第438話 領地開拓

 「な、な、な」


 天気は相も変わらず晴れである。この頃、晴れの日が続くことで、少し乾燥した暑さが続いてた。


 畑の土もすっかり乾いていて、夏野菜にも命の危機が迫っている。ここいらで雨が降ってくれると助かるんだけどな。畑の上を歩くと土埃が舞って最悪だよ。


 今の俺の気分も最悪なもんだが。


 「なんじゃこりゃあぁああぁああ!!」


 荒れ果てた畑の上で俺は叫んだのであった。



*****



 「なにって、ここが兄さんの領地です」


 冷たくそう言い放ったのは我が妹、千沙ちゃんである。彼女は作業着に身を包めている。それは俺と同じでツナギ服だ。


 さすがにこのクソ暑い中じゃ、昨晩のような王様コスプレはできないらしい。してたら頭がいよいよ末期である。


 「え、ここが? 本当に? 俺が自由に使っていい畑なの? そもそも畑なの?」


 俺たちはここ、中村家から歩いて数分に位置する所有地にやってきた。


 先日、中村家で扱っている畑のうち一つをバイト野郎に貸してくれるという話があったのだ。


 俺としても家庭菜園をやってみたかったので願ったり叶ったりな案件である。


 で、なぜか千沙自らその畑を俺に紹介してくれた。巣から出ないことで定評のある千沙が、だ。


 「歴とした畑ですよ」

 「いや、それにしても......荒れ果ててない?」


 紹介された畑は奥行き10メートル、横5メートルあるかどうかの小規模な畑である。周りは土手や、上部には他の農家さんの土地があり、そこに隣接していた。


 規模は手がつけやすい範囲と言えるだろう。毎日、育てた野菜を見に来るほど、今の俺に熱意は無いからな。ただちょっとやってみたかっただけというのが本音である。


 が、それがどうだろう。土地の規模はいいとして、だ。


 俺の腹部にまで成長しきった雑草、目を凝らせば空き缶や瓶などゴミがポイ捨てされている。正直、畑には見えない。ただの放棄された土地である。


 「これでも1年前は普通の畑でしたよ?」

 「マジ? 数年間放置されていた感じがするけど......」

 「見た目だけです。元々、ここの畑は私の管轄です」

 「ふぁ?! ここ、お前のかよ!!」


 農作業しない奴が畑持ってどうするんだよ!


 俺のそんな疑問は、千沙が答えたことですぐに解消される。


 「姉さんたちにも畑があるように、私も貰っていたんです。ま、畑にするより更地にして、ちょっとしたキャンプ場や秘密基地でも造ろうかと思ったんですが、面倒くさくなって断念しました」

