第537話 千切れかけては補修してのエンドレス
「二問目は『付き合っている彼女の中で一番女子力が無い人は誰ですか?』です。それでは回答してください」
「「「「......。」」」」
そんな悠莉ちゃんの言葉と共に、第二問目が始まった。
現在、俺と中村家三姉妹に加え、桃花ちゃんと悠莉ちゃんを交えて、とあるイベントを開催していた。
内容は至ってシンプル。俺がアンケートに答え、その回答内容を三姉妹が当てるというものだ。
で、今はその二問目なのだが、和馬さんはお先真っ暗な気がして仕方がなかった。
というのも、悠莉ちゃんが、俺が回答したときのアンケート内容を言い換えたからだ。
俺が回答した二問目は、『付き合っている彼女の中で、家事ができると思う人は誰ですか?』だ。
“女子力が無い”とかそんなの初耳だけど、悲しいことに彼氏である俺では、このイベントを止められることができない。
とどのつまり、“家事ができる人”=“女子力がある人”が一位で、その最下位が“女子力が無い人”と語弊しかないアンケートと化してしまったのだ。
女子力の全てが、家事できるかどうかじゃないのにな。
「これは簡単かも」
「そうね。ただ1位は確定として、他二人の順位付けが悩ましいわ」
「そうですか? 客観的に見れば簡単だと思いますけど」
などと、三姉妹は少し悩む素振りを見せつつも、それぞれ手にしていたホワイトボードに回答していった。
三姉妹が書き終えたことを確認した後、桃花ちゃんが元気よくぶるんと乳房を揺らしながら口を開く。ありがたや、ありがたや。
「それでは回答オープン!」
葵さんの回答は[1位 千沙 2位 葵 3位 陽菜]。
千沙の回答は[1位 葵 2位 陽菜 3位 千沙]。
陽菜の回答は[1位 千沙 2位 葵 3位 陽菜]。
「あ、陽菜の回答と一緒だ」
「あら本当ね」
「女子力って進んで家事をする人の方が印象大きいかなと思って、陽菜にしたんだよ」
「ふふ。自分で言うのもなんだけど、和馬の世話をするのは私にとって至福だから譲れなかったわ」
葵さんと陽菜の意見は一致しているらしく、お互い納得している感じだ。
で、問題は......。
「千沙、お前......自分を最下位にしているってことは、自分には女子力あるって思ってるのか?」
「? はい、そうですけど」
なんてこった。ここまで自覚が無い子だったとは......。
どうやら千沙ちゃんは自分のことを完璧美少女と信じて止まないらしく、別にそこを否定する気はないのだが、そこに女子力という要素を混ぜると過大評価だろとツッコまざるを得ない。
見れば長女と末っ子も、自信満々に自分を最下位に持っていった次女に軽く引いている。
それもそのはず、千沙は可愛いということだけに特化した美少女で、それ以外はすべて母親のお腹の中に置いてきちゃった子、というのが皆の共通認識だからだ。
千沙、今まで歩んできた道を振り返ろ?
