スプライト編 支部での
視線を他に移せば暗く先の見えない深い闇がところ所々に広がっていた。
通路には行き先を示す光がその方向にポツリポツリと光っている。
天井にはパイプが延々と続き、生き物が絡み合うようにも見える。
そんな暗闇に足音が反響し先の見えない通路へと消えていく。
一つはヒールの甲高い音。
もう一つは革靴のすれる音。
音は一定のリズムで光が示す方向へと進んでいき、消えていく。
「轡のデータ収集は完了いたしました。ファイルはパソコンの方に移動させておきました。それから持田健人のことなんですが」
ヒールを履いた主は片方の人物に向かい、言った。
黒く艶のある髪を束ね、東洋系アジア人特有の切れ長の細めをさらに細め、ファイルを覗き込む。
「彼の体調に今のところ変化はありません。ただ細胞の老化速度に問題が…」
「そうか。それなら彼女にまかせよう」
もう一人の人物は短く言葉を放ち、黙った。
「了解いたしました」
ヒールを履いた主、フェイ・リーチーも同じように短く言葉を発した。
「ところでボス。秀長の件なんですが……」
「話は聞いている。 今回の件を踏まえて次の作戦に備えることが先決だ」
ボスと呼ばれたマーク・ペドラーは大きな傷が付いた頬を動かすことなく言った。
「秀長の件は情報担当班に任してある。情報が入り次第すぐに、取り掛かる」
「わかりました」
数分後は二人は目的の場所に着いたのか、何もない壁の前に立つ。
フェイは標識、落書きさえ、書いていない壁に手を開いたまま当てる。
彼女が手を当てた場所、何もない壁にうっすら光がともる。
手のラインをなぞるように光が移動する。
光が消え、何処からか機械で模した女性の声が聞こえる。
《認証しました》
壁に線が入り、壁だったものは動き、人一人が通れるほどの空間が出来る。
二人はその中に入っていく。
中に広がっていたのはサッカーグラウンドほどある巨大な空間だった。
その空間には何十人ものスーツを着た人間がひっきりなしに動いていた。
床は銀色に統一され、三メートル近くもある作業用のデスクが二十ほど等間隔に並べられている。
部屋と呼ぶには大きすぎる空間の一番端の真ん中。
人の身長を優に越したディスプレイがそこに立てられていた。
マークは秘書であるフェイの隣を横切り、室内に入る。
彼は室内に入ると何かを探すようにあたりを見回した。
フェイは眼鏡の端をつまみ、持ち上げマークと同じような動きをする。
するとその姿に気がついた一人のスーツを着た男性が足を止める。
男性は顎を後ろに引き、直立してマークとフェイに向かい、敬礼をした。
マークとフェイは気にせずに止めていた足を動かす。
すると光景を見ていたほかの人物たちもマークの方向に向き敬礼をし始めた。
席に座り仕事をしていた者も、作業をとめ立ち上がり次々に敬礼をする。
いつの間にかフロアにいる者、全て彼に敬礼をしていた。
しかし、マークとフェイは気にすることなく。室内の右手にあるエレベーターへと足を進めた。
エレベーター内に入るとフェイは操作盤の一番したにあるB11のボタンを押す。
扉が閉じるまで彼らに対し、敬礼をしていた。
エレベーターの扉が閉まり、稼動音だけが響く。
間隔の開いたか回数表はだんだんと下がっていく。
「フェイ君」
「何でしょう、ボス?」
「聞き忘れたが、もう一人のターゲットの行方はつかめたか?」
「申し訳ございません。まだ捜索しております」
フェイは淡々と答えた。
「そうか。情報が分かり次第、私のところに持ってきてくれ。解析にまわさずにな」
「……。了解しました」
二人の会話はそこで終了し、それが合図かのように目的の階に到着し、扉が開く。
扉が開くと今度はテニスコートほどの大きさの空間。
底には仕切りのための壁があり、ちゃんと一つずつ、部屋になっていた。
マークは一番奥に面した部屋へと向かう。
その後ろにフェイが続く。
「ではフェイ君。彼が到着したら私のところに来るように伝えてくれ」
「了解しました」
フェイは手帳を取りだすとそこに何かを書き込んだ。
「他に用件はありますか?」
「ないな。君の仕事に戻ってくれ」
フェイは彼に一礼すると奥の部屋の前に設置された席へと向かった。
マークはそのまま奥の部屋へと消えていった。
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