第457話 不満でひっぱいな彼女
「......。」
早朝、決められた時間に鳴り響く目覚まし時計のアラーム機能は存在意義を失くし、予定した起床時間の数分前に目を覚ましたバイト野郎は、涙を流していた。
「んー......にい、さん......」
隣には絶世の美女、もとい血の繋がりの無い妹がすやすやと寝息をたてている。
別に超絶可愛い彼女が俺の腕の中に居るから、感動して泣いているのではない。
決してそんなことはないのだ。
「ぐす......」
現在進行形で全裸の俺は、こんなセックスから一晩明けた早朝を童貞で迎えたくなかった。女を抱いてから朝を迎えたかった。
彼女は裸じゃない。俺だけ、このダブルサイズ敷布団の上で全裸になっている事実に、オスとしての価値がこれでもかというくらい問われている気がする。
息子よ、使ってやれずにごめんな。
あと最近、オ○ニーできなくてごめんな。
だから、
「勃っていてくれよぉ......」
朝立ちくらいはしてよ。
******
「あ、おはよ。か、カズ君」
まだ言い慣れてないのな。前の呼び方に戻していいんですよ。
「おはようございます、葵さん」
昨晩の雇い主の名前知らない騒動(バイト野郎だけ)から一夜が明けた今、南の家にやってきた俺はリビングにて朝食の支度を手伝っていた。
俺が普段お世話になっている雇い主の名前を知らないことに気づいた千沙には弱みを握られてしまった。
昨晩はチクると脅されて身包み剥がされたな。羞恥プレイにも程があるだろ。もう既に千沙には何度も裸を見られてるけどさ。
無論、息子もね。通常時とフルボッキ時両方。
おっといかんいかん。朝食前なのに息子のこと考えたら出てくるソーセージをそういう目で見てしまうかもしれない。共食いは駄目だよ。ありがたくいただかないと。
そんなことを考えながら、俺は次にキッチンに立っている陽菜に声を掛けた。
ちなみに今日の彼女当番は陽菜である。
「陽菜、おはよう」
「はぁ......おはよ」
え、なに。なんで溜息吐いたの。
ちなみにこの場には今のところ俺を含めた3人しか居ない。雇い主は朝食ができるまで、仕事の下準備をしに出て行った。真由美さんは二階で洗濯物を干している。
俺はどうしたのかと葵さんに目をやった。
彼女も首を傾げてわからないと示した。
困ったな......。彼女の取説とかあったら大枚を叩いてでも買いたいよ。誰か売ってくれないかな、三姉妹彼女攻略本。
「陽菜。何かあったか?」
シンプルに聞こう。
わからないことがあったら悩んでいてもしょうがないし、『時間が解決してくれる』は駄目だと俺の経験則が訴えている。
「少しは自分で考えたら?」
ヤバいぞ。これ、かなり末期だぞ。
彼女がこんなあからさまな反応見せたら、原因の特定を急がなければならない。
自分で言うのもなんだが、日頃から陽菜の愛情をたっぷり受けている俺としては、コレは死活問題だ。
俺は葵さんにどうしたらいいのかと助けを求める視線を送った。
彼女はブンブンと横に首を振って知らないと主張する。
が、次の瞬間、彼女は両手をガバッと広げて自身を抱きしめた。
「......。」
おそらくゴーサインだろう。
『抱きしめろ』のジェスチャーで俺に命令しているのだ。
とりあえず不機嫌な女には抱きしめてイチャつけ、という半ば強引な攻めを実行しろと命令しているのだ。
葵さんはこと恋愛関連において頼りにしちゃいけないタイプの人間だろうか。
つい先日まで年齢=彼氏いない歴だった彼女を頼っちゃいけないよな。年上だからって知識や経験が豊富とは限らない。
が、俺は巨乳処女の指示に従って、キッチンに立っている陽菜に後ろから抱き着いてみた。
「っ?!」
すると先方からさっそく反応があった。
ドキッとしてくれたのならなにより。しかし後ろからきゃーという黄色い声が聞こえてくるので、行動に集中がしにくい。
陽菜は俺の奇行に一瞬だけ動揺したが、すんと無表情を取り繕って俺に言う。
