第532話 変態だって底なしの愛は抱えてる

 「え?! 本当にわかったの?!」

 「さすが兄さんです!」

 「彼氏なんだから当然ね!」


 先程まで苦情の声を上げていた葵さんと千沙からそんな言葉が飛んできた。陽菜も嬉しそうに無い胸を張って喜んでいる。


 現在、目隠しした状態の俺は、指先一つで彼女たちの肌に触れ、誰が誰の肌かを当てるイベントをしていた。


 対象の人物を間違えたらデスゲームと化すのだが、答えを完全にわかってしまった今の俺にはデスゲームなんぞ心配する必要は無い。


 俺は目隠しをしたまま、今しがた彼女たちに触れていた人差し指を立てて答えを口にした。


 「まず一人目は千沙のだ」

 「場所まで?!」


 「ああ、余裕だったよ。最高だった。ありがとう、愛してる」

 「ッ......あ、甘い言葉はいいですから、なぜわかったかを言ってください!」


 今すぐ目隠しを外して、千沙が照れている様子を目にしたいが、とりあえずこのまま理由を述べよう。


 「おいおい。あんな引き締まっていてバランスの取れたお腹、お前以外いないぞ。引き籠もり、かつ運動不足な奴のお腹とは思えない、きちんと管理された良いお腹だった」

 「あれ、褒めてます? 貶してます?」

 

 「褒めてるって。それにいつも性行為のとき、俺がお前のお腹に何を押し付けてると思ってるんだ」

 「ナニを押し付けてますね。事後にヘソの辺りを重点的に擦り付けてます」


 「ああ。俺はお前のお腹を、へそを愛してる。へそティッシュだと思ってるよ」

 「やっぱ貶してません?」


 滅相もない。


 いつかその引き締まったお腹を妊娠させてボテ腹にするからな。


 また千沙以外の人物から、軽蔑にも似た視線を一心に浴びている気がしたが、まぁいい。俺が息子をどこに押し付けようと俺の勝手だろう。


 開き直った俺は、次の人物を当てるべく、再度、人差し指を立てて語った。


 「二番目は葵さんですね。場所はお尻です」

 「あ、当てるとは思ってたけど、恥ずかしい......」


 なら触らせんな。ありがとうございます、ありがとうございます。


 しかしこの場に俺ら以外の人は居ないとは言え、よくリビングでケツ出せたな。葵さんって、内気な性格に反して偶に思い切ったことするから怖い。


 いつかその安産型のお尻の役割を見出してあげますからね。子供は十人欲しいです。


 「恥ずかしいなら、別の所にすればよかったでしょう?」

 「うっ。だってカズ君、いつも私の胸とか尻を好んで触るし......。胸は恥ずかしいから、そ、そっちにした」


 「そうですね。葵さんのお尻は本当に最高です。息子が今までどれだけお世話になったことか......今後ともよろしくお願い致します」

 「こ、これはご丁寧に......」


 などと、俺らは謎の会話を済ませた後、最後の人物の名前を呼んだ。


 「陽菜......」

 「......私は二人と違って貧相な身体してるから、消去法でわかった感じかしら」


 目隠ししている俺にはわからないが、きっと陽菜は苦笑しながら、自嘲気味に言ったはずだ。


 何を言ってるんだか、こいつは。ならこんなイベント発案するなよって話。


 「馬鹿が。お前にしか無い最高な感触があったぞ。俺が愛して止まない太ももだった」

 「......私のときも場所までわかったのね」


 「ああ。普段、制服姿のお前の足をずっと見ているからな。いつもミニスカだから、少し風が吹けば中が見えそうな危うさを感じてる」

 「JKと言ったらミニスカでしょ? いつもあんたが言ってるじゃない」


 「そうだな。そうだったよ。でも俺はお前の健康的でムチッとした足を他の男に見られるなんて嫌だ。それくらいお前の足を愛してる」

 「ッ......馬鹿ね、ほんと馬鹿......。いつでも全部見せてあげるから、ミニスカくらい許しなさいよ」


 「ああ、わかった。エロ可愛いお前を周りに見せつけてやる、くらいの心構えにするよ」

 「......好き」

 「俺もだ」


 などと、ロマンティックな会話に思えて、実は一ミリもそんなこをはない会話をした俺は、パンッと手を合わせるようにして叩いて、再び口を開いた。


 「さてと、これで指先一つで交際相手を当てたわけですし、文句はありませんよね?」

 「え、ええ。さすがです」

 「う、嬉しいんだけど、変態すぎて素直に喜べない......」

 「和馬、部屋行きましょ」


 俺のその言葉に三者三様の反応が返ってきた。


 驚いた様子を見せる千沙、喜んでいいのか戸惑った様子の葵さん、そしてなぜか今から愛を深め合おうとする陽菜。


 俺はそんな三人を前に、高らかに言った。


 「いやぁ、しかし愛を試すとは言え、彼氏の愛の深さを疑ったわけです。これはご褒美があってもいいと思いますがねぇ〜」


 俺はニタニタと下種な笑みを浮かべつつ、顎を擦った。


 未だに目隠しをしている俺だが、三人が申し訳無さそうな顔をしているのは見なくてもわかった。


 げへへ、どんなご褒美を所望しよっかな〜。


 「あ、そうだ!」


 俺は良いことを思いついたので、ポンッと手を叩いてから提案した。


 「今度は人差し指ではなく、俺のち◯こにしよう!! それを三人に順番に押し付けて、誰が誰かを当てるってのはどうでしょ!」

 「あ、ちょ!」

 「に、兄さん!」

 「終わったわ......」


 なにやら三人が慌てたような、諦めたような声を上げたが、別にいっか。


 というか、我ながら良い提案じゃないか。


 たぶんだけど、指先なんかよりももっとわかると思うな。


 それは勃起ち◯こという、人差し指以上に広い接地面積だからじゃない。単純に息子が探知してくれるのだ。


 普段擦りつけてるからね。指先なんかよりも敏感にわかるはず。


 俺はそう思ってズボンを脱ぎ始めた。


 「へへ。押し付けた際にカウパーが出てきちゃうかもしれませんが、ご容赦を〜」


 目隠ししたままの俺は一人で喜びながら、期待に胸と海綿体を膨らませた。


 しかし三姉妹から返事は無い。


 もしかしてドン引きしているのだろうか。照れているのだろうか。


 どっちにしろ、これは俺のご褒美だ。大人しく擦られてもらいたい。絶対当てるからさ。射精した後に(笑)。


 さてさて、最初は誰かな〜。


 「そのまま真っ直ぐ突き出してね、。へし折るから」

 「はいはー............い」


 俺は返事の途中で動きをぴたりと止めた。


 おかしい。この場には居なかったはずの人物の声が聞こえてきた気がしたぞ。


 俺の勘違いかな?


 でもよくよく考えたらここってリビングだし、バイト野郎や三姉妹以外の人だって集まる。


 だから今しがた耳にした野太い声は、もしかしなくても三姉妹のうちの誰かの声じゃないのかもしれない。


 そう、例えば一家の大黒柱とか。


 「......答え言ってもいいですか?」

 「もうわかってるでしょ」

 「......。」


 俺は顔を絶望色に染め上げ、瞬時に逃げ出そうとしたが、時すでに遅しだった......。

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