第6話 腐女子種田
「で、結局振り出しに戻ってしまったと」
「はい」
瀬川の証言によりまた怜が犯人になる疑いが出てきてしまった。なんとか怜が犯人ではない状況を考えようとしたが、鍵を持っている以上犯人の可能性が濃厚になった。
「証言が出てしまった以上、安藤が犯人であるのは決定的だな」
「で、でもその鍵が本物の鍵ではなかったら? 犯人が俺たちが着替えている最中にこっそり鍵を入れ替えて、本物とすり替えたら」
「それはない。鍵を回したらちゃんと閉まったからな。鍵は本物だ。第一、授業が終わったあとに戻ったときどうやって鍵を戻したんだ」
そうだ。男子の鍵を渡したのは直本人だ。そして部屋を閉めたのも直。そしてこいつが体育館から出ていったことはない。
「じゃあ、逆に犯人は女子じゃなくて着替えていた男子がカメラを仕掛けたとか」
「それは俺も考えた。だけどカメラが仕掛けていたのは入り口のロッカーの上、そこにこっそり仕掛けているなんて誰か気付くはずだ」
どれも考えとしては苦しく、ことごとく論破されてしまった。
「頼むから安藤と離れたほうがいい。でないと身を亡ぼすことになる」
ポンと肩に手を置いて去り際に前と同じことを吐いて教室へ戻っていった。
絶対に別れるかよ怜が犯人だなんて。けど、完全に手詰まりの状態、残っているのは種田の証言だけだ。
ふらっと教室に戻ろうと入った時、目的の人間が目の前にいて驚き飛びのいた。
「うぁお。種田、なんでこんなところに」
「えー、その。……三角関係による痴情のもつれを観察に?」
「……三角関係って、まさか直が怜のことが好きということ?」
「いえ、私としては久米君×三城君だと私は思われて。あっ」
口が滑ったように種田の目が点になると、脱兎のごとく逃走を図ろうとしようした。そうはさせないと、種田の首根っこをつかみ上げた。
「ちょっと待て」
「すみません。どうか私の脳内妄想がいたしたことなのでご勘弁を」
「それもあるけど、この前の体育のことについて聞きたいんだ。あの時トイレに行った時どこにいた」
ぐっと種田に顔を近づけて聞き出そうとすると、種田はあわあわとしながら、答え始めた。
「もしかして盗撮があった日ですか? あの、私じゃないですよ。たしかに脳内妄想してしまうことはあります。ありますが、実行に移すまでの勇気はありませんし、それに鍵ももらっていませんでしたから」
「じゃあトイレに行った時に西田さんが清掃していたところ見ていたか?」
「清掃? たしか体育の時間から十五分ぐらいだったか、瀬川さんと入れ替わりにトイレに行った時に、西田さんが清掃中の看板を引き払っていたのは見ましたよ。他にトイレを使ってしました女子も目撃してました。私に犯行は無理ですよ」
全く駄目だ。種田が犯人説は第三者の人間が複数いる。これでは犯人が怜になってしまう。つかんでいた手が緩むと、種田は襟元を直して「では、私はこれにて」と立ち去ろうとした。
「待て、俺と直の関係がなんだって?」
「あっ、そこ蒸し返すのですか」
「当然だ。イッ」
背中に何か固いものが突き立てられて、ひるむとその一瞬の隙をついて種田は逃げ出してしまった。そして俺に突き立てたのはボールペン先で、その犯人は怜だった。
「あのさ怜。なんでペン先をツンツンするんだよ」
「だって勇樹が冷たいだもの。こうすれば勇樹の気がこっちに向くと思って」
「俺の背中は給湯器のボタンじゃないぞ」
***
怜と一緒に家に帰ると、お互い焦燥しきった顔になっていた。怜のは疲れで、俺のは焦りでだ。
「犯人の目星全くつかなかったね」
「たぶんこれじゃ来週も座学かもな。あーあ、座りっぱなしだなんてだるいよな」
ソファーに転がりながらごまかしたが、座学になるとか正直どうでもいい。このまま犯人が怜となってしまえば、あいつのクラスでの立ち位置が危うくなる。そして直の言う通り、俺の立ち位置も悪化する。まだ一ヶ月も経っていないというのに、なんでこんなことになったんだろう。
怜と付き合って幸せの絶頂に立っていたのに。これからバラ色の学校生活が送れると思っていたのに、盗撮だのヤンデレだので完全に崩れてしまった。
「勇樹」
「ん?」
「もしかして私が犯人だと疑っている?」
衝撃の言葉にソファーから転がり落ちると、怜の手には包丁が握り締められていた。それも台所には食材がひとつも置いていない状態でだ。
「な、なんで包丁持っているんだよ」
「だってこうするしかないもの」
怜は持っている包丁をぎゅっと握りしめると、そのまま自分の首筋に当てた。
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