「......なに?」
「その、えっと、今日の彼女当番よろしく」
今更だけど、いつになってもこんな馬鹿馬鹿しいお願いをしないといけないのが、この上なく自尊心を抉ってくる。
「当番と言っても、仕事して一日の余った時間を一緒に過ごすくらいでしょ」
「うッ。し、仕事があるから仕方ないじゃないか」
「はいはい。仕方ないわねー」
ほ、本当にどうしたって言うんだ。
いつものことじゃないか。陽菜だけじゃなくて千沙だってそうしてるし。なんで不機嫌なんだよ......。
昨晩は普通に別れたしな......。特にこれといって昨日から不機嫌だったわけじゃないから、本当に思い当たる節が無い。彼氏としてこれじゃあ駄目だぞ。
「ねぇ、いい加減離れてくれない? 料理がしにくいわ」
「あ、ごめん」
「ふん」
出た、“ふん”。お怒りなのは明白だ。
俺は抱きしめていた陽菜から離れて数歩下がる。彼女は俺を他所に、朝食の調理をテキパキと進めている。
が、包丁で食材を刻んだ際、まな板に打ち付けるその音がいつもよりもうるさい。きっと今の気持ちが入っちゃっているのだろう。
俺は再び葵さんに目をやった。
今の俺は藁にもすがる思いで必死なのだ。
「......。」
彼女は声を出すと陽菜にバレるからか、またもジェスチャーで俺に指示を送る。
自身の唇をトントンと指差して、その後に陽菜の方へ指を指した。
おそらく『キスしろ』ということだろう。
不機嫌な女にはキスで攻めろというなんとも大胆な行動を命令されてしまった。
真剣な顔してなに要求してきてんの。二人きりならまだしも、セフレもこの場に居るってのにしろってか。
が、ご両親が居ないだけマシと考えて、俺は葵さんの命令に従うことにした。
再び後ろから陽菜に抱き着く。小さな彼女の身体は本当に千沙と同じJKとは思えない。JCに戻った方がいいんじゃないかって思うくらいロリロリしている。
なんだ、“ロリロリしてる”って。
「し、しつこいわね。そろそろ怒るわ――んぅ」
怒られる前にキスで黙らせる男、高橋和馬である。
陽菜の顎を強引に、それでいて丁寧にこちらに向けて唇を奪った俺は、文句を言いたげな彼女の視線を無視して全力でキスをした。
さすがに早朝から舌とか絡められないので、上唇と下唇をはむはむするくらいに止めておく。
「なんでも、キスすれば、許される、と思ったら......大間違いよ」
息苦しかったのか、陽菜は熱い息を漏らしながら俺に文句を言う。
口ではそう言ってるけど、目尻がとろんと下がっているぞ。思わずこっちもこのまま童貞を捨てくなるじゃないか。朝から翌朝までパコパコしたい衝動に駆られる。
後ろで葵さんが、きゃー、とまたも黄色い声を送ってくる。見るな、恥ずかしい。
「わ、悪い。でも嫌な気持ちで今日一日過ごさせたくなくて――」
『ガラガラガラガラ!』
「ただいまー。朝食できたー?」
「っ?!」
玄関の戸が勢いよく開けられた次の瞬間、雇い主の声が聞こえてきたことにより、俺はほぼ条件反射の如く陽菜から離れた。こんなところを見られたら俺に明日は無い。
「......。」
「あ」
陽菜から無言の圧力を食らって間の抜けた声を出してしまうバイト野郎。控えめに言って、この上なく格好が悪い。
「ひ、陽菜――」
「ふん」
「?」
「はぁ、父さんって空気読めないよね......」
朝食を摂りに戻っただけなのに、長女から責められる父は若干涙目だ。
俺も責められる立場じゃないが、間が悪いのを雇い主のせいにしたくなる。
******
「はぁ」
「あらあら。溜息を吐くと幸せが逃げていっちゃうわよぉ」
天気は曇り。厚い雲のおかげで日差しは弱く、作業がしやすい環境なんだが、今の俺は気だるさから溜息を吐いていた。
昨晩、葵さんから依頼されたカボチャの収穫共同作業は午後やるとのことで、午前中は真由美さんとキュウリやナスを収穫する予定である。
今はキュウリ畑で収穫作業をしているところだ。
「女の子の気持ちって難しいですね」
