第3話 回想は傷をえぐって

「おい!桜川ッ!!いつまで寝てる気だ!」


春の穏やかで暖かい日差しが差し込む教室に大きく響く声。

それは夢から覚め、寝起きの気持ちの良さすらもどこかに消し飛ばしてしまった


寝ぼけまなこを擦り体を起こそうとする


今考えると当時はいちいち構ってくるのか分からず嫌いだったが、久々に聞くと僕を怒ってくれる人なんて中々居なかったから新鮮なき気もしてくる。それにあの先生は僕を心の底から心配し、それで怒ってくれていた。今考えるとなんて有難いことだと改めて感じさせる。

まぁ、それも過去のことだが


ん?ハゲ担任こと、田島 彰たじま あきらが教鞭を取っていたのは中学3年まで。

それも、3年の1年だけそれまではほかの学校で教えていたのだとか

たしか定年を向かえ僕達が最後の生徒だったと......。


まだ寝ぼけて霞んでいた意識が急激に覚醒していく。

ガバッっと起こした顔で見えたのは、懐かしい1年前の我が教室。光見代ひかりみだい中学校3年1組の教室だった。


「......はっ......?」

自分でも聞いたことも無いような間抜けな声が口からこぼれる


「なんだ?桜川、体調でも悪いのか?」

僕の青ざめた顔を見て、柄にもなく心配する担任。


そして、この瞬間に急に理解した。いや、

あぁ、またこの夢か。と


それもそのはず。この夢は僕のトラウマだ。

僕の過去の汚点だ。

だが、見たくない景色のはずなのに、脳裏に焼き付いてしまったが最後、延々と見させられる。エンドロールがない映画なんて地獄と言わずして何と言うのだろうか。


一生見させられる映画など拷問にしかなりえない


担任の声がぼんやりしていく中、教室の端っこで見た目もヤンキーそうな女子3人がこちらを見てニヤけてる


この瞬間に、またもや心臓を直接掴まれたような強烈な不快感と、恐怖の感情が僕を襲った。


そいつらは呼吸が荒くなる僕を見ては心底愉快そうに笑っている。


今にも張り裂けそうな心臓を抑え、担任に保健室に行くと伝え教室を出たところで、僕の意識は途絶えた


「んっ......」

ぼやけた目を擦りながら瞼を持ち上げる

次に見えたのは知らない天井だが、おそらくココは保健室である事を察した


親切な誰かが送ってくれたようだ。

それに、僕の悪い噂は学校中に知れ渡っているはずなのに、まだ助けてくれる人がいたとは......。

新品であろうベッドは、うなされていたのか大量の汗で軽く水浸しだ


汗を意識した途端、汗を吸ったワイシャツが不快に感じ急いで脱いだ。

汗を拭くものがないかと周りを見ると枕元にご丁寧に綺麗に畳まれたタオルがあったので拝借しコレで体を拭いていく。


まとわりついていた不快感はタオルのお陰でなくなり、身がスっと軽くなったように感じた。


ベッドを仕切るカーテンをどけ、保健室を見渡すが誰もいない。

しょうがなく、不快ではあるが先程のワイシャツをもう一度羽織はおり、代わりのワイシャツがある自分のクラスまで帰る


ふと、廊下を進んでいると時計が目に入った。が時刻はもう5時を大きく過ぎており、道理で、校舎内が静かな訳だと独りごちる

空は夕焼けに染まり、校内放送もそろそろかかるであろう。その前にさっさと帰ってしまいたいが......。

クラスに無事つき、教室のドアを開けると先程のヤンキー達が教室内でギャアギャア騒いでいた


「あぇ......?おっ!ネクラくんじゃーんw

体調大丈夫ぅ?w」


「え?なになに?w私らに虐められる為にわざわざ帰ってきてくれたの?w えー!やっさしいー!www」


「ぎゃはははは!www 何それw 超ウケるんですけどーw」


こっちは何も面白くはないというのにヤンキー達は勝手に盛り上がっていく


中学3年の夏。僕はイジメを受けていた。

それも、かなり陰湿なイジメだ。


事の発端......いや、事が大きく動いたのは去年の夏。

そう。今日みたいな夕焼けが綺麗な放課後のことだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あっ、あの......!貴方の事が好きです!

