閑話 悠莉の視点 類は友を?
ども! おてんと です。
更新遅れました。ごめんなさい。
前話より数日前に戻ります。
――――――――――――――――
「あ、いたいた。百合川さーん!」
「あ、桃――米倉さん」
私は女が好きだ。
それも深刻なほど。
性的に。
「どうしたんですか?」
「百合川さんと話したいことがあって。今ちょっといい?」
「は、はぁ」
下駄箱で上履きと外履きを取り替えていた私のところに米倉桃花ちゃんがやってきた。
放課後、今日が日直だった私は担任の先生から資料作りを手伝ってほしいと言われ、断ることができずに日没の今の時間帯まで作業をしていた。そのせいで下校する時間がかなり遅くなってしまった。
やっと帰れると思ったら、彼女は私になんの用だろう。
桃花ちゃんはスクールバッグを抱えている私と違って手ぶらである。
「良かったー。今日はお兄さんと帰らないの?」
「......ええ。時間が時間ですし、今日は先に帰ってもらいました」
まぁ、私も先輩のことで少し考えたいことがあったから今日の日直の手伝いはちょうど良かったとも言える。
なんというか、陽菜ちゃんに高橋和馬はヤリ○ンじゃないと言われてからなぁんか気が晴れないんだよなぁ。
「それで、お話というのは......」
「あ、ここじゃなんだし、すぐそこの女子トイレ行こ」
「わ、わかりました」
人に聞かれたくない話なのかな?
こうして帰宅しようとした私は巨乳美少女に誘われてお手洗いに向かったのであった。
*****
「単刀直入に言うね。百合川さん、お兄さんと別れてよ」
ニコニコしながら桃花ちゃんは私にそう告げた。
........................は?
下駄箱近くの女子トイレに来た私たちの会話は彼女のそんな一言で幕を開けた。しかし私は彼女が何を言っているのかよくわからなかった。
え、“お兄さん”って、高橋和馬だよね? 私が先輩と別れろ? 聞き間違い?
「言葉足らずだったかな? 百合川さん、お兄さんのことなんとも思ってないでしょ。だから別れてよ」
「......。」
聞き間違いじゃなかった。
私は黙ったまま目の前に居る美少女をじっと見ている。それと同時に、相手が私をどうしたいのか警戒して手を汗を握ってしまった。
「はは。なんでそんなこと言うの?って顔してるね。でもそれは百合川さんがよくわかってるでしょ?」
「な、なにを言っているのかよくわかりませんが、どうして私たちが......」
「何も進展していないから、からかな」
私が言い終える前に桃花ちゃんがそう言い切った。
「百合川さんさ、お兄さんのどこが好き?」
「どこって――」
そう言って私の言葉は続きを言えずに滞ったままとなった。
急に別れろと言い出してきた桃花ちゃんに、私は付き合っている先輩の好きなところも言えずにいたのだ。
単純な話、私が先輩を好きになった部分を見つけられていないからだ。いや、元から好きでもなんでもないからそんなところ無くて当然である。
「......。」
「え、一つくらい無いの? 本当に?」
「あ、ありますよ! 連絡をしたらすぐに返信してくれますし、いつも美味しいものを買ってくれて、何事も私を優先するくらい私に夢中で!」
私は必死に桃花ちゃんに言い放った。
そして言っていて気づいた。コレ、先輩の“好きなところ”じゃなくて、“良いところ”だ。
もっと言えば、私にとって都合の“良いところ”である。
「わーお、お兄さんは
「わ、私だって先輩のこと......」
『好きです』と言うには少し戸惑いを覚えてしまった私である。嘘でもなんでもいいから好きって言えばいいのに、今更嘘を吐くのに抵抗感を抱いてしまっている。
「なんで黙り込むの?」
「......それは」
「ふーん?......私さ、おでこにニキビができちゃったんだよね」
に、ニキビ? 急になにを言い出してくるんだろう。
桃花ちゃんはそう言って前髪を上げて、私にニキビができた額を見せてきた。彼女の言ったとおり、その額には一箇所だけぷくりと小さなニキビができていたのだ。
