第531話 変態の戯れ

 「問題は兄さんに、どこに触れてもらうか、ですね」

 「二の腕とかどうかな?」

 「さすがにそれは簡単すぎよ」


 おっぱい一択だろ。


 現在、バイト野郎と中村家三姉妹は、悪天候の影響でリビングで寛いでいた。


 が、ある恋愛ドラマのせいでイベントが発生してしまい。そのイベントとやらは、俺が目隠しした状態に加で、指一本だけ恋人たちの肉体の一部に触れ、誰が誰の身体かを当てるというイベントである。


 正直、指一本だけで触れてもわかるのか不安だが、ここは三人の彼氏としてビシッと決めたいところだ。


 「なら背中はどう?」

 「いや、おっぱいがいいです」

 「私ならまだしも、陽菜のに触れたら突き指しますよ」

 「千沙姉、表に出なさい」


 喧嘩すんなって。


 まぁ、陽菜の胸に人差し指を当てに行ったら突き指するかもな(笑)。


 「触れてもらう場所は各々で決めましょ。ここで言ったらヒントになっちゃうかもしれないし」

 「たしかに」

 「一理ありますね」


 今日の陽菜は冴えているな。


 たしかに予め背中だとわかって触れていたのなら、目隠しした状態でも誰だかある程度予想がつくのかもしれない。しかし個人が場所を指定できるのなら、俺は本当に指先一つで恋人を当てなければならないのだ。


 そうこうして色々と決めた後、葵さんが今回のイベントに適した目隠しとなる布を自室から持ってきて、俺に渡してきた。


 ......なんでそんな代物を、彼女が持っていたのかは聞かない方がいいだろうか。


 もし性的な感度を高めるために持っていたのであれば、この布は彼女との今後の付き合いで有効に使わせていただきたいぐへへ。


 渡された布は真っ黒なものだ。遮光性抜群で早速覆ってみると、本当に何も見えなかった。


 ついでに仕事用に使う耳栓の予備もこの家にはあって、俺は目隠しをする前にそれを着けるよう言われた。着ける理由は、目の前で話し合う彼女たちの会話を聞かないためだ。


 ちなみになんで耳栓を仕事で使うのかって言うと、例として農機具の一つに粉砕機があり、それを使って枝とか竹を粉砕するんだけど、その際に生じる騒音がまるでヘビメタ級なので、耳栓を使って和らげるのだ。


