第366話 ニギニギされたらアクセル全開?
「じゃ、安全運転でお願い」
「......。」
現在、西園寺家に居るバイト野郎は先程達也さんからいただいたバイク、SAKIKAWAのゼハァーに跨っている。
――後ろに会長こと西園寺美咲さんを乗せて。
「あの、自分、このバイクに初めて乗るんですけど本当に会長も乗るんですか?」
「もちのろんさ」
「ろんのがいですよ......」
俺はこのバイクをただで譲ってもらったのだが、なぜかさっそく二人乗りに挑戦せざるを得ない状況である。
そんな俺らを横で見ている健さんと達也さんはニヤついていた。娘のタンデムを止めろよ。
「和馬、そのバイクやっから美咲を頼んだぞ」
「ちょ、さっきはそんな条件無かったじゃないですか」
「今加えたからな」
え、ええー。
普通止めない? 止めるよね。だって危ないもん。初めて乗るバイクに娘を乗せないでよ? 事故るよ?
「免許的に大丈夫なんでしょ?」
「まぁ、法律的には二人乗りするのに免許取得から1年経過している必要がありますので大丈夫ですが......」
「じゃあ別にいいよね」
「危険ですよ? 事故ったらどうするんですか」
「大丈夫、バイト君のこと信じているから」
「どうしよう、仕事でもここまで信じられたことないから余計断りづらい」
ある程度練習してからじゃ駄目かな?
というか、バイク貰っといてこんなこというのもなんだけど、俺彼女いるし......。さすがに無いと思うけど、この辺で会長とタンデムしているところを悠莉ちゃんに見られたらお終いだよ。
とまぁ、会長を乗せたくない理由は多々ある俺だが......
「もしかして、ワタシのこと嫌い?」
「そういう話じゃないです」
「嫌いじゃないならいいでしょ?」
「好き嫌いの話じゃありませんよ」
「この先、女の子を後ろに乗せる機会なんてそう来ないと思うよ?」
「そんなことないです。自分には悠莉ちゃんという彼女が――」
「......。」
と言いかけたところで、なぜかブルっと身が震えてしまった。急な寒気かなんかだろうか。日差しのある日中なのにどういうことだろう。
変な例えになるが、もしこれがアクション系漫画だったら、俺はこの感覚を殺気と感じてしまうかもしれない。それくらい違和感のある寒気だった。
ま、こんなど田舎になに言ってんだかって話だな。高二になってまで中二病を患わせたら忙しない。
そんな心配をする俺に健さんがバイクの燃料タンクをバシバシと叩いて言った。
「か、和馬! とりあえず安全運転でちょこっと行ってこい。な? 後はこのバイクはお前の好きにしていいからよ!!」
「はぁ。何かあっても知りませんよ」
こうして俺は会長を乗せてそこら辺を試乗するのであった。
******
「もっと速度出せない?」
「む、無茶言わないでくださいよ。ただでさえ振らついているのに」
走り続けること30分は経つだろうか。最初の頃は危なっかしいものだったが、次第に慣れてきたこともあり、速度を抑えれば二人乗りも安定してきていた。
それでも若干だが振らついているので会長の提案は却下した。
「ふふ。いいね、二人乗り」
「そうですか? 後ろは乗ってるだけで楽かもしれませんが、操縦しているこっちは気が気じゃありませんよ」
会長はいつになくご機嫌だ。お互いヘルメットをしているが、声を少し大にすれば会話は可能である。風切り音も速度を抑えているためそこまで酷くない。
「お礼してあげよっか?」
「はい?」
今度は何を言い出すかと思えば、会長がこの状況で俺にお礼をしようと言うのだ。別にお礼なんかしなくていいから大人しくしてほしいというのが本音である。
が、
「はい」
背中に柔らかなモノが当たるのを感じた。
それもむにゅっと。
さっきまで俺と会長には少しだけ間隔があった。というのも、会長が俺の腰や肩に手を添えるのではなく、タンデム用のハンドルを掴んでいたからだ。
が、それが今じゃ俺の腹部を抱きしめる形で会長の両腕がある。
これ、アレだ。密着だ。
「うおッ?!」
「っ?!」
それに気づいた瞬間、安定しつつあった俺のハンドル捌きに支障が出た。かなり振れた走行になったが、それも一瞬のことで、俺の背中に伝わる感触を堪能するより操縦に集中していたことから安定性は取り戻された。
「危ないな。死ぬかと思ったよ」
「ちょ、ソレ当てないでくださいよ!」
俺は巨乳を押し付けてきた会長に文句を言った。いつもの俺なら文句どころか感謝してもしきれないくらいお礼の言葉を述べるが、今回はそうもいかない。
死にはしないと思うけど、大怪我は確定だからだ。
「運転しているんですからエッチなことはやめてください」
「君からそんな言葉出るとは思わなかった。今更だけどバイト君だよね?」
「
「ああ、やっぱりバイト君だった」
さすがに冗談だけどね。
なぜか上機嫌な会長は俺がそう言ってもくっつくことを止めず、むしろ抱きしめる腕の力を強めてきた。
ちょ、本当に駄目だって。喘いじゃう。おっぱい押し付けられて喘いじゃうから。
「良い反応」
「お、落としますよ」
「ほら、運転に集中しないと。......それとわかってるよね?」
「はい?」
集中できない状況で集中しろとか無茶言ってくる巨乳会長が俺に言ってきた。
「彼女以外の女性から胸を押し付けられて、もし勃ったら......」
「っ?!」
「ふふ、盛り上がってきた」
全然盛り上がれません。だから息子も盛り上がろうとするな。
や、ヤバいぞ。昨晩、中村家であんなことがあったから気に病んでシ○れなかったし、今朝も西園寺家で早くからバイトがあったからシ○れ――ケアできなかった。
これは勃ってもおかしくない。
いや、最悪滲ませてもおかしないぞ!!