「ほほほ。青春よぉ」
ラスボス人妻は口に手を当てて、こちらの不幸を面白がっているようだ。
一応、娘のことなんだからちょっとくらい手助けしてよ。そりゃあ影で見守ることも大切だとわかるけど、偶には支えることも同じくらい重要だと思う。
他力本願とも言うね。
「そうねぇ。最近の泣き虫さんは陽菜のことを軽んじている、くらいは伝えとこうかしらぁ」
「え」
「心当たりない?」
と言われましても......。
俺ほど彼女たちのことを考えている彼氏は、きっと全国探し回ってもいないと思う。3人のうち誰かに偏らず、平等に、かつ慎重に接しているつもりだし。
あ、葵さんはセフレだったからノーカンだ(笑)。
「心当たり......ですかぁ」
「わからないようじゃ駄目ねぇ」
経験不足を言い訳にするのもなんだけど、こればかりはなぁ。
そんなことを考えながら、俺はキュウリを収穫鋏で一本ずつ収穫し、カゴの中に積み重ねていく。大きさはある程度決まっているから、特に不揃いなものは採っていない。
キュウリは夏野菜の中でも成長がバカ早いので、午前中の今に収穫しても、午後にもう一度収穫を行わなければならないのだ。
「陽菜が一番不機嫌になりやすいんですよね......」
「あら、思考を放棄して愚痴に走るつもり?」
「うっ」
「もっと真面目に考えなさいな」
今朝からずっと真面目だよ。
ちなみに真由美さんが答え、もとい陽菜の気持ちを正確に理解しているのは、単純に昨晩一緒に寝たかららしい。仲の良い親子だこと。乱入して母娘丼を頂戴したいよ。
「昨晩はどんな会話してました?」
「それもう答えよぉ」
「もうギブアップですって」
「うーん。そうねぇ」
ラスボス人妻は色っぽく自身の唇に人差し指を当てて考える素振りを見せる。
......最近、溜まっているのだろうか。朝はすっきりと目覚められるけど、昼辺りから段々ムラムラしてきてどうしようもない。
超絶可愛い彼女たちに非があると言いたいが、最近の俺は24時間、誰かしらと一緒にいるのでオ○ニーする余裕が無い。
トイレ行ったときや入浴時に済ませればいいのだけれど、一応人んちだからね。
我が家のように使って、と中村家の皆に言われるけど、そこら辺はバイト野郎だってマナーくらい持ち合わせている。
借りている部屋は別だがな。
東の家の一室、イカ臭くしてごめんなさい。
夏休みの間は24時間毎日窓全開だよ。少しでもザー臭を外に逃したいから、換気は徹底しているんだ。
ああー。そう考えると、俺は窓を開けて異臭を解き放っているのだから、ある種の世界に対するセクハラなのかもしれない。
もう色々と末期である。
「泣き虫さん?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「わかった? 考え事していたようだけれどぉ」
ち○ぽのことしか考えてませんでした。ごめんなさい。
正直にそんなこと言えないが。
「やはり自分には難しいみたいです」
「はぁ。まぁ、少しは自分で悩んでくれたみたいだから教えてあげるわぁ」
「ありがとうございます」
再三言うけど、ち○ぽのことしか考えてませんでした。ごめんなさい。本当どうしようもない娘の彼氏でごめんなさい。
よかったらお義母さんの方から娘に、あいつとは別れた方がいいよ、とか言ってくれません?
こんな最低な男と付き合っても百害あって一利なしですよ。セックスしたい。
「実はねぇ――」
時は日付が変わる1時間前ほどのこと。
真由美さんは陽菜とした会話をありのまま教えてくれた。
『ママ、一緒に寝ていい?』
『あら、珍しいわねぇ』
『ちょっとね......』
『また泣き虫さんのこと?』
『さすがママ』
『ふふ、陽菜が来る時は毎回愚痴よねぇ』
ちょっと待って。
序盤で止めて悪いけど、もしかして俺は今から回想話で彼女の愚痴を聞かされるの?
いや、覚悟はしてたけど、女の子の愚痴ってかなり棘があるじゃん。
俺泣かない?
