閑話 悠莉の視点 〇〇だからしょうがない ズ
「今日こそは二人に声掛けてみようかな」
私は女が好きだ。
それもめっぽう。
性的に。
「うーん。でも接点を探してからの方がいい気がする......」
そんな私はあることですごく、すごーく悩んでいる。
私が悩んでいることは、中村陽菜ちゃんと米倉桃花ちゃんの二人とどうやってお近づきになるかである。
私の予定ではもっと早く二人に声を掛けたかったのだけれど、時間が経てば経つほどそれが難しくなってしまった。原因は二人があからさまな態度を取っていることにある。
「陽菜ちゃんも桃花ちゃんもなぁーんかクラスメイトが遊びに誘っても乗り気じゃないんだよなぁ」
二人はクラスの垣根を超えて人気者で、よくいろんな生徒たちから放課後に遊びに誘われているところを見かけるのだが、二人は何かと理由をつけては断っていることが多い。たまーに付き合うくらいのようなもので、別に意図して他の生徒と距離を置きたがっているわけでもなさそうだし......。
もし私が声をかけて、二人からの反応がいまいちだったら軽く泣きそう。
そんな不安要素を抱いている私は中々二人に話しかけられない。
「うーん、どうしよっかなー」
と、校内の女子トイレの洗面台の前で独り言をする私だ。
この場には私しかいないのでこんなことができる―――
「お兄さん、どんな反応するか楽しみだなー」
「程々にしなさいよ?」
っ?!
「わかってませんって」
「そ、そこは『わかってますって』でしょ......」
入り口の方から声が聞こえた私は慌てふためいてしまった。声の主が一般女子生徒なら慌てる必要は無いんだけど、今から来る二人ならばそうにもいかない。
「陽菜はお兄さんが慌てふためくところ見たくないの?」
「私は桃花ほど捻れた性格していないもの」
そう、陽菜ちゃんと桃花ちゃんが女子トイレにやってきたのだ。私は慌てて奥の個室に駆け込んだ。
彼女らの目的はお花摘みかと思いきや、声の聞こえる位置からして洗面台付近に居るようだ。
「ところでさ、ちゃんとお兄さんには黙ったままなんだよね?」
「ええ。バレそうなときもあったけど、本人は気づいてすらいないわ」
「よかったぁ。陽菜のせいでバレたら、陽菜の秘密をバラすところだったよ」
「脅された私にはなんの得も無いのよね」
陽菜ちゃんの秘密? なにそれ。すっごい気になるんだけど。
私は個室の中からドアに耳をぴったりとくっつけて二人の会話を盗み聞きすることにした。
「でも秘密にしておくんじゃ勿体ないよね。お兄さんならむしろ陽菜の陥没――」
「うおい!! 秘密の意味ッ!!」
「ぐへ?! ぐ、ぐるじいでしゅ!」
なんか騒がしいけど、たぶん陽菜ちゃんが桃花ちゃんの首を絞めている気がする。
というか、なに? “陽菜の陥没――”って。すごい気になるんですけど。
人によって人体で陥没するところなんて限られてるよね。
“ち”から始まって、“び”で終わって、真ん中に“く”が入るところだよね。
A地区とC地区の間だよね。
『ブビッ』
いっけね。想像したら鼻血出てきちゃった。まぁ、ドバッという感じじゃないからまだセーフ。
「はぁはぁ......陽菜って何気に力あるよね」
「農家の娘だもの」
「どういう理屈?」
「あのね、二人のときならまだしも、ここは女子トイレよ? 他に人が居たらどうするのよ。軽く口にしないでちょうだい」
「そんなに気にする?」
「うっ。だ、だって変じゃない。普通なら出てるところが出てないのよ」
“出てるところが出てない”。
これは黒ですね。きっとそこは真っピンクなんでしょうけど。
そっか.....。陽菜ちゃん、体型も出るとこ出てないのに、そっちも控えめなんだぁ。
『バビュッ』
「最高ですか......」
思わず私は小さく声を出すと共に、鼻から大量に血を出してしまった。近くのトイレットペーパーを音を立てずにそーっと出して出血が止まらない鼻に当てることにした。
そのときに気づいたが、ドアに耳を当てていた私はさっきの大量出血のせいでかなり床に鼻血を垂らしてしまった。おかげで私の足下には鼻血が広がっている。
おそらく二人は話に夢中で鼻血云々以前に私が個室に入ってることすら気づいていないのかも。相変わらず洗面台付近に居るらしい。
「とりあえず、お昼休み中にお兄さんのとこに突撃しよっか」
「怪我だけはさせないようにね」
「もちのろんだよ。陽菜の未来の旦那さんだしね」
「誰が私の未来の旦那さんよ!!」
「ま、まだ隠している気なんだ......」
ふぁあああぁああぁぁぁぁああ?!!
陽菜ちゃんの未来の旦那さん?! 誰がッ?! 桃花ちゃんが言った、“お兄さん”って人?!
陽菜ちゃんは渡さない!! 桃花ちゃんも!!
というか、“お兄さん”って以前クラスメイトの女子二人と話していたときに話題に上がった人だっけ。桃花ちゃんは曖昧だけど、陽菜ちゃんは一つ年上のその先輩に好意を持っているとかなんとか。
そう言えば私は二人からそんなヤバい男を奪うって決めてたんだ。陽菜ちゃんと桃花ちゃんにどう話しかけようか考え込んでいたら忘れてしまっていた。
二人はその先輩に何がしたいんだろう。えっと、たしか名前は――
「......。」
お、思い出せない......。実は私は異性の名前を覚えるのが大の苦手だ。
“た”。
“た”から名前が始まってた気がするんだよね。た、た、た、“タロン”? 駄目だ、国籍が違う。
「でも高橋 陽菜になる気なんでしょ?」
「いや、和馬の意見も聞きたいし、もしかしたら中村 和馬になるかも」
「どっちにしろくっつくことに関しては否定はしないんだね」
「っ?! な、なんのことかしら? ひゅーぴゅー♪」
「その下手くそな口笛やめた方がいいよ」
「......。」
たしかに下手くそだった。個室に居る私のところまで下手くそな口笛がよく聞こえました。
チッ。二人が気になっている異性は“高橋 和馬”って言うのか......。
どうにかして屠りてぇ。
おっと、いけないいけない。つい異性のこととなると口調が。
「まずその男をどうにかしなきゃ」
またも小声でぶつくさ言う私である。
陽菜ちゃんが好きなその先輩はルックスは普通らしいが、この春でイメチェンしたらしく、また学業成績もいい。筋肉質なその体型からスポーツ万能なんだろう。女子からモテる要素満載だ。
加えてヤリ○ンという情報もある。きっと今まで多くの女性を鳴かせてきたのだろう。なんて羨ましい。
じゃなくて、“泣かせて”だ。
できれば今日の昼休みまで――桃花ちゃんたちがヤリ○ン野郎に接触する前になんとか対策を考えないといけない。そんな企てをしていたら不意に予鈴が鳴った。
「あ、予鈴だ」
「教室に戻りましょ」
予鈴が鳴ったと同時に足早に教室に戻っていった二人である。二人の足音が遠くになっていくのを確認してから私は個室から出た。
「許すまじ、高橋なんたら!」
もう忘れてしまった。
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