 とまぁ、そんなことを考えていたら、彼女たちの作戦会議は終わったらしく、俺がしている耳栓を誰かが片耳分だけ取った。それにより、陽菜の声が真っ先に聞こえてきた。


 「終わったわ」

 「おう」

 「さっそくだけど、人差し指だけ前に突き出しなさい」


 俺は彼女に言われるがまま、右手の人差し指だけを前に出した。


 おそらくその後の位置調整は彼女たちがしてくれるのだろう。それに従い、俺は人差し指を前後に動かすだけ。気分はいつぞやのスイカ割りの主役だ。


 「そうそこ。そのままゆっくり前に進んでね、カズ君」

 「はい」


 俺をここまで誘導してくれたのは陽菜と葵さんだ。


 黙っていた千沙が、今から俺が触れる対象とは限らない。別にルールに本人以外が誘導するなんて聞いてないしな。これも彼女たちの作戦かもしれない。


 そう、中村家三姉妹はマジで指先一つで、彼氏が自分のことを当ててくれることを試したいのだ。


 裕二から聞いたことがある。女の子は偶に、本当に自分のことを今も愛してくれているか、不安になって確かめてくることがあるらしい。


 まさに本日のイベントがそれに値するだろう。


 対する彼氏は面倒くさくても付き合わなければならないのだ。


 それが交際関係というものである(by童貞野郎)。


 それに彼女たちは彼氏が三股してるせいで、少なからず心のどこかで不安を抱えていたのかもしれない。


 なら尚更、ここは格好良く決めないと。


 「ちなみにですけど、兄さん。はずしたら、どうなるかわかりますよね?」

 「......。」


 ピタ。


 俺は今まで沈黙していた千沙のその声を聞いて、進む人差し指の動きを止めてしまった。


 どうなるかわかりますよね、と言われても......。


 俺は恐る恐る聞くことにした。


 「......どうなるんですかね?」

 「兄さんのことでしょうからと思いますけど、まさか交際相手の肉体を別の女のと勘違いするわけないですよね?」


 いや、言い方。


 俺にとって三人は別の女じゃなくて等しく交際相手なんだぞ。


 「も、もちろんだよ」

 「それが聞けて安心です」


 「それで千沙さん、もし万が一、いや億が一、間違えたらどうなんでしょうか?」

 「ふふ。どうなるんでしょうね」

 「......。」


 答えになってない答えが、俺の心を恐怖に染めていく。


 なに、はずしたら俺どうなっちゃうの。


 俺は嫌な汗をかき始めたことを実感し、突き出した人差し指をぶるぶると震わせてしまった。


 「ま、まぁまぁ。そんな気負わなくて大丈夫だよ」

 「いえ、死ぬ気で当ててください。じゃないと詰めてもらいますから」

 「おち◯ぽをね」


 二人はさ、もうちょっと葵さんのような優しさを持ち合わせた方がいいよ。


 まだ触れてもないからわからないけど、指先一つで人を当てるって絶対難しいと思うんだ。


 彼女たちに俺の愛を試してもらうイベントに、まさか息子の存命の危機が伴うとは......。


 絶対にはずせん。


 俺は深呼吸をしてから人差し指を真っ直ぐに進めた。


 そして、遂にその先端が衝突した。


 「これは......」


 触れた先、ぷにぷに柔らかな感触が指先から伝わってきた。


 女の子の肌なんだから当たり前かもしれないけど、それもこの絶妙な肉突き具合......決して多すぎず、少なすぎずといった触り心地である。


 試しに深く指先を埋めるように押し込むと、強張ったように肉質が少しだけ硬くなった。


 が、骨のようなものに当たること無く、確かな弾力だけがそこにはあった。


 ふむ、これは......。


 「た、タイムアップです」

 「あ、ああ。ありがとうな」

 「お礼言ってどうすんのよ」


 俺は人差し指を引っ込め、その指先に残る微かな温もりを感じながら頷いた。


 「ふむ」

 「次行くわよ、次」


 ちなみにこのイベントは俺が一回触った毎に人物を当てるのではない。三人まとめて触ってから、誰が何番目かを当てるのである。


 陽菜の合図と共に、次の人物が俺の前へと来たらしいので、俺は例の如く人差し指を突き出した。


 そして彼女たちに誘導されるがまま、誰かの肌に俺の指先が当たる。


 「お、おお!!」

 「な、何を感嘆とした声を上げてるんですか」


 千沙のうんざりした声を聞きながら、俺は指先から伝わってくる感触に幸せな気持ちを覚えた。


 俺の指が沈んだのだ。


 別に太っているとか、肉が着いているからとかじゃない。なんというか、安心感というか、安全感というか、安産型というか、そこにはこの世の全てを包容する力が宿っているみたいだ。


 突いて思わず、感動してしまいそうな感触である。おそらくY◯gib◯創設者はこの感触を目指したに違いない。


 ふむふむ。


 「タイムアップよ!」

 「ありがとうございました」

 「だ、だからお礼言わなくていいから......」


 さて、次がいよいよ。最後だったな。


 が、悪いけど、もう最後の人物は触らなくてもわかってる。


 なぜかって?


 そんなの決まってる。前二人が誰だかわかっているからだ。


 だから消去法で最後の一人はわかる。でも、わかるから触らない、なんて言ったら殺されることだろう。


 それに今となっちゃ俺だって触りたい気持ちが大きいしな。


 「そのまま真っ直ぐ進んで触ってくださいね」

 「わかった」


 俺は短くそう返事をして、人差し指を突き進めた。


 そして肌に到着後、しっかりと返ってくる肌の張りに歓喜しつつ、堪能していった。


 特徴的なのはムチッとした感触だな。一見、運動不足そうに思えるかも知れないが、実はその逆、普段の生活から実践的な筋肉が着いていると窺える。


 故に必要な肉が着いていて、それが非常に柔らかいのだ。


 一言で言えば、健康的な肉付き。俺が愛して止まない感触というべきだろうか。ずっと触っていたいし、頬ずりしたくなる肌である。


 俺は一頻り堪能した後、不敵な笑みを浮かべてから、意地悪くもピンとその部位を人差し指で弾いた。


 「んッ」

 「ちょ、ちょっと。声漏らさせるような行為は止めてよ」

 「そうですよ。痛みや快楽で声を漏らしたら、わかっちゃうじゃないですか」


 喘いだのは言うまでもなく陽菜だ。それを聞いて俺を責めてきたのは葵さんと千沙である。


 当たり前だ。指先一つで人を当てるゲームだからな。漏らした声で人を当てたら意味がない。


 が、既に答えがわかっている俺には、漏らした声から人を当てるなんてする必要が無いのだ。


 「はは、すみません。あまりにも簡単すぎてつい」

 「「「っ?!」」」


 まさかこんな児戯に等しいイベントだったとはな。


 俺は余裕そうに口角を釣り上げながら、ソファーに踏ん反り返るのであった。



――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


切りが悪いですが、次回続き(答え合わせ)からになります。お楽しみください。


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それでは、ハブ ア ナイス デー!

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