何がとは言わないが、汁系のナニがだ。我慢のね。
「おや? ココちょっと膨らんでいないかい?」
くそ! このバカ息子がッ!!
「ち、違いますよ。作業着の生地とかチャックの盛り上がりです」
「へぇ。じゃあ確かめてみよっか?」
「なッ?!」
手ヌきってか?! いや、ヌくとは言っていないが、どっちみち触られたら勃っていない証拠も勃ってしまう。
というか、よく男のイチモツを躊躇なく触れるな、この人。さすが交際経験過多。きっとテクもヤバいのだろう。俺なんか秒殺だ。
あ、そんな想像しちゃ駄目じゃん!
「あ、ムクムクしてきた」
「ちょ! 見ないでください!」
「はは、それ言ったらもう勃ってる証拠だね」
「くッ! これは作業着の生地かチャックの――」
「それでまだ貫こうとする愚かさに感服しちゃう」
お願い。これ以上は本当に事故っちゃう。そんで事後になっちゃう。やかましいわ。
マズイぞ。そう言えば以前、学校で美咲さんに俺のイチモツを制服越しに握られたことがあったな。あのときも今と似た状況で会長の巨乳を押し付けられていた。
「おふッ?!」
「......わぁーお。これは作業着によるものじゃないね」
そんなことを思い返していた俺に、ついに会長の手が俺の操縦レバーを捉えた。
「バイト君は駄目だなぁ。彼女が居るのに勃っちゃうなんて」
「悠莉ちゃん、ごめんッ!! 息子がいうこと聞かなくて本当にごめん!」
「はは。彼女に聞かせてあげたいよ、それ」
なんて奴だ。俺はバイクを運転しなければならないから会長の手を退かせられない。
こんなこといけないのに......いや、イけそう。というか、もう数分ニギニギされたら普通にイっちゃいそう。
「オ゛ッ?!」
「うっわ、すごいな。ここもうガッチガチじゃん」
「が、がい、会長、マジで事故ります」
人生に二回も異性から愚息を握られる俺。そのうち一回は同じく会長でいいようにされた。今の二回目もだ。おまけに俺には悠莉ちゃんがいる。
イくどころか、勃つことすら言語道断である。
くッ、こうなったら――
「か、会長! いい加減にしないとこっちも出るとこ出ますよ?!」
「ここはもう出そうじゃない?」
「真面目な話ですよ!!」
俺は会長をそう一喝して次の一言を言う。
「こ、このまま彼女がいる自分に、悠莉ちゃんを裏切るに等しいことを続けるなら、西園寺家でのバイト辞めます!!」
「っ?!」
愚息を握る会長の手の動きが止まった。そのまま手は元にあった位置へ。そして徐々に俺の背中から胸を押し付ける行為も止めていった。
な、なんとか中断させることに成功したみたいだな......。
「自分で自分を人質にするとか......頭おかしいんじゃない?」
「ば、バイク運転している人の息子を握った会長が言えることじゃありませんよ」
西園寺家にとって今や俺の存在は大きい。それこそ簡単にバイトを辞められては困ると全員に言われてもおかしくないくらい。
「ったく。そんなに男のち○ぽが欲しいなら、そこら辺の男捕まえればいいでしょうに。さ、帰りま――ふぎゅッ?!」
『帰りましょう』と言いかけた俺に、会長は今度は後ろから俺の首を絞め始めた。
「次それ言ったら絞め殺すから」
「ずびまべん! ビッヂよばありじでごべんなばい!」
「......ふ」
会長の手から解放された俺は大きく息を吸って吐いた。よく事故らなかったと褒めてほしいくらいである。
こうしてこの後も一切口を利かずに俺らは西園寺家へ戻っていった。なんというか、本当に困った人だなぁと思うバイト野郎であった。
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