第367話 ――めなかった(泣)

 『ピンポーン♪』

 「? 誰だろ」


 天気は雨。このところ晴れ続きだったが、平日の今日は朝から雨が降っていた。そのせいで気温が低く、春特有の暖かさもあまり感じられない。


 雨が降っていなければ達也さんからいただいたバイク、SAKIKAWAのゼハァーを走らせようと思っていたのにさ。


 そんな今日は学校が終わり、あとは自宅で余暇を過ごすだけだと思っていたが、どうやらお客さんが高橋家に来たようだ。


 「ジャン負けね」

 「最初はパー――」

 「チョキ」

 「......。」

 「ほら行ってこい、愚息」


 ちなみにうちには御袋が居る。“まだ”って言っちまった。


 というのも、普段は仕事の出張で全国各地を転々とするのだが、以前、高橋家で葵さんと揉め事した際に帰ってきて以来ずっと居るのだ。母親が居ると思うようにシコれなくて困ってしまう思春期高校生、和馬君である。


 ちなみに俺のこの“御袋”呼びは本人希望で、俺もそろそろそういう呼び方にしようと思ったからだ。


 『ピンポンピンポンピンポン!!』


 ここまでインターホンを連打してくるとなると宅配の人じゃないよな。


 誰だかわからないが、まず桃花ちゃんではない。あの子の場合はインターホンを鳴らすなんて常識がまず無くて、代わりにご近所迷惑&虚言で俺を社会的に絞め殺そうとするからね。


 『ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!』

 「はいはい。今行きますよーっと」


 俺は若干駆け足で玄関へと向かった。


 『ガチャッ!!』

 「はーい――ぐへッ?!」

 「お願い、早くうちに戻ってきて!!」


 戸を開けたと同時に胸倉を掴まれる俺。いったい何があったのかと焦ったが、胸倉を掴んでくる相手の声からして聞き覚えのある声だとすぐにわかった。


 そして視界に映ったのは、


 「あ、葵さん?」


 どうやら今日は自宅でゆっくりできないらしい。



*****



 「粗茶です」

 「お、お気遣いなく......」

 「いつも和馬がお世話になってます」

 「い、いえ、こちらこそ」


 参ったな。まさか葵さんが、御袋が居る今の高橋家に来るとは......。しかも二回目。


 葵さんには早急に帰ってもらいたい。


 「それで、急にどうしたんですか? 雨の中わざわざ......」

 「どうしたもこうしたも無いよ!! 和馬君のせいでうちは悲惨な状況なの!!」


 え、ええー。俺のせい? この前中村家に行ってバイト辞めたじゃん。


 そういえばあの後、どうなったんだろ。俺は詳しくそのことについて葵さんに聞いた。


 「次の日の日曜日! 直売店を開く日! 陽菜や千沙ならともかく、母さんも放心状態だったから私と父さんで全部やったの!!」

 「そ、そうですか、それは大変でしたね」

 「ただでさえ日曜日は忙しいのに、もうめちゃくちゃでミスばっかだったよ!」

 「は、はぁ」

 「ちゃんと反省してる?!」


 いや、だから俺バイト辞めたよね?


 中村家はそれを同意してくれたよね?


 雇い主以外、口でははっきりと返事を貰っていないが、あの状況ながれだったら完全に辞めたことになるよね?


 「落ち着いてください。たしかに急なことで申し訳ないと思いますが、もう自分は中村家でアルバイトできないので、葵さんたちで頑張ってください」

 「そんなのあんまりだよ!!」


 いや、バイト辞めた奴の家に押しかけて戻ってこいとか責めてくるあんたの方があんまりだよ。


 「もうほんっと最悪な日曜日だった。仕事終わった後も家事で終日忙しかったし」

 「それって自分に『一生家事してください』的な言い回しですか?」

 「なんでこの状況でプロポーズするの」


 うーん、困ったなぁ。たしかに人手不足な農家である中村家を急に退職したことは無責任だったかもしれない。


 アルバイトの身分だからそんなに気にしなくてもいいかなって思ってたけど、“農家でバイト”にはそんな暗黙の了解無いに等しいらしい。


 「あ、では自分の他に誰か雇ってはいかがです?」

 「だ、誰も彼もが和馬君みたいに物好きだと思わないでよ......」


 「それ自虐とディスりが入ってますよ」

 「それにそんなこと言うんだったら、辞める和馬君が後継人を見つけるべきでしょ」


 「そんな変人、簡単に見つかると思わないでください」

 「さっき自分で言ってたじゃん。あとそれブーメランだから」


 なぜか面倒事をなすり付け合う二人。そんな俺らの横で黙って聞いていた奴が口を開いた。


 「和馬、とりあえず葵ちゃんが困っているんだから中村家でまた働かせてもらいなさいよ」

 「おばさん!」


 くそ。偶には息子の味方しろよ。


 俺が責任を感じてまた中村家で働くべきか? いや、あんなことがあったんだから陽菜と千沙に顔向けできねぇよ。


 「いや、ここは心を鬼にして断らないといけない」

 「そ、そんなぁ。もう和馬君がいないと身体がもたな――満足できない身体になっったよ」

 「なんでエッチな表現に切り替えたんですか」


 俺は強引に変態発言へと切り替えた巨乳長女に溜息を吐いた。


 しかしこのままだと埒が明かないな。


 よし。


 「では条件があります」

 「覚悟して、葵ちゃん。こいつの条件は大抵の場合エッチなことだから」


 黙れッ!!


