第530話 愛は浅くはないという証明

 『わ、私のことわかるの?』

 『もちろんさ。俺が君のことを一番愛しているからね』

 『ッ......淳也!!』

 『瑞希!!』


 天気は雨。外はザーザーと雨が降っていて、その横殴りの雨が部屋の窓ガラスを叩きつけていた。


 本日は悪天候ということもあって、早々に仕事を切り上げた俺は、昼下がりの今、中村家三姉妹と一緒にリビングで恋愛ドラマの再放送を視ている。


 冬休みとあって、例の如く住み込みバイトをしているバイト野郎だが、こうも仕事せずに彼女たちと寛ぐことに若干の罪悪感を抱いてしまう。


 給料は発生しないとはいえ、三食おやつ付き美女付きの生活なんだ。果報者なことこの上ない。


 「ひっぐ......泣けるわ」

 「ええ。恋人なら外見が違ってても見抜けるんですね。素敵です」

 「ひな、てぃっしゅとって」


 葵さんは陽菜から受け取ったティッシュでちーんと鼻をかんだ。


 放送時間的にもラストシーンのところで、その内容は少し非日常的なものだった。


 なんでも、主人公の淳也の恋人である瑞希が交通事故で死んだのだが、瑞希は別の女性となって生まれ変わったらしい。元々の肉体の持ち主はどうなったのかは、ドラマを一話から視ていない俺にはわからない話だ。