 「そこを畑にして大丈夫なのか?」


 「私が放置していても、去年まではお父さんたちが定期的に草刈りなどしてくれましたし、偶にも行っていましたので、性質上は問題ありません」

 「土壌検査?」


 俺が聞き返したことで、千沙が説明をしてくれる。


 土壌検査とはそのままの意味で、その畑で野菜を作れるのか、作っていいのかを判断するための検査だ。


 ひとえに土壌検査と言っても、その検査項目は多く、大きく別れて物理性、生物性、化学性の3つのジャンルがある。


 物理性は畑の土の硬さや保水性など、土そのものを検査する。


 化学性は畑の養分のバランスを調べ、どんな性質があるのか、もしくは不足しているのかを検査する。


 生物性は畑の中に住まう微生物、害虫等を検査する。


 まぁ、元々この畑は去年まで機能していたそうなので、検査するほどのことじゃないが、念には念をとやらである。


 そこら辺の基準をクリアしてるのであれば、あとはこの畑の表面の掃除だけだな。


 「畑の性質調査か......」

 「?」


 そこそこ真面目な話でわかりづらかったのかもしれないので、いつもの如く、18禁事に例えて解釈しようか。


 ある日、路地裏で偶然にも、生気を失いかけている薄汚れた美少女を見かけたとしよう。


 そこで自身に与えられた選択肢は2つだ。


 一つは“襲う”こと。


 もう一つは“病院に連れて行く”ことだ。


 俺には“襲う”という選択肢以外考えられないのだが、路地裏でそんな様態の美少女が居たら、すでに事後であった可能性もあって、それが繰り返されていた可能性もある。


 その懸念が正しければ、物理性――もとい“美少女のおま◯この具合”は、決して良いとは言えないだろう。きっとゆるゆるのガバガバに違いない。


 そして化学性もだ。


 ご存知の通り、男根を女性のナカに収めるには潤滑油的なものが必要で、その愛液は100%美少女から分泌されたものだけとは限らない。


 できれば天然モノ、その子のが良いよな。事後で、他人のち◯こから出た白濁液がぎょーさん詰まってるとか勘弁してほしい。精液とマン汁は異なるのだ。


 最後に生物性。


 繰り返し犯され続けた美少女は、もしかしたら性病に感染しちゃっているのかもしれない。


 ならば怖いのは息子がズップリ行ったときに、こちらも感染してしまう恐れだ。


 故に冷静な者ならば、必然と残された選択肢、“病院に連れて行く”しかあるまい。


 専門機関でその美少女の様態を調べてもらって、犯してもかまわないのか判断するのだ。


 尤も、法に触れてしまうので、こんな考えは妄想だけに止めておく。


 「兄さん?」

 「あ、ああ、ごめん。考え事してた。続けてくれ」


 妹よ。ごめんな。こんな変態クズ男が彼氏で。


 愛しの彼女を前に、俺は美少女を如何にぶち犯すかを考えていた。恥ずべき思考である。親が知ったら去勢待ったなしだ


 無論、だからといって変態クズ野郎の妄想は止まらないが。


 「あと畑として機能するとは言っても、一応放置していた畑ですので、それなりに酸性へ偏っています」

 「? ああ、雨か。雨は酸性で、日本は降水量が多いからな」


 「はい。中には酸性を好む雑草もあるので、畑によっては酸性に偏っていると育成の妨げになります」

 「なるほど」 


 対策はもちろんある。土壌を酸性じゃない、つまりアルカリ性に近づけるには、石灰をぶち撒けばいいのだ。


 石灰にも色々と種類があって、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムが主な成分の苦土石灰、貝殻などを材料とした有機石灰などがあり、それら石灰資材でバランスを取るのだ。


 「というか、詳しいな。家業に関して知識が皆無だと思ってたぞ」


 今までの説明から俺は千沙を素直に褒めた。正直、農家の娘である千沙より、こと農作業において俺の方が知識を蓄えていると思っていた。


 が、意外にも饒舌に語ってみせる妹はしっかり者にしか見えない。


 「ええ、昨晩ググって調べましたから」

 「へぇー。珍しいな」

 「今日からここを兄さんに管理してもらいますが、その前は一応、私の領地だったので、引き継ぎの念を込めたら興味がなくても調べます」


 土壌検査に関しては、かなり素人目線な話であっただろう。が、所詮は家庭菜園の域を超えないのでそこまで厳格にする必要はない。


 それでも、


 「はぁ......。ひょっとしたら俺、面倒な仕事任されちゃったかな」


 この荒れ地を畑に戻すと考えたら億劫である。隙間時間でなんとかなるのかね。


 「お父さんたちは、以前からここの畑を兄さんにあげようと言ってましたよ」

 「はい?」


 「いえ、ですから、私の管轄ですが一度も使ってませんし、何か野菜を作るにしても狭すぎて大した収穫量が見込めないこの畑を、そもそも兄さんに渡す予定だったんです」

 「......嬉しいけど、なんでもっと早く言ってくれなかったんだ? 雑草が色濃くなる夏に入る前とかさ」


 「ほら、兄さんはがあったでしょう? 下手したら、兄さんがあのままずっとうちに戻ってこなかったかもしれないじゃないですか」

 「そ、そうか」


 “誑かされた”って......。悠莉ちゃんとはそれなりに良い経験を詰めたと思うよ。レズ野郎だったが(笑)。


 「ま、結果、兄さんは辞めるどころか、家庭菜園にまで目覚めようとしてますが」と千沙が呆れた口調で言った。


 なるほど。言い換えれば、俺なんかに畑をくれるということは、ある種の信頼なんだな。荒れ地の管理を押し付けられた気分はきっと気のせいだろう。


 ちなみに午前中の中村家でのお仕事はお休みだ。


 正確にはこの荒れ果てた土地の再生作業を任されたのだが、まぁ、後々俺の家庭菜園となる畑なんだ。頑張るしかない。


 「さてと。まずは何からしようか......」

 「案内は終わりましたし、私帰りますね」

 「......。」

 「す、少しだけですよ」


 お前も手伝えと口にはしなかったが、兄の眼力を食らって、妹も手伝ってくれる模様。


 うんうん。一応、お前がここを放置していたことにも責任はあるから。


 斯くして、俺たちはお昼休みまで家庭菜園の畑作りに勤しむのであった。

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