第535話 愛妻ランキング?
「お邪魔しま〜す」
「おアツいところ失礼します」
やかましいわ。
玄関の戸が開けられたと同時に、巨乳後輩JK二人の声が聞こてきたことで、俺は嫌な予感がした。
天気は雨。それもかなりの土砂降りだ。こんな日は可愛い可愛い彼女三人たちとリビングで寛ぐに限る。
雇い主や真由美さんも気を利かせて二人で買物に出かけたんだ。だから親公認でイチャつけるというこの空間に、やってきてほしくない人物の登場は歓迎したくなかった。
「あれ、今日って桃花ちゃんと悠莉ちゃんが遊びに来る日だったっけ?」
「初耳ですね」
「言うの忘れてたわ」
長女と次女の軽い戸惑いに、陽菜は悪びれもなくそう答えた。
おいおい。これからこのリビングをヤリ部屋にするっていうのに、ゲストを呼んじゃってどうするの。
さすがの和馬さんでも6Pは無理だよ。
などとほざく童貞はまだ2Pすら未経験。それどころかずっと1Pを決め込んでいる。
「お久〜」
「お久しぶりです、皆さん」
玄関から入ってきて、そのままリビングへやってきたのは、巨乳JKと巨乳JKだ。
おっと、これじゃあ見分けがつかないよな。
可愛らしいヘアピンで前髪をやや右側にまとめた巨乳JKと、ツリ目ツインテ茶髪レズマシマシ巨乳JKの二人だ。
結局どっちも巨乳JKじゃねーか!
「よく雨の中来たな、二人とも」
内心セクハラをおくびにも出さない俺は、二人に優しげな笑みを向けて、中村家にやってきたことを歓迎する言葉を述べたのだが、二人は意外な行動に出た。
「「ひっ」」
「......おい」
息ぴったりの行為だった。
二人とも、まるで息を合わせたかのようにして、各々の胸を両腕で隠したのだ。
軽い悲鳴と共に、ね。
怒ろうかな。
たしかに土砂降りという悪天候の中、こうしてわざわざやって来たのだから、横殴りの雨で二人の服は濡れ、透けてしまったかもしれない。
でも二人は上着を着込んでいるから、いくら濡れても服が透けるわけがないのだ。
なのに、だ。
「カズ君」
「兄さん」
「あんたねぇ」
「......。」
なぜか俺が悪者のように、三人の交際相手から責められる。
おかしいだろ。桃花ちゃんたちの服が透けてたらわかるけど、なんで透けてもないのに俺が舐め回すような視線を向けた前提になるのさ。
俺は一つ溜息を吐いてから二人に言った。
「はぁ。とりあえず、先にシャワー浴びてこいよ――あいたッ?!」
俺がそう言うと、三姉妹から脛に猛攻撃を食らってしまった。
おかしい。俺は雨で濡れて身体を冷やしたかもしれない巨乳JKたちを気遣ったのに、なんで責められるんだ。
俺の発言のどこが間違っていたのだろうか。ラブホワードだったのだろうか。
くそうくそう。
******
「今日は皆さんが楽しめるイベントをやろうと思いまーす!」
「まーす!」
そうこうして準備が整った後、桃花ちゃんと悠莉ちゃんは揃ってそんなことを宣言した。
テレビのリモコンをマイクに仕立てる様は、如何にも今からしようとするイベントの司会進行役を買って出た感じだ。
マズいな。この状況、大体の場合、俺に不幸が舞い降りるイベントな気がする。
そう、桃花ちゃんと悠莉ちゃんが揃うと碌なことがないんだ。
「「「イベント?」」」
「嫌な予感がしてきました。とりあえず、こいつらを追い出しましょう」
「ひっどーい。せっかく睡眠時間削って考えてきたのに〜」
「そうですよ。昨晩、桃花ちゃんと二時間くらい夜更しして考えてきたんですからね」
大袈裟に言うほどのもんじゃないな。とりあえず帰ってくれ。
「で、イベントというのは、お兄さんが優柔不断なせいで誰が一番な彼女なのかわからない、という曖昧な今の状況に刺さるイベントになります」
「具体的にはランキング化です。先輩にはアンケートを下に、色々な分野で交際相手たちに順位付けしてもらいます」
けーれ!! 今すぐけーれ!! 帰ってくださいよぉ!!