 で、今は恋人である淳也と遭遇したが、彼は現れた女性が交通事故で亡くなった恋人だとそう簡単に気づくことはなく、瑞希本人も真実を告げることを渋っていた。


 そこで瑞希はどうにか気づいてもらおうと試行錯誤するのだが、最終話の今になってその努力が報われて、ハッピーエンドを迎えたのである。


 うん、全然面白くなかった。※個人の感想です。


 「兄さんは感動しないのですか?」

 「うーん。微妙かなぁ」

 「ああーやだやだ。男ってのは本当に乙女心がわからない生き物ね」

 「下心はあるくせにね〜」


 否定はしませんよ。男なんて皆そんなもんですから。


 おっ◯いとまんこ。


 きっと世に生きる男たちの脳内パラメータを可視化したら、その二つの単語が八割を占めているに違いない。


 あ、伏せ字ピー音にするとこ間違えた(笑)。


 「あれ、カズ君って恋愛ドラマに興味無かったっけ?」

 「無くは無いですよ。ただ同時間帯に、バラエティ番組もニュースもドキュメント系も放送してなかったら、辛うじて視るくらいです」

 「ちっとも無いじゃん」


 ちっとも無いな、うん。


 なんかなー。いつだったか覚えてないけど、今見た恋愛ドラマと似たような出来事が夢に出てきたんだよね。


 内容は中村家三姉妹と俺の中身が入れ替わるって夢で、すごく苦労した挙げ句、全く美味しい体験できなかった覚えがある。


 だから入れ替わりというか、それっぽいのはあまり良いイメージを持たないな。


 ま、夢の話だけど(笑)。


 そんなドライな感想を抱く俺を他所に、陽菜が手を叩いて提案してきた。


 「そうだわ! 和馬にも外見ではなく、別の所で恋人を見抜いてもらいましょ!!」

 「なるほど」

 『カチャカチャ......ボロン』

 「“見ヌき”じゃないわ。しまいなさい」


 あ、目隠しプレイじゃないのね。


 俺は素早い動きでズボンを脱いだのが、陽菜にしまえと言われて渋々しまうことにした。この場に真由美さんたちが居ないからできる所業である。


 それはそうと、俺クラスなら彼女たちの裸体を目にしなくてもヌけるんだがな。


 クチュクチュとか、プシッとかASMRがあれば一入だ。


 「外見で判断させないってどうやって? まさかドラマみたいに交通事故にあってこいとかかな?」

 「そんなサイコパスなこと言わないわよ。千沙姉じゃあるまいし」

 「あれ? 私、今ディスられました?」


 自覚ないのか。千沙、お前は外見だけが取り柄のサイコパスなんだよ。言ったら殺されるから言わないが。


 「ドラマとは違うけど、要は見た目で判断させずに、私たちを当てさせればいいのよ」

 「目隠しプレイか!!」

 『カチャカチャ......ボロン』

 「だからソレしまいなさいって。違うから」


 俺は再度、抜刀した男根を納刀した。しくしく。


 「でも目隠しはしてもらうわ。和馬にはボディタッチで誰が誰かを当てさせるってのはどうかしら?」

 「なるほど〜」

 「「......。」」


 瞬間、俺と千沙は陽菜の胸を見た後、次に葵さんの胸を見て、それを数回繰り返した。


 息ぴったりの兄妹である。


 きっと葵さんの胸に手を当てれば、掴もうとしたのに掴みきれず、五指全てが奥深くまで沈んでいくことだろう。


 その際の擬音語は、むにゅり、とマシュマロを思わせるものに違いない。


 対する陽菜のはどうだろう。


 掴もうとしたのに掴めず、五指全てがまるでディスプレイの上を彷徨うようにしてスワイプしても、どこが胸なのか、そもそも胸なのかすら疑いが止まない感触が返ってきそうだ。


 その際の擬音語は、ガキン、と金属を思わせるものに違いない。


 ガキンは言いすぎたか、ごめん。


 「陽菜、さすがにそれは兄さんをテストする前から勝敗は決してます」

 「千沙姉、私のどこ見て言ってるのか、聞いてもいいかしら?」


 「エアーズロックです」

 「ぶっ殺すわよ」


 陽菜が冷ややかな笑みで次女を睨みつけた。彼女の額には青筋が立っていて、俺は千沙に便乗して口を開かなくて良かったと、安堵の息を漏らした。 


 「ボディタッチ......かぁ。正直、カズ君の手は大っきいし、すぐにわかっちゃうんじゃないかな?」

 「ええ。伊達にエッチなことしてきてませんからね」

 「い、言わなくていいよ、そんなこと......」


 葵さんは顔を赤くしながらそう呟いた。


 たぶん目隠ししても、俺は誰が誰の身体かを当てられると思うな。


 一応、彼女たちのま◯こ以外は隈なく触ってきた俺だ。流石にはずすとは思えない。


 そう自信ありげにかまえている俺に対して、陽菜は人差し指を立てて言ってきた。


 「指一本よ。目隠しを付けた上に指一本で、私たちが指定した場所に触れてもらって当ててもらうわ」

 「「お、おお〜」」


 何に関心したのかわからないが、葵さんと千沙が感嘆とした声を漏らした。


 視界を奪われた状態に加え、指一本で彼女たちを当てるのか......。


 難易度爆上がりだな。指先なんて小さな接地面積じゃ、当てられるか自信が無いぞ。


 「あらあら? 和馬さんったら急に苦い顔してどうしたのかしら?」

 「っ?!」


 すると陽菜が意地の悪い笑みを浮かべて、俺の方へと迫ってきた。上目遣いでニヤニヤとこちらを見つめてくる視線は気持ちの良いものではない。


 この顔つき、偶に陽菜が見せる小悪魔モードのときのやつだ。


 メスガキとも言う。


 こうなったら俺に残された選択肢は二つだけ。


 “わからせる”か、“わからせられる”か、だ。


 この聞き慣れない単語を詳しく知りたければ、周りに人が居ない状況でググってほしい。間違っても公共の場で検索しちゃ駄目なワードだ。冤罪でも通報されちゃう。


 あと国語の教師に質問しても駄目。限りなくセクハラに近いから。


 そして俺は吠えた。


 「や、やってやるよ! 指一本で交際相手ぐらい当てられるわ!」

 「あら、嬉しいこと言うじゃない」

 「兄さんってほんっと雑魚そうですよねー」

 「“雑魚”?」


 そんなこんなで、俺の愛が試されるイベントが始まったのであった。



――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


次回続きになります。


面白かったら応援ハートお願いします!


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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