お正月特別回 入れ替わり 陽菜編 2

 「「ええー?! 俺(私)たち入れ替わってるッー?!」」


 南の家に若い男女二人の大声が重なって響き渡った。


 「え?! ちょ、あんた、陽菜わたしよね?」

 「は?! え、もしかしてその口調、陽菜か?」

 「あ、あんたこそ、その口調は、和馬......なの?」


 目の前には自分そっくりな男。というか本人。


 立ち上がったら上目遣いをしなければならないほど身長差があった。景色全体がいつもより低い位置から見ている感じだ。


 だから俺の身体じゃないことくらい、すぐにわかってしまった。


 さて、世に生きる人たちに聞きたい。


 ある日突然、なんの前触れもなく、自分の中身が誰かのと入れ替わったらどうしますか、と。


 俺ならまず条件反射と言っていいほど、してしまうことがある。


 「無い! 無い! 無いぞッ! 息子ぉぉぉおおおおお!!!」


 少女特有の少し高めの声から発せられたのは、世に生きる男性が一本は所持している息子さんである。


 俺はつるぺたの股間を服越しにペタペタと触って確認した。


 どうやら息子は不在らしい。


 すると相手も俺と似たような様子で、自身の胸をペタペタと触っていた。


 「無い! 無い! 無いわッ! 私の胸ぇぇぇぇええ!!」


 お前は元から無いだろッ!!


 などと、内心で目の前の自分にツッコんでしまった。


 俺は自分ひなと一瞬だけ目を合わせた後、言葉を交わすこと無く、すぐさま洗面所へと駆け出した。


 そこにある大きな鏡付きの洗面台に映し出されたのは二名の男女である。


 顔を絶望色に染め上げた和馬さん(♀)と、同じく顔を絶望色に染め上げた陽菜ちゃん(♂)が居る。


 俺らは未だにそのことが信じれなくて、お互いに好きな数字を両手の指の数で収まる範囲で、指を立てることにした。


 俺が立てた指は“4”。右手と左手の人差し指と中指をそれぞれ立ててである。


 俗に言う、Wピースだ。


 目は全然笑ってないが。


 「嘘でしょ......」


 鏡に写されたもう一方の人物は、右手だけ上げていて、立てた指は親指と小指である。


 俗に言う、ヤリチンピースだろう。知らんけど。


 俺らは互いに、普段の自分じゃしないような仕草をして状況確認をした後、再度、呟いた。


 「「マジで入れ替わってる......」」


 さて、いつまでも落ち込んでいる場合じゃないのは確かだ。


 俺は陽菜特有の高めの女声で口を開いた。


 「一番心配しなくちゃいけないことは、アレだな?」


 俺がそう言うと先方も落ち着いてくれたのか、冷静な素振りを見せる中身陽菜が、和馬さん特有の低い男の声で答えてくれた。


 「ええ。これがいつまで続くのか......よね」


 頬に片手を当てながら、である。


 やめてくれ。外見は屈強そうなイケメンなんだぞ。そんな仕草見たくない。


 そう、問題は今後どうなるか、である。これがまた元通りになってくれるのであれば特に問題は無いのだ。


 「とりあえず、“YOUの名は”を見返すか」

 「馬鹿。そんなことしてる場合じゃないでしょ。現状、どうやったら戻るのかわからない以上、ちゃんと話し合わないと駄目だわ」


 だよな......。


 俺は顎に手を当てて考え込んだ。するとその行為だけで、陽菜の顔は思ったよりも小さいということがわかった。


 一挙一動でこんなにも思い知らされるとは。


 で、だ。


 このまましばらく解決せずに過ごすのであれば、一番の問題と言ったらやはり“生活面”だろう。


 「口調、仕草を始め、家事に学生生活、そして自慰行為オナニー......どうする? 俺じゃお前みたいに成り済ませないぞ?」

 「別に無理に成り済ます必要は無いんじゃないかしら? とりあえず家族だけにも正直に今の状況を伝えるべきよ」


 そういうものなのか?


