第435話 太くて硬くて上を向いているモノ

 「和馬、今から私とズッキーニを収穫するわよ!」

 「おう!」

 「青姦したくなってもここら辺は隠れられる所無いから我慢しなさい!」

 「そんな気起こさないから平気!」


 天気は晴れ。学生に夏休みがあるのは平たくで言えば、この時期の猛暑から生徒たちを守るためだ。この暑さが勉学の妨げになるとも言うね。だから晴天の今日は、ただただ暑いという感想しか浮かばない。


 そんな暑い中、今から俺は陽菜と一緒に収穫作業を行う。


 暑さから学生の身を守るためと言いつつ、外で熱中症覚悟の仕事をするんだ。喧嘩腰もいいとこである。まぁ、そんなこと言ったら世の中は回らないが。


 「ねぇ、和馬。この世で一番ち◯ぽに近い野菜って言ったら何だと思う?」

 「ん? ゴーヤとかかな?」

 「それはアダルトグッズに近いってだけで、アダルトグッズはち◯ぽに近いというより、どれだけ快楽に溺れさせるかを人間工学的に創作されたものよ。だからち◯ぽに近いわけじゃないの」


 卑猥な発言であっても女の子が言うと妙に説得あるから困っちゃう。


 「人参とかナス?」

 「あんたの息子はそんな形をしているのかしら? してないわよね? それじゃあただ棒状ってだけでしょ」


 「まぁ、たしかに人参ほど先が長く、尖っているわけじゃないし、ナスほど丸みを帯びてはいないな」

 「なら答えは一つでしょ」


 「なら形状から考察してキノコ類......もっと具体的に言えば松茸か?」

 「惜しいけど違うわ」


 むむ、松茸は野に生えるち◯ぽと言っても過言じゃないくらい近いと思うぞ。


 長さに差異はあれど、形の特徴は酷似する。竿の全長、カリ高、カリ色、弓形具合は男根のそれだろう。


 ......松茸の神様に怒られそう。


 というか、キノコって野菜というより林産物だよな。


 「うーん、そう言われても、男の俺はオ◯ホ以外使わないからよくわからないな」

 「私は使わないくせにオ◯ホは使うんだ......」


 オ◯ホに嫉妬する彼女。しょうがないじゃん......。


 今更ね、と言わんばかりに呆れた様子の陽菜は会話を続ける。


 「たしかに松茸はち◯ぽの特徴を捉えているわね。でも圧倒的に足りないものがあるわ」

 「足りない......もの?」


 今更ながら、開幕早々から卑猥なことしか言ってない彼女を、俺は彼氏として止めた方がいいのだろうか。


 陽菜はパーにしていた手の平を思いっきりグーの握り拳に変えて言う。


 「足りないもの、それは硬さよ」

 「......そっか」


 松茸は柔らかいもんな......。


 「硬さよ!」

 「二回言わなくていいから」


 俺の彼女は農家の娘としてあるまじき発言を連発している。ち◯ぽに近い野菜とか思っていても、普通口にできるだろうか。とんだ奴を交際相手にしてしまった感が否めない。


 俺は一刻も早く話を終わらせるべく、答えを出題者に聞いた。


 「それで? その硬さを兼ね備えた野菜っていうのは」

 「あれを見なさい!」


 一際大きな声を出して陽菜がとある場所を指差す。


 そこには一定間隔でかつ、各箇所から多くの葉茎を生やした植物があった。


 風で靡いてわさわさと揺れるその様はまるで地に生える磯巾着のようだ。......磯巾着ほど見た目に抵抗感は無いな。盛りました。ええ、はい。


 その植物の地面に接している中心部分から何本か見覚えのある深緑色の棒が生っていた。


 「ズッキーニか」

 「そ」


 俺の口から漏らした野菜の名に頷いた陽菜は、そのズッキーニが生っている下へ行き、葉をかき分けてしっかりとズッキーニを俺に見せた。


 そしてそれを自身の小さな手の平に、下から持ち上げるようにして乗せる。


 「カリこそ無いけど、この大きさ、長さ、太さ、色、艶、微妙な反り......私はこのズッキーニがち◯ぽに一番近い野菜だと思うわ」

 「......。」


 ......欲求不満なんだろうな。そうさせているのは他でもない交際相手の俺なんだろうけど、野菜をここまでイチモツとして捉える奴はいないよ。


 ズッキーニはソラマメと同じく、天を仰ぐようにして上向きに生っている。陽菜の解説も相まって、もうその時点で勃起したち◯こにしか見えない。


 大きさも太さも男根のそれであって、深緑色のズッキーニの艶もそれっぽく感じる。その大きさとやらがまた現実味を帯びていて、小さいズッキーニはショタチン、大きいモノは語るまいと言ったところである。


 ああ、ズッキーニがち◯ぽにしか見えない。俺は共食いをしてたのか。


 これ以上は今後の食生活に支障を来すな。


 全国のズッキーニ農家さん、ごめんなさい。個人の感想です。


 「さて、前置きはこれくらいにしておいて。今日はこれを収穫するわよ」

 「収......穫?」

 「ええ、こうやってね」


 男根とズッキーニの酷似性に関してある種プレゼンのようなものをした陽菜は、ウエストポーチから収穫用鋏を取り出した。


 そしてそれをズッキーニが生っている根本へ持っていき、鋏の両の刃の間にそれを挟んで――


 「ちょ、待ッ――」


 ――チョッキン。


 妙にその小気味よい音が耳に残る。


 「? なに?」

 「なにってお前......」


 俺は思わず股間に手を当ててしまった。


 陽菜は先程までズッキーニのことをち◯ぽに似ていると言っていたくせに、それを男である俺に見せつけるかのようにして切断したのだ。


 正気の沙汰じゃない。畑の上で羅切パイプカットを目にするとは思わなかったぞ。


 「ま、今日の収穫作業は戒めの意も込めてるから、あんたが考えていることはわからなくもないけど」


 わかってて切ったのか!


 「な、なんて奴だ......」

 「いい? あんたの男根は適切な女に入れるためのものであって、オ◯ホで勝手に果てるためにあるんじゃないの。わかる?」

 「わかりたくないです」

 「......。」

 「よくわかりました」


 陽菜が無言で挟みをこちらに向け、チョキチョキと切る動作を見せてきたことにより、肯定を強要されたバイト野郎である。


 「そ。わかればいいわ。明日が楽しみね」

 「......。」


 今日は千沙が俺の彼女で助かった。


 が、あまり喜んでいられる状況ではない。


 無論、陽菜になんと言われようと本番はしないで童貞を貫く所存である。とりあえず、この場を乗り切るだけでもいい。


 「あんたは今私が収穫した箇所から取り掛かりなさい。私は反対側からするから」

 「はぁ......」


 そんなこんなで俺らは男根に酷似した野菜を収穫していくのであった。チョキン、チョキンと。

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