だからもう済んだことだから別にもういいさ」

 持田はやっぱり間違いだったと思いながら答えた。

しかし、曳船武蔵は引き下がらない。

「そんなんじゃダメだ! 諦めているのと同じだ! 次に奴が出てきたらどうする。 そんな逃げ腰じゃ、負けてしまうぞ」

持田は呆れつつ、武蔵がこういう奴だと改めて思い返した。

曳船武蔵は持田と同じ組織の人間であり、この組織内で唯一、同い年の能力者だった。

持田の力は火炎放射能力、そして武蔵は念力能力(テレキネス)を持つ。

持田は、頬をかきつつ、呆れを含んだ口調で口を開いた。

「分かった。君の言うとおりだよ。次は負けないよ」

「そうだよ。オマエはそこで諦めちゃいけない奴なんだ!」

武蔵は手を握り締め、力をこめる。

持田はうんざりしながら腕時計を見る。

「悪いね、武蔵。もう時間だから僕はいかなくちゃならない」

「待て、持田。まだ反省できるところはある」

持田は武蔵の言葉をさえぎり、そのまま席から立ち上がり、手元においてあったコーラを飲み干す。

「ゴメン、また今度、模擬戦しよう」

持田はそのまますぐに足を別の方向へと進ませる。

「まて、話は終わっていない! オイ、聞いているのか!」

彼の後ろでは武蔵が廊下で咆え、席を立ち、拳を握っていた。

武蔵を無視し、エレベーターへと向かう。

持田は下の階を示すボタンを押す。

するとすぐに扉が開き、彼はエレベーターへと乗り込む。

扉が閉まり、目的の階を押す。

「本当にアイツは疲れる奴だよ」

持田はポツリとつぶやいた。

「それが嬉しいんでしょう?」

何処からともなく声がした。

「おわっ! 優ちゃん!」

持田は反射的に振り返る。

彼の後ろには白石優が立っていた。

「驚かさないでくれよ。優ちゃん」

「私は貴方が乗ってくる前からいた」

白石は顔色一つ変えることなくつぶやいた。

「そうなのか。気がつかなくてゴメンよ」

持田は苦笑いを浮かべ白石に言った。

白石は反応することなく、ただ黙り込むだけ。

彼は前を向き、エレベーターの階数が下がっていくのを見ていた。

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