「なんですか、皆さん揃いも揃ってそんな目で私を見て」
「いやだってさ、“女子力”って単語知ってるか?」
「っ?! ば、馬鹿にしないでください!! それくらい知ってますよ!!」
「そうか。じゃあまずはそうだな......休日はいつも何時に起きてる?」
「朝11時ですけど」
「あんま朝11時って言わない。とりあえず、そこからの一日の過ごし方を言ってくれ」
正直、昼近くまで寝てる奴には、“残り半日の過ごし方”と聞いた方が適切な気もするが、細かいところは置いておこう。
俺がそう聞くと、千沙は指を一本ずつ立てながら答えた。
「まずは起床してから朝ご飯を食べ、気が向いたら家業を手伝い、気乗りしなかったら自室に籠もってゲームします。おやつの時間は何があっても作業を止めます」
「うんうん」
「晩ご飯を食べた後は就寝時まで寛ぎますね。以上です」
「そっかそっか」
あれれ、女子力あるかどうかの話をしてたはずなのに、いつの間にか本題に入らないで終わっちゃってた。
結論、やっぱ千沙ちゃんは千沙ちゃんだった。
それに今回のアンケート内容の比較対象はあの陽菜と葵さんだ。二人とも女子力極めてるから本当に甲乙付け難かったよ。
そういう面で言えば、千沙には分が悪い内容だったな。
「別に女子力が全てじゃないさ。比較する気もないから気にするな」
「そうよ。私たちはそれぞれ長けた面があるから、そこを磨いていけばいいのよ」
「うんうん。二人の言う通りだよ」
と、俺らが温かい言葉で千沙をフォローすると、本人は何が不服だったのか、口を尖らせて言ってきた。
「なんですか、まるで私が女子力皆無な子、みたいな言い方して。嘘でもあると言ってくれてもいいじゃないですか」
「「「......。」」」
「そうだ、今晩は私が夕食作りますよ」
「いやいやいや! 千沙は何もしなくていいよ!」
「か、完璧美少女なんだから、これ以上力を見せつけられても困るわ!」
「ち、千沙は何もしないことが正解なんだぞ? ある意味女子力だな! はっはっはっ!」
千沙め。俺らが黙っていたら、家事をするとか言い出して脅してきやがったぞ。
女子力って何だろうな。わかんなくなってきたわ。
「じゃあ、お兄さんの回答ね」
俺らのやりとりが一段落したと判断し、桃花ちゃんが悠莉ちゃんに正解発表するよう促した。
「先輩の回答は[1位 千沙 2位 葵 3位 陽菜]......です!」
「「おおー!」」
「このクソ兄ッ!!」
「いてッ」
悠莉ちゃんの正解発表を受けて、正解したことに喜ぶ長女と末っ子。次女はまたもホワイトボードを俺に投げつけてきた。
でもほら、俺と葵さん、陽菜が同じ答えになったんだ。今こそ客観的に自分を見つめ直す良い機会じゃないですかね。などと口にしたら、和馬さんに明日は無いだろう。
「えーっと。理由ですが、2位と3位の理由が一緒に書かれてますね。『葵さんは正直、陽菜と大差ないけど、陽菜はいつも健気に嬉々として家事をしてくれる印象があるから』だそうです」
「もう! 褒めたって何も出ないわよッ!!」
「ふふ。たしかに家事は嫌いじゃないけど、私は陽菜ほど楽しめないかな」
「うっ、恥ずかしいな、これ」
今度は俺の方が恥ずかしさで呻いてしまった。
でも補足として言うのであれば、葵さんはやってなくて、陽菜しかやっていないことがある。
俺の通帳管理だ。
その要素があるからこそ、俺は陽菜をまるで十年来の奥さんとして見てしまっている面がある。
今まで好き勝手使ってこれた自分の貯金が他人に管理されてるんだ。金銭を扱う場面で毎回陽菜のことを思い起こされる今日此頃。
「で、1位に千沙さんを選んだ理由は『もはや語るまい』です」
「言ってくださいよ! 言わないと何がいけなかったのか、わからないじゃないですか!!」
悠莉ちゃんの解説を聞いた千沙は立ち上がり、俺に怒鳴りつけてきた。
言わないとわからない時点で論外だな。
ちょっとは姉妹と自分を比較してから言ってほしいものだ。お前は当社比でしか語れない生き物か。
「それでは次行きますねー」
「まだ二問目なんだけど、うぷっと来た」
棒読みでこのままイベントを続けようとする悠莉ちゃんと、開催者のくせに俺らのイチャつきを、まるで脂っこいものでも食したかのような顔つきをする桃花ちゃん。
なんて野郎だ。無責任にも程がある。
が、桃花ちゃんは手にしていたアンケート用紙に記載されている次の問題を見て、ニヤリと口角を釣り上げていた。
「では三問目、『交際相手の中であんま長く一緒に居たくない人は誰ですか?』でーす」
「「「「......。」」」」
今後の俺らの関係に亀裂が入りそうなの、ほんとやめてほしい。
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