第529話 冬休みは禁欲期間?

 「「はぁ」」

 「......。」


 天気は曇り。と言っても、もう夜の時間帯で、中村家でのアルバイトを終えた俺は、例の如く中村家のリビングで寛いでいるから、天気の影響は受けない。


 リビングはストーブから放たれる熱気で温かい空間と化していた。手元にはホットコーヒーがあるので、それを飲むと身体の内側から温められる。


 真冬に飲むホットドリンクが、今日一日働いた俺の疲労感を和らげてくれるのだ。と言っても、就寝前にカフェインを摂取することはあまりよろしくないのだが。


 「これからどうしよう......」

 「そうねぇ......」


 そう言いながら、再び溜息を吐いたのは葵さんと陽菜である。


 俺の前にあるテーブルを挟んで向こう側のソファーに座っていた長女と末っ子二人は、なにやら思い詰めた様子だった。


 ちなみに俺の隣には、今日の彼女当番である千沙が居る。


 雇い主が入浴中とあってか、千沙が俺との距離を縮めてぴったりと肩をくっつけていた。こういうことを無言でしてくるものだから、うちの妹は本当に可愛いと絶賛しちゃいそうだ。


 また真由美さんの姿も無い。真由美さんは気を使ってくれたのか、こういった状況になると大抵の場合、二階の部屋へ行って、本日干して乾いた洗濯物を畳むなど家事をしてくれるのだ。


 故にこの場には一匹の彼氏と、三柱の交際相手たちが居るのである。


 「あの、さっきからどうしたんですか?」


 すると千沙が、姉と妹の悩み事を聞くべく、二人に事情を聞き始めた。


 次女の問いに対して、葵さんと陽菜はお互いに目を合わせてから口にする。


 「今日から冬休みじゃん」

 「え? ああ、はい。最高ですよね」

 「どこが最高よ。最悪にも程があるわ」


 そんな贅沢なことを言ったのは陽菜だ。それを聞いた葵さんもうんうんと頷いているので、世間一般的に考えたら、冬休みって最高じゃん、という俺と千沙の意見が疑われる感じだ。


 そう、本日より冬休みが始まったのだ。


 で、言うまでもなく、住み込みバイトをする俺は、今日から中村家にお世話になるのである。


 「去年の冬休みは喜んでたじゃないですか」

 「去年はね......」

 「去年は今年と違うところがあるでしょ?」


 違うところ?


 俺は陽菜に言われたことを熟考するが、去年と違うところが思い当たらない。


 普通にわいわい賑やかに過ごしてた記憶しかないな......。


 「ああ、今年の私たちはカップルですからね」

 「「それ!!」」


 千沙の答えに正しくその通りと、大声で答える長女と末っ子である。


 そうだったな。いくら俺らが付き合っているとは言え、あまりにも去年と変わらずに似たような生活を送ってきたから気づけなかった。


 ちなみに全く関係ない話だが、昨日はクリスマスの日だった。


 普通に中村家の皆とパーティーして楽しんだ。


 世のカップルたちは、聖夜と抜かしてこれみよがしに出歩いているが、和馬さんは違う。彼女が三人もいるんだ。特定の誰かと特別な日を過ごすより、こうして皆とワイワイするのが一番なのだ。


 だから一瞬でも、サンタコスさせた彼女たちとの4Pを夢見た俺は後悔しちゃいけないんだ。


 今年のクリスマスまでには童貞卒業したかったなぁ......。


 「冬休みってカズ君がずっとうちに居るじゃん」

 「それって都合悪いのよね」


 おっと。彼氏の悪口は、できれば彼氏が居ないところでやってほしい。


 じゃないと泣いちゃうぞ☆


 「ちょっと。兄さんが居るんですから、そういうのは兄さんの居ないところでしましょうよ」


 千沙、そこはフォローしてもいいところだぞ。


 悪口言ったらいけません、くらい言えよ。場所変えれば悪口言ってもいい、とかクソ野郎じゃないか。


 「ち、違うよ。カズ君に不満は無いよ」

 「無いことも無いけどね。問題はそこじゃないわ」


 おい。含みのあること言い残して、話題に入ろうとするな。


 不満なところがあるなら言ってよ。直すからさ。ね?