 俺はてっきり皆に余計な心配を掛けたくないと思って、互いに成り済ますことを提案したのだが、どうやら彼女は違うみたいだ。


 こういうとこで性格出るよね。


 陽菜は困ったことがあったら、なんでもすぐに誰かと情報を共有して頼ることを徹底し、また逆に自分も頼られることを望んでいる。


 俺はと言うと、先にも言ったように、なるべく自分一人で解決したくなるんだよな......。


 尚、最後の不安要素として挙げた“自慰行為オナニー”が華麗にスルーされたのはもはやご愛嬌だ。さすが陽菜という他ない。


 「っておい、なにしてんだ、お前」

 「え?」


 え? じゃないよ、どこに手を突っ込んでんだ。


 どう見ても俺の右手が息子目掛けてズボンの中に忍び込んでるだろ。


 なんで女のお前が真っ先にそっちに行くんだよ。普通、そういったことは中身が俺で、身体は陽菜である和馬さんが先だろ。


 「おい、どこ触ってんだ。やめろ」

 「だ、だってなんか異物感と言うか、股に重たいものがぶら下がってるの変な感じがして落ち着かないんだもん」

 「お、俺だって、なんかお股がスースーして変な気分だよ」


 まいったな......。やっぱ一番の問題はそれだよな。


 互いに異性ということもあってか、排泄時や入浴時による弊害が大きい。どうしたものかと俺が考えていたら、視界に見知ったモノが写し出された。


 俺の息子である。


 和馬ちゃんの手によってシコシコと擦られて、ムクムクと変貌していった俺の息子である。


 「......素敵♡」

 「おおぉぉぉぉおおおいぃぃ!!! お前、なに曝け出しとんじゃいぃぃいいい!!」


 俺は慌てて、陽菜の手によって下ろされたズボンを上げようと奮闘した。


 が、肝心の和馬ちゃんがそれを拒んで、言うことを聞いてくれない。ズボンを持ち上げようとする俺の両手を掴んできたのだ。


 「ちょっと!! なにするのよ?!」

 「こっちのセリフだわッ!! なんでズボン下ろした?! なんで擦り始めた?! なんで頬を赤らめた?!」


 俺は必死にズボンを持ち上げようとするが、華奢な陽菜の膂力じゃそれが成せない。大して力を入れていない和馬ちゃんに、手を抑えつけられてどうすることもでなかった。


 だから目の前でムクムクと変貌し続ける息子を直視することしができなかった。


 自分の身体に興奮して火照った様子の和馬ちゃんは、俺にとってまさに最悪な絵面でしかなかった。


 ロリっ子JKこと和馬さんは、世間体HPヒットポイントがガリガリと削られる感覚を覚える。


 「ねぇ、お願いだから小一時間だけあんたの身体を好きに使っていい?」

 「許すわけねーだろッ!!」


 「お願いよ。ね? いっかい好きなだけち◯ぽをイジってから、精液を飲んでみたかったのよ」

 「頼むからマジでやめてくれ!! 俺の身体でキャッチ&リリースだけはしないでくれ!!」


 「ああ、想像したら我慢汁が......」

 「俺は想像したら吐き気しか湧いてこないッ!!」


 おかしいよ、絶対おかしいよ。


 普通は逆だよね? 男の俺がヒャッホーする状況だよね? なんで息子が自分に犯される心配しなくちゃいけないの?