『あいつ、マジなんなの』
『まぁまぁ』
ぐすん。もう涙が......。
『花火大会で浴衣姿褒めないわ、彼女が傍に居るのに上の空だわ、最悪よ』
『あらそんなことがあったの......』
『なんか葵姉のことが気になってたみたいだから自由にさせてみたけど、セフレにして連れてくるとかなんの冗談かしら?』
『泣き虫さんなりに考えがあったのよぉ』
『どんな考えよ。あいつ、自分が童貞だっていうのに何様かしら』
『でもこれで葵も報われたわぁ。......やっぱりライバルが増えるのは嫌?』
『別に。私と幸せになってくれるのならかまわないわ』
『陽菜の方がよっぽど器が大きいわねぇ』
『それにあいつの性欲考えたら私だけで相手するのキツそう。現に一晩かけて空にするのがやっとだったし』
『そ、そう......』
『はぁー。和馬とエッチしたい』
『お、お母さんに言われても......』
いや、どんな母娘の会話。
情緒、大丈夫? よくもまぁそこまで赤裸々に語れてたな。
というか、“一晩かけて空にする”とは何を指してのことだろう。そこら辺問い質したい。
まさかとは思うけど......いや、無いな。
俺は常日頃からそういったことはシないと明言してるし、俺の彼女なんだからヤッて良いことと悪いことの分別はついているはずだ。
「とまぁ、こんな感じよぉ」
「さ、さいですか。事情は把握しました。帰ったらさっそく陽菜に謝ってきます」
「謝っただけで許してくれるかしらぁ」
「......と言いますと?」
真由美さんは口に手を当てて、悪戯な笑みを浮かべつつ言う。
「そこはほら、“なんでもするから”を付け加えればいいのよぉ」
「そ、それはちょっと......」
「女は男の“なんでも”に弱いわぁ」
俺の童貞卒業がチラつきそう。さっきの回想話からでも陽菜がエッチな子だってのはわかったから、“なんでも”がどうしてもそっち方面に向かっちゃう気がする。
正直、俺もエッチしたいです。
もう誰が一番とか決めらんないから、テキトーに初体験を終わらせたい。
具体的には曲がり角で彼女たちの誰かとぶつかって、倒れ込んだ拍子に彼女の
だから早く卒業してセックス三昧な日々を送りたい。
「まぁ、試しに言ってみなさいな」
「言ったら終わりですって」
「案外、デートしたいとかかも? あの子も女の子だからねぇ」
そんなこんなでバイト野郎とラスボス人妻は夏野菜を収穫していくのであった。
*****
「全裸になりなさい」
「......。」
真由美さん、おたくの末っ子は彼氏の全裸姿をご所望のようですよ。
デートとかそっち退けで、彼氏を剥きたいみたいですよ。
一人の女の子というより、一匹のメスですよ。
現在、夜を迎えた俺と陽菜は東の家のとある一室にて寝る支度をしていた。例のごとくダブルサイズ敷布団を押入から取り出して敷き、完成したところで俺から提案してみた。
なんでもするから許して、と。
今日一日、時間経過で機嫌が直ることは無かった彼女に対してだ。
「それ以外で――」
「“なんでも”って。言葉の意味は何かしら?」
「......。」
ちょ、待ってよ。また裸になるの? 昨晩もなったよ? 千沙に弱みを握られて、全裸のまま彼女と朝を迎えたよ?
あんな惨めな気持ちをまたしろってか。この鬼。姉妹揃って同じ思考しやがって。
「安心なさいな。別に襲ったりしないから」
「いやでも......」
「なんだったら私も全裸になってあげ――」
「や、やめて。こっちの理性が飛ぶからやめてください」
くそうくそう。昨晩も全く同じやりとりしてたぞ。
でも千沙には全裸を見せて、陽菜には見せないは不公平だよな。別に脱ぎたいわけじゃないけど、そこら辺はちゃんと偏ること無く平等に態度で示していきたい。
「そんなに信用が無いんだったら、私の手足を縛って寝てもいいわよ」
「隣に全裸の男が居てそれは絵面が最悪だろ......」
斯くして俺は渋々全裸になって、愛しの彼女と床に就くのであった。
*****
〜その後〜
*****
「んぐ......ぷはぁ。やっぱ服とか邪魔よねぇ」
「すぴーすぴー」
「顎が疲れてきたし、もういい加減
「すぴーすぴー」
「......駄目。こいつの意思で
「う゛」
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