お正月特別回 入れ替わり 千沙編 1

 「「っ?!」」


 現在、バイト野郎こと和馬さんは、中村家の南の家にて誰かとぶつかってしまった。


 きゃッ、と先方から発せられた声が美少女のそれで、俺は一瞬ででぶつかった相手が千沙だとわかった。


 が、不思議なことに、ガチムチを自負しているバイト野郎は、華奢な千沙とぶつかって尻餅をついている。


 おかしな話だ。俺の体幹でそんなことは無いだろうと自惚れながら、同じく倒してしまったであろう千沙に声を掛ける。


 「わ、悪い。余所見してた、大丈夫か?」

 「っ?!」


 心読まれた?!


 俺は今言おうとした言葉が、まさしく千沙の声から発せられたもので驚いてしまった。いや、そもそも俺が声を発したのに、俺の声が出てないみたいだ。


 駄目だ、何がなんだがわからん。


 そう思って俺は、突き飛ばしてしまった千沙の方を見た。


 はずだった。


 「「..................え」」


 二人の間の抜けた声が重なった。


 千沙だと思って見たら、目の前に居るのは絶世のイケメン、和馬さんである。


 俺は俺と目が合って、互いに目をぱちくりとさせていた。


 「な、なんで私がそこに居るんですか......」


 すると先方からも戸惑いの声が上がった。


 俺の声なのに、千沙みたいな口調なのである。


 目の前の人物が自分だとしたら、この自我がある今の肉体はなんなんだろうか。そんなことを思いながら、俺は自身の身体を観察した。


 この線が細い身体に真っ白な肌。ふぁさりと前に掛かった艶のある黒髪。そして一部だけ赤いインナーカラーが特徴的だ。


 うん、これどっからどう見ても千沙の身体じゃないか。


 目の前の和馬さんも戸惑った様子で俺の身体を弄り、「これ、兄さんの身体?」と呟いている。


 そして俺らは見つめ合って、一つの答えに辿り着いた。


 「「入れ替わってる......」」


 俺らは立ち上がって、すぐに洗面所のある場所へ向かった。


 洗面台にある大きな鏡に写し出されたのは二名の男女。絶世のイケメンと絶世の美少女である。


 俺たちは互いに自身の顔や身体のあちこちを触って、その動作が鏡に写された人物のと一緒になっていることを確認してから再び呟いた。


 「この身体、本当に兄さんのですね......」

 「この身体、本当に千沙のだな......」


 前者は聞き慣れた和馬さんボイスで、後者は聞き慣れない千沙ボイスで語られた。


 野太い声で語られるのは、まぁ、普段俺が葵さんたち上司に向けている敬語だから、そこまで違和感という感じはしなかった。


 問題は千沙特有の高めの声で発せられるオレオレ口調だ。


 美少女に転生したと思えるくらい違和感しか感じない。


 「おいおい。どうする? なんかすごいことになっちゃったぞ」

 「落ち着いてください。こういったときは冷静に分析することが大切ですよ」


 「お、おう。さすが中身千沙だな。冷静じゃないか」

 「もちろんです。千沙の“ち”を何だと思ってるんですか」


 「ちっぱい?」

 「今の兄さんわたしの膂力でしたら、千沙にいさんをワンパンできそうです」


 じ、自分をワンパンしようとするなよ。知性的の“ち”ですよね。わかってますって。


 まぁ幸いなことに、相手が冷静だとそれがこっちにまで伝播して、酷く落ち着けるな。こういったところは外見が変わっても、千沙に感謝しかない。


 「さて、兄さん。問題は二つあります。わかりますか?」

 「ああ。まず、これがいつまで続くのか、もしくは永久にこのままなのか。そしてその間の生活をどうするか、だな」


 「さすが私の兄です」

 「血は繋がってないけどな」


 お決まりのセリフを交わしたところで、今俺が上げた問題を二人で考えることにする。すると早速千沙から提案が挙げられた。


 「まずはこの“入れ替わり”の解き方ですね」

 「え? わかるの?」


 「大体こういうのはパターンが決まってるんですよ」

 「おおー!」


 外見和馬さんでも中身は俺の可愛い妹の千沙ちゃんは、右手の指を三本立ててから言った。


 「まず一つ目。“入れ替わり”がぶつかったことで発生したのなら、同じく再現することで試みることはできます」

 「なるほどな。でも成功するかわからないし、怪我するリスクもあるよな」

 「はい。ですので、最終手段にしたいですね」


 次に二つ目、と言ってから外見和馬さんは答えた。


 「一番ありえそうなのが、夢オチパターンですね。寝て朝起きたら全て元通り、もしくは全て無かったことになる感じです」

 「それが一番安心できるな」

 「まぁ、これは今日寝たときに自ずと証明される手段ですので、今は一旦保留にしましょう」


 そして最後に三つ目の解決策を千沙は語った。


 「これはロマンチックに則った方法ですが、キスをすれば万物の魔法のろいは解けるという解決策です」

 「......え?」


 俺はそれを聞いて耳を疑ってしまった。


 そして聞き返す。


 「き、キスって、今の千沙おれ和馬おまえが?」

 「はい」


 即答。


 俺は思わず何も言えなかった。さすがに王道な解決策とは言え、自分にキスするのはちょっと......。


 そんなことを思いながら、俺は自分自身とのキスを拒絶したのであった。



――――――――――――――――――



ども! おてんと です。

続きの更新は夜です。許してください。

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