 俺はあまりの哀しさに、思わず涙を流してしまった。


 そんな騒がしくしている俺らだからか、洗面所へある者がやってきた。


 「あの、さっきから騒がしいんですけ............ど」

 「「あ」」


 俺の可愛い妹、じゃなくて今は可愛い姉か。千沙ちゃんの姿があった。


 ビキビキに勃起させたち◯この目の前には、この家の末っ子が半泣き状態で居る。


 事案とはまさしくこの事ではなかろうか。弁解の余地なくギルティが下されることだろう。


 すると千沙ちゃんは、そんなレイプ現場にも似た状況を目にしたからか、冷え切った視線を俺らに向けながらスマホを手にした。


 「もしもし。警察ですか? 目の前にレイプ野郎が居まして――」



******



 「「「「い、入れ替わった?」」」」


 中村家の南の家のリビングにて、雇い主、真由美さん、葵さん、千沙の四人は揃ってそんな声を上げた。


 皆はやはり戸惑いを隠せないのか、誰も彼もが信じられないと言わんばかりの顔をしている。


 そんな四人はソファーを二台分使って座っていて、対面するかたちで、俺の外見をした中身が陽菜と、陽菜の外見をした中身和馬さんが座っていた。


 ややこしいことこの上ない。


 また前者は体格が良い男のくせに内股で座っており、後者は華奢な身体らしからぬ外股である。


 座り方は骨格や肉付きによって左右されると思うのだが、前者に至っては普通に内股で座れるのはなぜなんだろうか。


 「はい。自分でも意味がわからなくて......」

 「「「「おおう......」」」」


 陽菜の外見で弱気な発言をしたせいか、あまりにも普段とは違う口調のせいで、ご家族の皆さんが奇異な視線を俺に向けてくる。


 俺だって話す度に陽菜の声になって自分の耳に届くから違和感しかないよ。


 「困ったわ。まだ慣れてないのもあるけど、和馬の筋肉体質ってすごく重たいのよ。それこそ全身に錘でも付けてるのかってくらい」

 「「「「......。」」」」


 頬に手を当ててそんな女の子発言するものだから、皆さん絶句してらっしゃる。


 俺だって、できれば自分のこんな仕草と声を聞きたくなかったよ。


 「じょ、冗談じゃないんですよね?」


 再度、千沙から引き攣った笑みと共にそんな声が上がった。


 「冗談じゃないわよ。えっと、ベタだけど、私しか知らない千沙姉との思い出を語ればいいのかしら?」

 「い、いや、私の人生はほぼ黒歴史なので、それは無しで」

 「そ、そう......。あ、なら和馬への愛をするのはどう?」


 “体現”?


 そんな疑問符が頭上に浮かんだのは俺だけではない。他の皆も何のことかわかっていない様子だ。それを見て陽菜は急に立ち上がり、


 ちょ!!