「ランキング......怖いけど、気になるね」
「ええ。まぁ、私が全部一位だと思いますが」
「面白そうなイベントじゃない! 見直したわ!」
どうすんだよ、彼女たちに火が点いちゃったじゃん。
何が皆楽しめるイベントだよ。俺はその対象外じゃねーか。
「それで、ただお兄さんのアンケートを元にランキングを発表するのではなく、ここをクイズ形式っぽくして、彼女さんたちにはそれを当ててもらおうかと思います!」
「というと?」
葵さんの疑問に二人が答える前に、千沙が口を開いた。
「ああ、私たちが出題されたアンケートの順位を当てる感じですか」
「さすが千沙さん! その通りです! 頭撫で撫でしますね!」
「しないでください」
「じゃあ私の頭を撫でてください」
「しません」
「そんな〜」
レズ全開なこいつは放っておき、話は進む。
桃花ちゃんは右手の人差し指を俺に向け、もう一方の手の人差し指を葵さんたちに向けた後に説明を続けた。
「で、当てる側と当てられる側の二チームに分かれてもらいます。当てられる側のお兄さんは、私たちが作ってきたアンケート用紙に回答してね」
「おい、俺はまだやるとは言ってな――ッ?!」
俺は彼女たちに睨まれたことで続く言葉を失った。
か、彼氏なのに睨まれたんですけど......。
「いい? カズ君。このイベントは順位を知って、これからも自分を磨いていこう、という私たちの意気込みにも繋がるんだよ?」
「それにあんたの素直な意見も聞けるしね」
「ですから兄さん。『彼女たちに順位なんてつけられないよ〜! 皆一番!』とかふざけた回答はしないでください。したら別れます」
「......。」
“したら別れます”。なんて覚悟のこもったお言葉だろうか。
彼氏からしたら今後の
「お兄さん、大切なのは“結果”じゃなくて、その順位をつけた“理由”だよ」
「正当な評価をお願いしますね、先輩」
諸悪の根源どもがなんか言ってる。
俺は渋々ながら悠莉ちゃんから渡された一枚の用紙を受け取って、そこに記載されているアンケート内容に目を通した。
まず第一問、『付き合っている彼女の中で一番優しいと思う人は誰ですか?』、か。
ふむ、“付き合っている彼女の中で”とか節操のない文言だが、内容としては普通だな。
そこから少し飛ばして第五問、『料理が上手だと思う相手は誰ですか?』。第十問、『Hが上手い人は誰ですか?』などなど......。
別に回答しにくいという内容ではないな。気が引けるのは各分野で最下位を決めることだが。
正直、甲乙付け難いのが本音だけど、それを許してくれないのが俺の交際相手たちである。
俺はそんなことを思いながらアンケート用紙に記入を終わらせ、それを当イベント開催者である二人に渡した。
「ふむふむ。まぁ、大方予想した結果だね」
「つまんない男ですから、先輩は」
殴ろうかな、こいつら。
ただ悲しいことに、目の前に居る三姉妹は誰一人として否定することなく、それどころかうんうんと頷く始末なので、俺は無性に死にたくなってしまった。
どうやら俺はつまらない男らしい。
「それではさっそく始めま〜す! お三方、準備はよろしいですか?」
「「「はーい」」」
桃花ちゃんのその掛け声で、三姉妹は嬉々として手にしていたホワイトボードとペンを掲げた。
これから発表される順位を知って、三姉妹はどう思うのだろうか。
緊張してお腹が痛くなってきた。
そんな俺を他所に、無慈悲にも桃花ちゃんが満面の笑みで告げる。
「第一問! 『付き合っている彼女の中で一番怖いと思う人は誰ですか?』」
ちょっと待って。俺、そのアンケート知らない。
瞬間、先程までの賑やかな場が静まり返ったのは言うまでもないことであった。
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