 「い、いつもの私なら断固拒否しますが、今日の私は覚悟してきました!」


 え、覚悟してきちゃったの? そこまで?


 俺の出す条件は、“陽菜と千沙と極力顔を合わせないような仕事内容にしてほしい”と至って真面目な条件にしようと思ったんだけど......。


 ほら、週末お世話になってる中村家での食事とかさ。アレも無しっていう方向で。


 「......。」


 そんな要らぬ覚悟をしているならちょっと考えちゃおうかな。


 エッチなヤツ。


 世の男性陣が喜ぶヤツ。


 アレが反り返っちゃいそうなヤツ。


 「決めました」

 「“決めました”って完全に条件塗り替えたヤツじゃない」


 「うるせぇババア!! 2、3時間くらい家を出てけ!!」

 「具体的な時間ね。完全におっ始める気じゃん」


 「葵さん、おっぱいを揉ませてください」

 「ほら来た。しかも条件じゃなくお願いだし」


 これはアレだよ。脅しだよ。うん。そう、脅し。


 葵さんがこの提案を断れば俺に平和が訪れ、仮に呑めば俺は彼女の乳房を堪能できる。


 ぐへへ、どう転んでも俺にメリットしか無いじゃないか。


 さぁ、どうする長女!!


 「わ、わかった」


 葵さんは顔を真っ赤にしてそう返事した。


 な、なんて覚悟だ。そこまでして......。


 この条件を出した俺の方が恥ずかしくなるくらい即答だったぞ。


 「あ、あんたこれで揉んだら最低よ......」


 うるせぇババア!! 俺も応じるとは思わなかったんだよ!!


 ちッ! こうなったら巨乳長女が前言撤回するような条件を加えるか!!


 「は、はは。覚悟ができているとは本当のようですね。しかしわかってますか? 自分は生乳を要求しているんですよ?」

 「わ、わかった」

 「でしょう? さすがの葵さんでも生は――うぇッ?!」 


 思わず変な声を出して驚く変態野郎である。


 「な、“生”って意味知ってます? 揉むだけじゃなくて?」

 「わ、わかってる」


 「それにしゃぶりますが......」

 「わかってます......」


 「最後はもらいますけど......」

 「す、好きにしていいから」


 こ、こいつ、マジか......。


 こっちの要求をどんどん過激にしても動じねぇ。


 そこまでして俺にバイトを辞めてほしくないのか? 俺ってそんなに貴重なの? 自分ではただの度の過ぎたおっぱい星人にしか思えないんですけど......。


 「う、うちの息子がここまでクズだったなんて......」


 そして母親にドン引きされる始末に。


 「あんたわかってると思うけど、彼女に申し訳ないと思わないわけ?」

 「あ」

 「“あ”って......」


 葵さんに退いてもらうことに夢中で忘れてた。そうじゃん、今の俺には悠莉ちゃんが居るじゃないか。


 数秒前まで母親を邪魔な存在と思っていたのに、大切なことを気付かされてその存在に有難味ありがたみを感じるとはこれ如何に。


 「ふ、ふふふ」


 彼女が居ることを思い出した俺に対して、葵さんは不敵な笑みを浮かべた。


 「そうだよ。気づいた? 和馬君は揉みたてくても揉めないの......彼女が居るからね」

 「くッ」

 「いや、彼女がいるいないの問題じゃないわよね? エッチな条件を出すこいつの人間性の問題よね」


 なんてこった。これじゃあ俺は念願の葵さんの乳房を堪能できない。


 「さぁ、どうするの? 私は別に揉まれてもいいんだよ? 今を我慢すれば後は中村家こっちのものだから」

 「なんて汚い奴......」

 「汚いのはあんたの心」


 くそ! おまけに横には母親が居て、俺らの行方を見守っている。


 葵さんのおっぱいを揉むのに母親の存在はマジで要らない。複雑な心情で気持ち良くなれないわ。


 異性をうちに呼んで二人っきりで部屋に居るときに、急に入ってくる親レベルで殺意が湧くわ。要らぬお節介でおやつ持ってくる親のアレな。


 うちの親ならその持ってきたお盆にあるジュースが入ったコップの下に、コースター感覚でコンドームを挟んでいてもおかしくないから。


 葵さんは顔を真っ赤にしながららしくもないことを言う。


 「ほぉら! 和馬君が好きなお、おっぱいだよ〜!」

 「こ、こいつぅ!」


 目の前にお互い合意の上で、合法で、豪快に揉めるおっぱいがあるのに!!


 なんで俺はッ!!


 「うおぉぉおお!!」


 俺は意地になって手を伸ばした。


 そして揉――



――――――――――――――――



ども! おてんと です。


今回は変な終わり方ですがご了承ください。またあと数話でこの章を終えたいと思います。許してください。


学校生活がメインとなった章ですが、次の章からはまた農業に関して書ければなと思います。今後ともよろしくお願いします。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る