「私、この高校に入ろうと思ったきっかけが、陽菜とお兄さんがいるからなんだよね」
「え?」
「陽菜は受かるかわからなかったけど、公立のここ落ちて私立行くのはさすがに御免だったし、最悪お兄さんがいれば楽しめるかなって。学校生活」
「は、はぁ」
本当に何を言っているんだろう。陽菜ちゃんと仲が良いのはわかっていたけど、そこに先輩の名前が出てくるのは、桃花ちゃんが先輩に好意を抱いているからなのだろうか。
「でもいざ高校生活が始まってみたら誰かさんが告白しちゃって、勝手にお兄さんを奪っていくからなーんも楽しくない」
「そ、それはその......」
「お兄さんも陽菜も反応面白いし、一緒に居て全然飽きない。そんな存在のうちの一人であるお兄さんが今じゃ百合川さんのモノだよ」
「......ごめんなさい」
「なんで謝るの」と相変わらず桃花ちゃんは笑みを崩さずに言った。そんな言い方をされたら完全に私に非があるみたいだ。
万が一、私が本当に先輩のことが好きだったらただの言いがかりじゃん。
でも現に私は先輩を好きではないのでばつが悪い。
「私もさ、本当に百合川さんがお兄さんのことを好きなら口出しはしなかったよ? こんな嫌味言うのは人としてどうなのかなって思うし」
桃花ちゃんはそんなことを言いながら女子トイレの洗面台にある鏡を眺めている。鏡には桃花ちゃんとその後ろにいる私が映っていた。
「百合川さんはお兄さんが好きなんだよね? 一目惚れしたんだっけ? 今は? まだ好きなの?」
「......はい」
「じゃあお兄さんに何かしてあげた?」
「それは......」
「お兄さんはあなたが連絡をしたらすぐに返事をくれたんでしょ? 欲しいものを買ってくれたんでしょ? 何があっても百合川さんを優先してくれたんでしょ?」
「......。」
「手を繋いであげた? キスは? もしかして下の名前で呼び合うくらい?」
「......。」
「何もお返ししてないって、してあげてばっかりのお兄さんが可哀想すぎない? あっちは人生初の異性からの告白を受けて必死なのにさ」
「......。」
返す言葉も無いとはこのことか。桃花ちゃんの言う通り、私は彼に彼女らしいことを何一つとしてしてあげたことが無かった。
する気も無かった。
もっと言うならば、先輩の弱みを握ろうと最低な行為を繰り返していた。
だから何も言い返せない。赤の他人である桃花ちゃんに好き勝手言われても何も言い返せなかった。
「お兄さんと陽菜から話を聞いても、なぁーんか百合川さんが本当にお兄さんのこと好きなのかどうかはっきりしいんだよねー」
「......米倉さんには関係ありません」
「ね。まぁ、他人の恋愛なんてわからないし、お互いの歩み方にもそれぞれあると思うけど......もし、もしもの話だよ?」
「な、なんですか?」
少し間を置いて口を開いた彼女は先程までの笑みを捨て去って、鋭い眼光で私を睨んだ。私はゾクッとして思わず息を呑んだ。
「私の
そう告げられた私は何も言えずにその場で固まってしまった。
「なーんてね! ま、“
「......。」
桃花ちゃんはその言葉を最後に私を置いて、この場を後にした。
「もう何をしたら良いのかわかんなくなってきちゃった」
陽菜ちゃんと桃花ちゃんのためって勝手に思い込んで、高橋和馬という男を追い詰めて、却って彼女たちを傷つけて......。
私のやらかしたことが全部裏目に出たとしたら、狙っていた女子二人にこの先ずっと嫌われ続けて、無害そうな人間を騙していただけの結末だけが出来上がってしまう。
「私がしたかったことって......」
その原因はおそらく彼女たちが抱くあの男への想いが私の想像以上だったことと、私が軽率に告白してしまったこと。
そして――
「本当に私のことを......」
私は続きを口にしなかった。もう既に気づいてしまったからだ。そしてあの男の気持ちは最初からずっと変わらなかったんだ。
そう悟った私は罪悪感で押しつぶされそうになったのであった。
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