 「今から私は、和馬のことがどれだけ好きかを証明するわね! 具体的には和馬のち◯ぽを見ただけで射精できるくらいには――」

 「「「「「せんでいいせんでいい!!」」」」」


 俺らは全力で和馬ちゃんを止めた。


 そして取り押さえた後、下手なことしないように紐で縛った。


 そんな和馬ちゃんが『何するのよ、もう』などと可愛らしく言うが、外見が外見なだけに皆の心には響かなかった。


 「二人には悪いけど、とりあえず様子見かな?」

 「そうですね。ぶつかったことで入れ替わったとはいえ、もう一度同じことして怪我したら元も子もありませんよ」

 「そうねぇ。まぁ、一日経ってもそのままなら本格的に考えましょうか」

 「だね。そろそろ夕飯の支度をしなくちゃいけない時間帯だし」


 おっと。事の重大性より夕飯の支度に重きを置いている奴が居るぞ。


 平常運転にも程があるだろ。なんだ、中村家では年一でこれ相当のハプニングでも起こってるのか。精神、鋼すぎるぞ。


 とまぁ、そんな感じで俺らはこの事態を一旦放置することにした。



 *****



 夕食の支度時。


 「ふんふんふん、ふふんふん♪」

 「「「「「......。」」」」」


 キッチンに並んでいるのは二人。


 真由美さんと和馬ちゃんだ。


 言うまでもなく、鼻歌を歌いながら料理をしているのは和馬ちゃんである。普段の陽菜にぴったりサイズの淡い紺色のフリフリエプロンを身に着けて料理をしていらっしゃる。


 そんな光景を、俺らはなんとも言えない表情で見守っていた。


 「あ、ママ。お塩取って」

 「え?」


 「お塩」

 「あ、ああ、はい。ごめんなさいねぇ」


 隣に居る真由美さんはどんな面持ちだろうか。


 普段は隣で可愛らしい末っ子が料理を手伝ってくれるのに、本日はガチムチバイト野郎がその役を担っているのだ。


 俺だったら嫌だ。もしも自分の娘が突如として、こんな如何にも童貞そうな男の外見になってたら頭をかち割ってぶん殴る自信がある。


 そんな真由美さんは中身が末っ子とわかっていながらも、戸惑った様子で近くにある塩が入った容器を和馬ちゃんに手渡した。


 「ありがと、ママ」

 「......。」


 そして色々と限界が来てしまったのか、ついに真由美さんは口にする。


 「で、できれば、しばらくの間は“真由美さん”と呼んでもらえないかしら?」

 「?」

 「「「......。」」」


 ひっでーよな。普段は「そろそろ“お義母さん”と呼びなさい」とか言ってくるくせにさ。



 ****



 入浴時。


 「身体洗ってやるから、絶対目隠し外すなよ?!」

 「外さないって言ってるでしょ?! 何回言わせる気?!」


 「和馬おれの身体に興奮して勃起する奴を信用できるかッ!!」

 「そういうあんたこそ、後で私が洗う番になったときに外さないでよねッ!!」


 「つるぺたボディに興奮するわけ―――ねぶしゃッ?!」

 「ああぁぁぁああ!! ついカッとなって陽菜わたしを殴っちゃったじゃない!!」



****



 就寝時。


 「和馬!!」

 「ん? どうした?」


 「む、ムラムラしてないのに勃ってきたわ......」

 「......生理現象だよ、それ」


 「お、男って不便な身体してるのね......」

 「う、うるさいな」


 「ああ〜、でもなんかコレ見たらムラムラしてきたわ」

 「結局ムラムラするんかいッ!!」



****



 そして待ちに待った朝。


 「んあ?」


 俺は目が覚めると見知った天井を目にして、ここは中村家なんだなと察する。


 そのまま身を起こし、部屋の窓を開けて空模様を確認した。まだ少し薄暗い。時間も六時過ぎといったところだ。


 ふむ、天気予報ではたしか今日は晴れだった――


 「な?!」


 俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。


 昨日の出来事を思い出したからだ。


 身体をあちこちペタペタと触ると、鏡で確認しなくても自分の身体であることを察した。良かった、息子も健在だ。


 というか、もしかしたら昨日のアレは悪い夢だったのかもしれない。


 ......普通に考えたらそうだよな。


 「はは。疲れてんのかな、俺」


 そんな乾いた笑い声を漏らした後、俺は南の家へ向かった。


 そのまま朝食をいただくためにリビングへ向かうと、隣接しているキッチンで陽菜が鼻歌を歌いながら料理をしている姿が見えた。


 いつものように淡い紺色のフリフリエプロン姿で、鼻歌に連なって彼女のポニーテールが揺れている。そんな彼女の愛らしい後ろ姿を見ていると、つい抱き着きたくなってしまうが、今は我慢しよう。


 また今はこの場に陽菜しかいないみたいだ。彼女がトントントンとまな板で何かを切っている音が小気味良く、この空間に響いている。


 「おはよう、陽菜」

 「おはよ。お早いお目覚めね」


 「まぁな。いやぁ、昨晩は変な夢見たよ」

 「あら、奇遇ね。私もよ」


 そんな何気ない会話とともに、俺らの一日は始まるのであった。



――――――――――――――



ども! おてんと です。


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応援ハートが少ないとセクハラの一切存在しない小説を書きそうです(脅迫)。

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