第442話 和馬さんの知らないところで・・・

 「あの、千沙さん」

 「なんです?」

 「その2つの枕はいったい......」

 「知らないんですか? YES、NO枕ですよ」


 “NO”が見当たらないんですが。“YES”が二つもあるんですが。


 現在、一日の仕事を終えたバイト野郎は、連日続く千沙との交際関係に苦戦を強いられていた。場所は俺が借りている部屋である。


 日付が変わってもゲームし続けるから睡眠時間をガリガリ削られるし、床に就いたら就いたで擦り寄ってきて中々眠れない。今晩も、やっと寝れるかと思ったらまさかのYES、NO枕だ。


 千沙ちゃんは毎日毎日お兄ちゃんをイジメて楽しいのだろか。


 「兄さん♡」


 兄よりも早く布団の元へ行き、ピンク色のYESと書かれた枕を恥じらいながら俺に向ける妹。


 控えめに言って超絶可愛い。


 今すぐにでも、千沙のパジャマを引き裂いてゴム無し中◯しセックスをしたい衝動に駆られる。


 が、しかしそれでも襲えない理由が童貞にはあるのだ。


 「はぁ。寝るぞ」

 「ええー」

 「んな枕買ったからって俺がする訳ないだろ」

 「まぁ、わかってましたけどー」


 お前、強気だけど処女よな?


 絶対挿入れた時、泣くタイプだよな。


 言っとくが、その時になって『痛いので止めます』とか抜かしても聞かないから。全力で犯すから覚悟しとけ。


 無論、それは逆も言えることで、俺が『もう出ちゃったので止めます』と言っても聞いてくれないのだろう。息子が痛がってても全力で犯されるに違いない。


 兄妹とはそういうものだからな。うん。......兄妹ってなんだろう。


 「あ、そういえば今日のお母さん、なんか様子が変じゃありませんでした?」

 「ああ、たしかに」


 二人仲良く、ダブルサイズ敷布団に就く俺たちの会話は千沙から始まった。


 まぁ、真由美さんの様子が変だったというか、最近、やけに俺にダル絡みしてくるからその時点で変......というより面倒な人だったけど、今日は生気を失っていた気がした。


 「たしか俺とスイカの収穫してから様子がおかしかったよな......」

 「ま、まさか兄さん、お母さんまで......」

 「いやいやいや! いくら俺が変態でも、そんなことするわけ無いだろ!」


 妹にあらぬ疑惑を抱かれた俺は、必死に身の潔白を語った。そのおかげでなんとか妹の心配は若干拭えた模様。


 「まぁ、兄さんですしね」

 「それで納得されるのは釈然としないな......」

 「なにを今更」


 ふむ。今回はいいとして、よく考えたら身の潔白の証明って思ったよりも難しくないか?


 「千沙、さっきの話を蒸し返すわけじゃないが、もしそういった状況になった場合、自身がそういう行動を取っていない証明は、どうすればいいと思う?」


 例えばの話だが、真由美さんとの不倫関係を疑われた場合、どのようにして周りの人たちを説得すれば良いのだろう。


 日頃の行いや為人ひととなりを熟知している人であれば問題はないが、如何せん俺には変態というレッテルがこびり付いてしまって、証明が難しく感じる。


 「そうですねー。仮に私が兄さんとは別の男性と一日を過ごしたとします。兄さんはどう思いますか?」

 「......嫌だな。処女性を疑っちゃう」

 「なんですか、“処女性”って。まぁ、事実、その男性と何も無かった場合、気持ち良く疑いを晴らすには何をしたらいいでしょう? わかります?」


 千沙がそんなことするはすがない、という俺の信頼は完璧じゃなくて、絶対にそんなことは無いと頭では理解していても、心のどこかでは引っかかるに違いない。


 だって不安だから。


 俺なんかよりよっぽどイケメンで、切れ者で、千沙と趣味嗜好の相性が抜群な相手が現れたら不安になってしまうから。


 「だからそれを聞いているんだよ。証拠をどうやって示すんだ?」

 「簡単です。その場で処女膜を破ればいいんですよ」

 「ふぁ?!」


 こいつは何を言ってんの?!


 「血が流れたら、私が純潔だったことの証明になります」

 「い、いや、お前、それはちょっと......」

 「はは。もしかしてその場になっても、そんな捨て方に文句言います?」


 せっかくの処女膜が!なんて発想には至らないと思うが、それでも色々な意味でやりすぎだろ。


 「まぁ、これは私がまだ膜所持者だった場合に限りますが」

 「そ、そんな安易にできるもんじゃないでしょ」

 「そりゃあ状況的にも気持ち的にも嫌ですよ。兄さんに初めてはあげたいですし」


 うっ。よくそういうこと平然と言えるな。


 「でも、恋人にそんな不安を抱かせる方がよっぽど嫌です」

 「......。」


 千沙が天井に顔を向けたままそう言った。


 「そんときになったらなったで、後々罪悪感で気まずくなるぞ」

 「ふふ。その後、ホテルに直行して私を抱けばいいんですよ」

 「んな3秒ルールみたいに言うなよ......」


 これは愛されていると喜べばいいのか、自分を大切にしろと認識を改めさせればいいのか......困った奴と付き合ってしまった感が否めない。


 「逆に兄さんの場合はどうでしょ?」

 「あ、そうだよな。俺はどうしたら信じてもらえるだろ」

 「まぁ、兄さんがそんなことするとは思えませんが、童貞と非童貞の違いってすぐにわかりませんもんね」


 いや、それが我が親友によれば、雰囲気から一瞬で童貞か非童貞かわかるらしい。おそらく経験過多な会長もだろう。


 だが、そんな他力本願では即効性に欠けてしまうし、所詮は他人の説得で千沙の不安感は拭い切れない。


 「あ! ならその場で食ザーさせて濃さとか測ればいいか!」

 「っ?!」


 俺の一言に酷く驚いた様子の千沙である。それもそのはず、俺のドストレートな発言は場所に構わずイラマチオする宣言だから。


 「に、兄さんって相当ヤバいですよね......」

 「ブーメランだぞ」


 お前に言われたくないが、言い返せないので致し方ない。


 いや、でも結構名案だと思う。これなら童貞、非童貞関係なく金玉具合で身の潔白を証明できるし。


 回数で濃度が変わるのは、既に日々の自慰で確認済みである。我がザー汁が濃かったら白で、薄かったら黒だ。


つまり薄ければ嘘を吐いていることになる。


 ザー汁は白だがな(笑)。


 「私、その場で食ザーしないといけないんですかぁ」

 「安心しろ。ちゃんと多目的トイレを探すから」

 「そ、それ、一時期問題にもなったんですから、やめてください」


 そんなこんなで、俺らはどちらかが眠るまで、馬鹿げた会話を続けるのであった。



*****

〜その後〜

*****



「う゛」

「んぐッ?!......んく、んく......けほ、おえ......ほんと苦い、ですね。飲み込むのも喉に絡まって辛いです」


「すぴーすぴー」

「......兄さんが食ザーの話をしたときはドキッとしましたよ」


「すぴーすぴー」

「......もう一回シますか。これも練習練習♪」

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