第440話 スパゲッティな恋愛?
「うわぁ。痛そう」
「痛いですよ。ぎッ?!」
「あ、ちょ、動かないで」
現在、俺は頬に負った傷を葵さんに治療してもらっている。
治療、なんて大層なもんではないな。思いっきり千沙に殴られたので、葵さんが持ってきてくれたアイスバッグを頬に当てているだけ。中に入った氷が心地いい。
逆DVもいいとこだよ。
殴られた理由を考えたら文句言えないけどさ。エロ本は不可抗力。
「その、この怪我って......もしかして」
「いや、これは、その......」
「......そりゃあ千沙でも怒るよね」
葵さんが切なさそうな顔つきで俺の患部を見つめて言っきた。まるで私のために負ってくれた怪我なんだね、と言わんばかりの眼差しに思える。
色々と察した感じで言われたんだけど、もしかして俺がエロ本をバイト中に読んでいたことがバレた?
そんなピンポイントで?
千沙から理由を聞いたのかも。いや、千沙はあの後、怒って東の家に直行したから、葵さんとは会ってないはず。
「はは......すみません」
とりあえず、それっぽく謝っておこう。
バイト中にエロ本読んでてごめんなさい、などとドストレートな謝罪はできないけど。
「そんなすぐ千沙に言わなくても......」
「いや、自分からは言ってないんですけど、バレたというかなんというか......」
「え?! そんなにあからさまだった?!」
そりゃあ草むらの中でエロ本見てたら、言い訳も思いつかないくらいあからさまだよ。
「ええ、大胆でしたから」
「そ、それって私のせい? 私ってそんなにわかりやすい?」
「え、葵さんが?」
「え、私じゃないの?」
「「え」」
なんで俺がエロ本読んでたことと、あんたの態度が関係あんだよ。
「じ、自分がいけなかったんです。まぁ、千沙には悪いことしたと思ってます。反省はしてますが、後悔はありませんよ」
「か、和馬君......」
葵さんは瞳に若干の涙を浮かばせるが、続く言葉を口にしなかった。
泣くほど落胆させちゃったかな、俺。
あまり自分で認めるのもどうかと思うけど、バイト中にエロ本読んでても、『和馬さんだな』程度で済まされる人生を送ってきたはずだぞ。
まぁ、仕事しないでエロ本読んでたのは、人間としてクズ中のクズだが。
「わ、私だって力になるって言ったんだから、言ってくれればいいのに」
「いや、それはちょっと......」
エロ本発見したら上司に報告しろって? 馬鹿言ってんじゃないよ。秘密裏に読むに決まってるでしょ。
「でもそっかぁ......当然だけど、千沙は反対するよね」
そりゃあ彼氏がエロ本読んでたら怒るよね。
千沙だって、俺の家に山程オカズがあるってこと知ってるんだから、その延長線上だと思えばいいのにな。
「許してくれる人なんていませんよ」
「だよね、こんなこと普通。......次は陽菜に言うの?」
「え」
陽菜にも言わないと駄目?
彼女に実はエロ本読んでましたって言わないと駄目?
そりゃあ、まぁ彼氏として最低なことしたと思うよ。でも自ら進んで言うもんじゃなくない?
殺されちゃうよ......。
「い、いや、それはちょっと......」
「な、なら今度は私が言ってくるよ!」
こいつぅ! なんつう告げ口しようとしてんだぁ! 俺に死ねってかぁ?!
「葵さんがすることではないかと......」
「いいや! 私も頭を下げてないと!」
ここは上司も一緒になって謝らないといけない場面ではないと思う!
