#4-5
再び賭け事に敗けたブルーノに、騙されて連れてこられた青猫レストランで、店から出てきたばかりのシアメーセに、ノワールは開口一番つめたく問われる。「あらやだ、あの小娘と仲直りしたの?」
「なにを知っているんだ」とノワールがついぽろりと零し、それをふふんと鼻で笑うシアメーセを見やって、ブルーノが首を傾げている。「何の話だ? 仲直り?」
「良いんだよ、ブルーノ。とりあえず、お義兄さんの魂胆は見え見えだから、別の店に行くよ。ここなら俺が嫌がるだろうし、店に入らずに済むとでも思ったんだろう?」
「なんだ、いつから分かっていたんだ……」
「最初からだよ」とノワールが笑うのを見て、シアメーセはつまらなさそうに長い白髪を掻き上げる。「揺さぶればなにか起こるかと思ったのに、つまらないわね」
その言葉をきいていたノワールが、シアメーセを見て微笑む。「なにか起こりはしたよ、その節はどうも」
「なによ、そのすっきりした顔?」
「これは、オペラとの秘密だからね」
「ふたりの秘密ってわけ? 面白くないわね」とシアメーセが不機嫌にいうのを、ノワールはいつもの声で笑いながら、柔らかく見つめている。シアメーセは、「腑抜けた顔はやめて」と頬を膨らませ、肩にかけたファーに細い指を絡めて、「まったく、つまらないったらないわね。罠にかけようとしたつもりだったのに、私が罠にかかるなんて」
「罠って言い方はないんじゃない? 俺は罠なんて準備してないよ」
言い合うシアメーセとノワールに、「……ちょっと待ってくれ、ノワール、何の話をしているのか、俺にはまったくわからないんだが」とやっとブルーノが問う。しかし、それに対して、シアメーセは不機嫌に、ノワールは彼に珍しく、この兄に対してひどく愛想よく「なんでもない」と言ったきりだった。
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