2-8「目には目を」
「海野さんがこの事件に関わってるって……え? だって無関係じゃ……」
「関係があるから、こうして呼んだし、彼女も来てくれた。ただ、いきなり真相を話してもよくわからないだろうから、まず自分がなんで彼女を呼ぶことに至ったか、その経緯から話させてもらう」
私はそう言ってスマートフォンを取り出し、海野沙織とのやり取りを香織と堂崎に見せた。益子美紗は覗かなかったが、様子から察するに彼女もロジカルに理由を察したようだった。
海野沙織とのやり取りでは、海野の大切なものを六城たちに盗られたことを始め、本来なら海野と六城達しか知り得なさそうな事にまつわる会話で埋まっていた。
「……小春は何で、六城たちが海野さんのそのスケッチブックを盗ったって分かったの?」
「正直言うと、盗られたのがスケッチブックだとは知らなかった。ただ肝心なのは、海野沙織さんはどうも堂崎さんたちのグループに対して、少なからず嫌悪感を抱いていたということだ」
「あたしらに嫌悪感?」
「私たちが捜査中に初めて海野さんに出会った時、海野さんはやたらに堂崎さんに恐怖心を抱いているようだった。凄く顔色悪かったし」
今見てみると、スケッチブックが戻ってきたからか顔色は少し良くなっていた。顔色を確認した後、益子が話す。
「今は顔色がよさそうだね。たしかに最初に会った時は土みたいな色だった。だけど、そうだな。堂崎さんは結構フランクに話しかけていたね」
「わ、悪いのかよ馴れ馴れしかったら」
「重要なのはそこじゃない。そうだろう? 四谷くん」
「はい。堂崎さんは特に気にするわけでもなく話しかけていたのに、海野さんはかなり委縮していた。この二人の関係性がまず私の気になったポイントだった。きっと、堂崎さんの知らないところで、海野さんが堂崎さんに悪い印象を持つきっかけがあったはずだ」
「そのきっかけが、六城くんたちによる、海野さんのスケッチブック強奪事件だった、というわけだね」
「もちろん、スケッチブックが強奪されて無くても、六城さんたちが海野さんに何らかの悪質な行為を働き、結果的に堂崎さんにも敵意を向くようになったと考えた。ここまではあっているかい、海野さん」
黙り込んだままだった海野が、ぼそぼそとしながらも話し始めた。
「そ、その。だいたい……合ってます。スケッチブックを盗られて……中まで見られて……。それで、あの二人、堂崎さんにも見せてやろうって、そういって持ってっちゃって……」
「ま、待てって! あたしスケッチブックなんて知らないんだけど!?」
「当たり前だ。だって見せられてないんだから。見せようとした矢先の、あの万引き騒動だったんだ。けど、海野さんは既に、見せられたものだと勘違いしていた」
「……その、ど、堂崎さんの鞄の中に……スケッチブックが入っていると、思ってたんです」
「え……いやでも、あたしの鞄の中にはスケッチブックだなんて……」
「そう。そのタイミングで本当に堂崎さんの鞄の中に入っていたのは、盗まれたコンシーラーだったんだ」
「ま、まって小春、ちょっとこんがらがってきたんだけど……」
「よし。ここからは時系列に沿って説明する」
私は事前に断りを入れ、その場に落ちていた枝を時間軸に見立て、話を進めた。
「万引き騒動前、六城と保屋は、海野さんからスケッチブックを強奪した。その際、堂崎さんにも見せつけるなどと発言したため、海野さんは堂崎さんが持っていると勝手に勘違いをした」
「海野くんの説明の通りだね。そして?」
「そして、ドラッグストアに堂崎さんたち三人が入店。遅れて海野さんも入ってきた。このとき制服ではなく私服で、端から見たら海野さんだとは分からない状態だった。実際に堂崎さんはいたことに気付いていなかったしね」
「あー……そういえば海野がいたって話した時、あたしは見なかったって答えた気が……」
「君たち四人がドラッグストアにいる間に、六城と保屋は二人で画策し、コンシーラーを盗んだ。この時盗った物が、図らずも防犯タグの機能が失われた不良品だった。二人は万が一盗んだことがばれたときのスケープゴートとして、堂崎さんを選んだ」
「それで堂崎のバッグの中にコンシーラーが入ってたって言ってたのか……。ん、でもまって小春。鞄の中からは結局何も出てこなかったんでしょ? じゃあそのコンシーラーはどこにいったのよ」
「……わ、私が……盗っちゃったんです」
もじもじしながら海野が告白した。香織と堂崎は目を点にして海野沙織を見つめる。ここまではっきりと、思考停止した表情というのは初めて見る光景だった。
「海野沙織さんはその後、スケッチブックが入っていると思っている堂崎さんのバッグを、自分のバッグとすり替えて持ち帰ったんだ。だからあの騒動の時、実際に警察が開いて確認したのは、堂崎美琴のバッグではなく、海野沙織のバッグだったんだよ」
「……あ! じゃあさっきのコンシーラーの出所って……!」
「その……私がずっと、持ってたんです……。その……」
そう言って、海野沙織は一緒に持ってきていたバッグを堂崎に差し出す。そして、中を見るように促した。促されるままに堂崎がバッグを開けて確認すると、堂崎美琴の生徒手帳が見事にその中から出てきたのだった。
「……マジであたしのバッグじゃん……」
「そして、これが堂崎さんの万引き騒動に繋がってくるわけだ」
私はそう言って、話を再び万引き騒動に戻した。
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