恥ずかしいよ。エロ本読んでたことを上司と一緒に、バカ正直に彼女に告白しなきゃいけないなんて恥ずかしいよ。
踏まなくていい地雷を二人で踏みに行ってどうするのさ。
「あ、葵さん。とりあえず落ち着きましょう」
「でもこういうのは早く言わないと! ほら、花火大会前にできるだけ早くね!」
「は、花火大会?」
なぜに花火大会が関係してるの。
ああ、花火大会前に早くこういう
なんなら数日おけば許してもらえるくらいの罪の軽さだと思ってる。
ほら、結局のところ、俺がただただ変態だったって話だし。千沙も陽菜もそこら辺は重々承知していると思う。
「うっ、その......花火大会に間に合えば嬉しいかなって」
「あいつらはそこまで気にしないと思いますけど......」
「そ、そうかな? 私は早いとこ受け入れてほしいというか......」
いや、早かろうと遅かろうと受け入れてはくれないと思う。俺だって陽菜と千沙が別の男の裸体なんかでオ◯ニーしてたら、嫉妬で怒る自信がある。
都合のいい話だけどね。カップルってそういうもんなんだよ、巨乳処女さん。
まぁ、千沙と陽菜の二人とエッチができない俺の立場からしたら、オカズ事情くらい黙認してもらいたいな。
じゃないと思春期特有の次々と生み出される性欲が爆発しちゃう。そういった面で言えば彼女たちには受け入れてほしいものである。
「気持ちはわからないでもないですが、事を急いては却って二人に
「うっ。そうだよね」
何もかもエロ本を読んだ俺に非はあるが、とりあえず二人のことが心配ですよ〜という雰囲気を醸し出して言ってみた。
こと18禁において、俺の好みを熟知している千沙でも、俺がエロ本を読んでたら怒ったんだ。それをノータイムで陽菜にも告白したら息子の生存率が危ぶまれる。
そんなこんなで、なんとか上司と一緒に陽菜の下へ向かう地獄は免れたのであった。
......ふむ、先日からやたらと葵さんとの距離が近い気がするけど、きっと気のせいだろう。
******
〜葵の視点〜
******
「まさか和馬君が私との関係を、もう千沙に言ったなんて......ふふ」
天気は晴れ。相変わらずの天気でうんざりしつつ、今日も仕事を頑張る中村家長女、葵である。
が、暑苦しい日々でも最近は仕事が楽しく感じてしまうし、明日からも張り切れちゃう気がしてしょうがない。
というのも、和馬君と曲がりなりにも交際関係を築けたからだ。
まだ仮もいいとこな話なんだけど。
「なぁにぃ、にやけ顔なんかしちゃってぇ」
「っ?!」
不意にどこからか、聞き覚えのある声が聞こえて私は驚いた。振り返れば、そこには母さんが立っていた。
「お、驚かせないでよ」
「なにか良いことでもあったのかしらぁ?」
特に悪怯れもせず会話を続ける母さんの問いに、私は黙り込んでしまった。千沙はともかく、陽菜にも告げてもいないことを、母親に言うべきか迷ったからだ。
が、そんな私の迷いなど無意味に、
「泣き虫さんと関係作れた?」
「え?! 私ってそんな態度に出てた?!」
まさか母さんにまでバレるとは!
思い返したのは、さっきの和馬君との会話である。実は、すでに千沙は私たちの関係に気づいていたとのこと。
......露骨に距離を縮めすぎたかな?
「え、本当?」
「......。」
鎌掛けないでよ......。
こうなったら腹を括るしかない。
「ま、まさか本当に葵まで......」
「......やっぱり母親として反対?」
「それはまぁ、娘三人の相手がたった一人の男を相手にするだなんて許せないわぁ」
「そ、そうだよね」
「でもそれ以上に娘たちの幸せの方が大切だから。その前では一般常識なんてクソよぉ」
「母さん......」
母さんは本当に私たちのことを考えてくれるんだなぁ。
たとえ世間体が悪くても、一時の幸せであったとしても、それを第一に考えてくれる。母さんの娘で良かった......。
優しげな笑みを浮かべた母さんは、次に苦笑いをして口にする。
「ふふ、こんなことなら泣き虫さんがあと二人欲しいわねぇ」
「ちょ、それ辞めてよぉ」
「?」
つい最近、似たような話題で和馬君と一悶着あったのに......。
気が乗っていたのか、私は母さんに最近、和馬君と何があったのか話すことにした。久しぶりに母親と二人でお昼ご飯の調理をしながら。
さて、これからが大変だね。千沙と陽菜の二人に認めてもらわないと。
そして今年の花火大会も四人で観に行こう。
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