 後で絶対聞こう。


 「カズ君、これからしばらくうちに居るから、い、イチャ......つけない」

 「はっきり言いなさいよ。Hなことできないって」


 「い、いいい言えるわけないじゃん!!」

 「そうかしら? 私は言えるわよ。『和馬とHしたいッ!!』って。」


 声でけーよ。


 そんな大声を出した末っ子は、隣に座っている長女から引っ叩かれて涙目になった。


 気持ちは嬉しいが、一応、雇い主と真由美さんもこの家に居るからね。自重しよっか。


 「でもたしかにそこは問題ですよね。東の家の部屋を借りている兄さんのところに、姉さんと陽菜が行ったらお父さんに怪しまれますし」


 陽菜と葵さんから事情を聞けて察せたが、まさしく今千沙が言ったことが問題だろう。


 雇い主。中々子離れすることができず、娘三人の交際相手を俺に任せているくせに、Hなこと厳禁などとルールを作った張本人だ。


 いや、別に厳禁されていない。でも俺がセッ◯スしたらそこで彼女一番が決まっちゃうわけで、優柔不断な俺からしたら『お前一生童貞な!』と決めつけられたようなもんだ。


 事実、彼女たちと付き合って結構な月日が経ったが、セッ◯スなんてしたことがない。


 彼女たちのおっぱいや尻を揉んだり、フェラとかパイズリはさせてんだけどな。


 「そうなんだよぉ」

 「私たちが黙って東の家に行ったら絶対怪しまれるわよね......」

 「ですね。お二人は私と兄さんみたいに共通の趣味がありませんし」

 「......。」


 真面目な話しているところ悪いけどさ、交際相手三人がHなことしたいがためにリビングで話し合うってどうなのよ。


 互いに独占欲が刺激されて嫉妬とかドロドロした関係にはならないのか。


 そんな心配をしちゃう彼氏である。


 「本当は無視して行きたいんだけど、次の日、和馬が耕されるかもしれないのよね」

 「父さんならやりかねないしね」

 「そう言えば昔、姉さん目当てでアルバイト申し込んできた男性に、“トラクター引き回しマラソン”させてましたね」


 待って。“トラクター引き回しマラソン”って何。そこすごい気になっちゃった。


 ねぇ、教えて。その人の末路を教えて。


 「アレは酷かったわね......」

 「だから迂闊にカズ君のとこ行けないんだよ」

 「そうですね。いっそお二人も『ゲームにハマりました〜』って言って、東の家に遊びに来ます?」


 「「絶対信じてくれない」」

 「さ、さいですか......」


 そりゃああの陽菜と葵さんだからなぁ。


 俺と千沙は付き合う前から中村家での寛ぎタイムが終わったら、一緒に東の家に戻って就寝まで遊んで過ごしている。


 付き合う前からそんな生活を送ってきたので、雇い主が口を挟むことはなかった。


 今となっちゃゲームよりHなことしてるんだがな(笑)。


 雇い主、ごめんなさい。別に裏切っているつもりはありませんが、娘さんの尻に俺のち◯ぽを挟むとすごく気持ち良いんですよ。


 「何か良い方法は無いかしら?」

 「このままだと我慢が続いておかしくなりそうだよ......」

 「ね、姉さんも段々正直になってきましたね......」


 それな。


 葵さんって、地味に追い込まれるとポロッと本音を出しちゃうタイプだから、普段とのギャップが激しいよ。


 そうかそうか。二人共、そんなに俺とHなことがしたいのか。


 でも俺も耕されたくないしなぁ。


 しかしそうなると、結果的に陽菜と葵さんにHなことができなくなるわけで、千沙とだけするというのも世間体が悪くなってしまう。


 いや、三股彼氏が世間体語ったらいけないが。


 俺も我慢しないといけなくなるのかな......。どうしよう、そう考えたら俺も禁欲生活が強いられちゃう。


 「そうだ。今度、千沙に俺のを模したディルドを作ってもらって、それで耐えてもらうといのは――」

 「あんた、そんなので私が満足すると思ってんの? 射◯しないじゃない」

 「わ、私もそれは流石に......」

 「もう作ってますよ? 兄さん」


 とまぁ、ツッコミ不在の中、俺らはあれやこれやと会議を続けるのであった。

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