こんな私ですが良ければ付き合って下さい!」


僕は去年の春に生まれて初めて告白された。

相手は同じクラスの女子の柏田 美優かしわだ みゆ

顔も可愛く、性格も良いという完璧っぷり。いや、成績はあまり良くは無いがそこが彼女をより身近なものとして感じされてくれる。


そして、僕はそんな彼女の事が以前から好きだった。なのでスッカリと浮かれてしまって、その告白を受けてしまったのだ。


それが後に自分の事を苦しめるがんとは知らずに......。


次の日から学校は僕達の噂で持ち切りになった。それはそうだろう。学校のトップ3には入る美少女と、全てが平々凡々とした僕。

そんな異色のカップルができてしまったのだから。

当然ながら、陰口や多少のいじめは受けたが僕は幸せの絶頂だった為、気にならなかった。

しかし、僕の事をよく思わない奴らが増えたのは事実であり、流石にやっかいだなと思い始めた頃......

事件は起こった。


クラスの女子の持ち物が消えたのだ。それもシャーペンや消しゴムなど小さなものでは無い。

カバンそのものがキレイさっぱりと消えてしまった。

学校は、ただのイタズラだろうと面倒臭いのか片付けてしまったが、これはほぼ毎日続いた。


男子の者は取られず、あくまでも女子の物だけという所も引っかかった


そして、時は流れ夏になり、プールの授業の時。僕は体調が悪くなり、1人で保健室に向かった。

1時間後にプールが終わり、自分の教室に戻ると、皆の蔑むような冷たい視線が僕を刺してくる。


なぜ僕が皆に睨まれているのか分からないうちに副担任の先生が来て校長室まで連れていかれた。


校長室に着くとそこには担任と、教頭、校長の3人が静かに立っていた。


そして、開口一番に校長が、「桜川君。今回のことについて、何か言い訳はありますか」と、こちらも冷めきったような声。


ますます混乱した僕は、「な、なんのことでしょうか?校長先生。私が何かしましたか?」と答えると


「ふむ......。ここまで来て、しらを切るか、桜川君。君には道徳心という物がいよいよ無いらしい。いいだろう。自分の口から言わないのなら、私が言ってやる。

ここ数ヶ月で女子生徒の私物。及び、貴重品や下着まで無くなっているのは知っているだろう。私たち教師陣も学生を守るのも仕事であるからして、それ相応に調べていたんだよ」


それが僕になんの関係があるのかさっぱり分からないが、話は怪しい方に動いていく


「それでね。プールの授業では、出席者全てが水着に着替えをするだろう。そこを犯人は狙うのだと私は思い、水泳を担当する先生に注意をと言っておいたのだよ。

そうしたら、今日。桜川君。君が授業を抜けた。」


「いや、校長先生!もしかして僕を疑っていらっしゃるんですか!? 僕はやっていないし、実際、どこを探してもそんなもの出てくるわけがないでしょう!」


「桜川君。君の気持ちは分かるが、いい加減認めたらどうなのかね。君は出てくるわけがないと言ったが、実際出てきたのだよ。君のバックの中から、女子生徒の下着がね!」


嘘だ......!

「そんなの嘘です!? 誰かが僕を嵌めようと僕に罪をなすり付けたんです! 先生!信じてください! 僕はやっていないんです!」


................。その後、結局僕はまんまと犯人の嘘に嵌められ、女子生徒の私物を盗んだ変態で気色の悪い犯人に仕立てあげられた。


そこからの転落っぷりは流石の僕でも笑えてしまったよ。

クラスの女子、男子からは陰でコソコソと陰口を言われ、今まで話していた友達は直ぐに離れていった。

彼女からも冷やかな視線と別れを告げられ、学校での立ち位置は、可愛い彼女がいた時の勝ち組から最底辺まで叩き落とされた。


順風満帆に行っていたはずの学校生活は今や 灰色......いや、真っ黒だ。


そして、僕が人間不信になるにはそう遠くなかった。




この話と、不良の話。なんの関係があるのかみんなにはさっぱりだろう。


だから、先にネタばらしをしてしまおうと思う。

女子生徒の物を盗んで僕になすり付けたのは、


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拝啓 ドン底の僕と最高の君へ サケノキリミ @sironeko-2872

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