第452話 ハッピーエンドの一歩手前はすぐそこで・・・

 「わわわわ!! 速度落として!!」

 「ええー」

 「ええーじゃないッ!!」


 風切り音が煩くても彼の意地の悪い声が聞こえる。相変わらずいい性格している彼だった。


 現在、私は意中の彼と一緒に打ち上げ花火を見るため、穴場スポットに向かっていた。去年と同じ場所で、状況も同じである。きっと陽菜も千沙もそこに居るはずだ。


 時間としてはギリギリ......かな? 去年は和馬君が自転車で私を後ろに乗せて全力で漕いでたけど、今年は彼が私の家に来る前に、バイクに乗ってきてくれたので道中の苦労はそこまでじゃない。


 いや、私が苦労してるな。


 ものすごく。


 「ここここれって速度どれくらい?!」

 「6じゅ――30キロくらいです!」

 「今半分にしたね?!」

 「黙秘権を行使します!!」


 そう、彼が以前、西園寺達也さんから貰ったというおっきいバイクの後ろに乗せてもらっている。


 しかもノーヘルで。


 いけないことしてるようで......“ようで”じゃないよね。してるよ。


 せめてヘルメットくらい用意して、と言いたかった私だけど、彼がバイクの鍵を所持していたおかげで、すぐに出発できたから文句が言えない。


 これで打ち上げ花火に間に合わなかったら今までの過程が薄れちゃうし。


 「曲がりまーす!」

 「ひゃう?!」


 車体が傾いたことでより一層、後ろから彼を抱きしめてしまった。


 その際、和馬君が『おふう』と間の抜けた声を漏らしたので、何事かと思ったけど、彼は私が抱き着いたことによる胸の感触に快感を覚えてたみたい。


 もしかしてだけど......わざとじゃないよね?


 嫌だな。彼が本当に私の身体目当てだったとか。


 「葵さん! それより自分の運転を褒めてくださいよ!!」

 「嫌だよ! 面倒くさい!」


 「それが普段の自分の気持ちです!」

 「......。」


 さいですか......。


 これからは自重を考えますね。考えるだけだけど。


 「和馬君......」


 そんなこんなで走行中の猛スピードに気疲れしてしまう私だけど、それとは関係なく、彼の名前を呟いてしまった。


 たとえ風切り音でこの声が掻き消されようとも、彼には届かなくとも、何度も何度も......。


 幾度となく、繰り返した名前の人物が本当に私のことも好きになってくれたのなら、これほどまでに嬉しいことはもう二度と訪れないような気がした。


 今度は放さまいと、決して離れたくないと意思を込めて、彼に抱き着いてしまう。


 「うっ」

 「?」


 そんな私に力が入りすぎたのか、急に彼が呻き声を上げた。苦しかったのかと思って私は彼の身を心配していると、彼は急に前傾姿勢になった。


 「ど、どうしたの?!」

 「..................空気の抵抗を減らすためです!!」


 す、すごい間があったよ......。


 一瞬、いつものように勃っちゃったのかと思ったけど、真剣な彼のことだ。法を犯してまで、打ち上げ花火に間に合うよう頑張ってくれているに違いない。


 だから私も彼に協力すべく、前傾姿勢になってみた。


 当然、彼の背中に自身をくっつける形でである。


 「ちょ!」

 「く、空気の抵抗を減らすためだから!!」


 決して、もっと彼に抱き着いていたいとか邪な理由は無い。


 無いったら無い!


 「葵さんがそんなことしたら前傾姿勢になった意味が!!」

 「え?」

 「っ?! な、なんでもないです!!」


 いや、彼に邪な思いがあったのかもしれない。


 あ、“も”じゃない。“彼には”だ。


 きっと言葉の意味は、彼の股間に隆起しているモノに触れれば一発でわかることだと思うけど......乙女だからそんなことしちゃ駄目である。


 ......でも私は彼の“セフレ”だからいいのかな?


 などと心の中で考えてしまう長女であった。



――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


次回更新は今夜です。切りが悪いので二分割しました。


あと本章の最終回です。


お楽しみください。

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