第444話 廃れた息子と不審なカノジョ
「ふぁ〜あ」
チュンチュン。小鳥の囀りが聞こえる。
まだアラームは鳴っていない。起床予定時間の2、3分前に目が覚めるというナイスなタイミングだ。
もはや6時の起床が習慣化されつつある俺の朝に、眠気などあっという間に去っていくと言っても過言じゃない。
「んー! 今日も晴れ......かぁ」
俺は部屋の窓から心地よい日を浴びながら伸びをした。
が、それも束の間。
一滴のしょっぱい水が俺の頬を伝って床に落ちていく。
「息子よ......」
泣いてなんかない。
そう、これは雨だ。涙などではない。
「なぜ勃たなくなった......」
決して涙ではないのだ......。
*****
「はぁ......今日もか」
約17年間。
生まれた瞬間から相棒でもあった息子は、俺にとって切っても切れない関係で、幸せなときも苦しいときも共に過ごしてきた。
時には出すもん出して俺に快楽を与えてくれ、時には無意味にKY勃起をして迷惑もかけられた。
でも今となっては、それらも良い思い出で、どっちも勃起あってのハプニングである。
そう、勃起あっての......。
「なんで勃たなくなったんだろ......」
んなこと自問しなくてもわかる。
アレだ。呆れられたんだ。俺は息子に呆れられたに違いない。
日替わりで、見目麗しい彼女たちが俺の相手をしてくれているのに、俺は息子を使うどころか、親馬鹿にも過保護に未使用を貫いていた。
だから呆れられたんだ。
今ならわかる。息子は、『俺はなんのために生まれてきたんだ』と嘆いている。
嘆いて勃たなくなっているに違いない。そうとしか考えられない......。
「息子よ、いつもは俺より早く起きていたじゃないか......」
ところが息子は完全に勃たなくなったのではない。
現に昼には回復していて、試しに魔法のランプのように擦ると反応を見せてくれるのだ。
まぁ、擦り続けても出るのは魔神じゃなくて白濁液だが、一応それも問題なく出る。
朝だけなのだ。朝だけ勃とうとしない。
「まさかこんな若いうちから勃たなくなるなんて......」
朝勃ちとはちゃんと子孫を残せるよう、夜間中に定期的に勃起をして、その男根たらしめる硬さを忘れないようにしているのだ。
だから朝勃ちは大切なのである。
なのに、最近の息子は全然だ。朝起きてもシーンとしている。
なぜなんだ......。
「はぁ......」
俺は溜息を吐きながら、ダブルサイズ布団を畳んで押入にしまった。無論、小恥ずかしいYES・YES枕もだ。
ちなみに昨晩一緒に寝ていた陽菜はもうここに居ない。
俺が起きる30分くらい前に起きて、南の家に戻っている。そのときも俺を起こさないよう、静かに出ていってくれるのだ。
そして朝ご飯の支度や洗濯物を干したりしている。ほんと俺には勿体ない嫁さんだよ......。
まだそんな関係じゃないが。
「朝から考え込んでも仕方がないな」
俺はそう自分に言い聞かせて南の家へと向かった。
*****
「ふぁ〜あ」
「眠たそうだな」
「ちょっとねー」
南の家のリビングへ辿り着いた俺は、千沙以外のメンバーと一緒に朝食の準備をしていた。
エプロン姿の陽菜は毎日早起きだからか、朝型の人間だと思っていたが、欠伸をしている様子から珍しく思ってしまう。
「あまり睡眠時間がとれなかったのよ」
「たかはしぃ!! 娘になにしてくれとんのじゃぁ!!」
おっと。お義父さんが勘違いするような発言は控えようね。
でないとまだ卒業もしていない童貞が冤罪で耕されちゃう。
「落ち着いてください。依然として自分は童貞ですよ。息子見ます?」
「ちょ、朝食前に出さないでよ。それに見てもわからないし」
俺がズボンに手をかけたところで、葵さんからストップが入った。
自分で言うのもなんだが、今の所作に戸惑いがなかったのは人間として反省すべき点だと思う。
「わかってるならいいけど、娘に手を出したらちゃんと責任を取ってもらうからな」
「和馬。パパの言うことなんか聞くことないから、いつでも来なさい」
「くッ! 今のうちに耕しとくか!!」
陽菜、お前がそういうことを親の前で言うから、俺はいつも崖っぷちに立たされるんだよ。
それに返答にも困る。
親に向かって『抱くわけないじゃないですか』なんて自殺願望もいいとこだし、逆に、『今晩は寝かせないから』なんて言ったら親が居た堪れなくなる。
ああだこうだと早朝から言い合う俺たちは、食卓の席に着いても止まることを知らなかった。
「はぁ」
「「「「......。」」」」
が、朝から騒がしくしている俺たちでも、人妻の妙に響く溜息の前では再び静けさを取り戻してしまう。
いや、ほんと最近どうしたの。
生理が来なくなっったのかな? んなこと死んでも口にできんが。
「いでっ?!」
そんなことを考えていた俺は、脛に生じた痛みにより声をあげてしまった。
例の如く、テーブルの下で繰り広げられる、“無言で脛蹴り攻撃”だ。葵さん、陽菜、雇い主からの猛攻撃に早くもバイト野郎は涙を流すことになる。
当然、俺が攻撃の対象にされているのは言うまでもなく、真由美さんの溜息の原因がバイト野郎にあると思われているからだ。
俺、悪くないのに......。
というか、こうなった原因の一部は葵さんにもある気がする。
巨乳長女が余計なことを言わなければ、真由美さんが勘違いすること無かったのに、一体どんな心情でバイト野郎の脛を蹴れるんだ。そこら辺を問い質したい。
よし、とりあえず話題は自分で作ろう。
「そういえば陽菜と昨晩話し合っていたんですが、今年も四人で花火大会観に行こうかと。どうでしょ、葵さん。都合が良ければ一緒に行きません?」
「え?!」
「なッ?!」
「気をつけて行ってね。彼氏という自覚を持って、周りの猿共から娘たちを護るんだよ」
「頼んだわよ、和馬」
俺の誘いを聞いて平然と語ってみせたのは、雇い主と陽菜の二人である。
驚いた様子を見せたのは葵さんと真由美さんだ。前者はどこか歓喜からなる声をあげ、後者は絶望しきった悲鳴にも聞こえる声をあげた。
今日の真由美さんは情緒不安定だな......。
「そ、それって和馬君、もしかして......」
「はい。せっかくの花火大会、また四人で楽しみましょ」
この様子だと葵さんはよっぽど行きたかったんだな。たしかに彼女持ちの男とその輪に入って行くの抵抗あるよね。うんうん。
でもそれは置いといて、去年みたいに仲良く楽しもうじゃないの。
「陽菜ぁ!!」
「ちょ! 食事中よ!!」
朝食中にも関わらず、葵さんは陽菜に抱き着いた。この光景を元カノが目にしたら涎を垂らすに違いない。
「私、これから頑張るね!」
「な、何を頑張るのかしら?」
「姉として! 一人の女として!」
「ちょっと何を言ってるのかわからないわ」
禿同。
こうして俺たちは去年と同じく、四人で花火を観に行くことになった。中村家の朝は相変わらず騒がしい。いや、賑やかと言うべきか。
「......。」
ただ若干一名、人妻がこの空間で、顔を覆うようにして両手を当てている様が浮いていたが。
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