第332話 桃花の視点 やべぇ奴 × やべぇ奴 = 恋の発生
「うへぇ。わかってたけど、高校って中学よりレベル高いわねー。授業で当てられたときはびっくりしたわー」
「そう? 驚くほどでもないと思うけど」
「私は教科書忘れたあんたが、当てられても平然と答えていたことに驚きよ」
私と陽菜はお昼休みの時間である今に、一緒に昼食を摂っているところだ。午前中の授業からさっそく愚痴を零す陽菜を慰めるのは私の役目でもある。
いつもなら他の女子の友達と一緒に食べるんだけど、その女子たちは今日は同じ部活仲間と一緒に食べるようなので、珍しく陽菜と二人っきりである。
本当は中学校の頃もやっていたバドミントン部を高校でも続ける予定だったけど、中学校と比べて高校は思った以上に部活の種類の幅が広いのでまだ迷っているところだ。
「驚いたと言えば......先週は危なかったなぁ。まさかお兄さんが入学式終わった翌日から1年生のフロアに友達と来るなんて」
先週、私たちは入学式や高校生活のマナーや校則等の説明を含めたオリエンテーションや部活動紹介などで一切授業が無かった。また午前中で予定が終わるということから先輩生徒と一日のスケジュールが違っていた。
だからお兄さんに会うことは無いだろうと高を括っていた私だが、なぜかこの教室に隣接している廊下でお兄さんと山田さんを見かけてしまった。
私はそのとき、ちょうど女子トイレから出てきたタイミングだったからか、教室ばかり伺っていたお兄さんたちと顔を合わせることが無かったので、私の存在がバレることはなかったのだ。
ほんっとキモい男子高校生である。
なんで見に来たのかね。彼女募集の必死さか、もうちょっと我慢できなかったのだろうか。
「え、あれは私に会いに来たのよ」
「いや、それはちょっと無理が......」
「?」
「そう、だね。陽菜に会いに来たんだよ」
「あたぼぉーよ!」
「あんまJKが使わない言葉からソレやめた方がいいよ」
どうやら私の親友はお兄さんが1年生フロアに来たのを、自分に会いに来たんだと信じて止まないらしい。
さて、話が変わるけど、問題はそのお兄さんをどうやって驚かすかだね。
ずっと驚かす方法を考えていたけど、正直、特に面白そうなのが思いつかないんだよね。でもそろそろ驚かさないと。
私がこうも焦る理由は二つある。
一つは隠すにしてもずっとできる訳じゃないので、自然にバレる前に、こっちから攻めたいという焦燥感である。
で、もう一つは―――
「なぁ。今日俺らカラオケ行くんだけど、中村と米倉もどう?」
「奢るからさ」
男子たちからの熱烈なアプローチのせいだ。
「「......。」」
またか、と思ったのは私だけじゃないはず。
最近、男子たちからよく遊びに誘われるんだけど、私と陽菜はうんざりな気持ちでいっぱいであった。
そこで、多少なりともお兄さんと一緒に居る回数を増やせば、男子たちからお誘いも減ることだろう。それにお兄さん、制服越しからでもわかるくらい体格良いから初見はビビると思う。
また女子たちからはイケメンな先輩でなければ大して敵視されないのも良い。
いい塩梅な見た目のお兄さんで良かった(笑)。
だからお兄さんには私たちにとって蚊取り線香のような存在になってもらいたい。
「こいつんち、結構金持ちだから贅沢して遊べるよ」
「おいおい。バラすなよ」
そう言って、私たちのところへ来たのは同じクラスの顔面偏差値中くらいの男子2名である。先日からよく私たちを遊びに誘ってくるのだ。
実はこの2人以外にも私たちを誘ってくれる男子生徒のグループはいくつかあって、それは同じクラスメイト内だけで留まらない勢いでもある。
「ごめんなさい。放課後は約束があって......また今度ね」
「そっかぁ〜」
「じゃあ仕方ないね。米倉も?」
「うん。ごめんね」
理由は言うまでもなく、陽菜目当てだろう。だって陽菜、バチクソ可愛いし、そこら辺の女子高生より年下に思えるけど、その容姿と制服が新たな可愛さのギャップを生み出しているんだよね。
だから男子女子問わず、入学式からすっごい人気のある陽菜ちゃんだ。
......そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。
「最近、誘ってくる頻度が多くなってきてないかしら?」
「ね。嬉しいのか、嬉しくないのか。ちょっと返事に困っちゃうよ」
意外にも、陽菜だけじゃなくて私も注目されていたようで、陽菜と離れれば男子から誘われることもないだろうと思っていたんだけど、まさか私単品に声かけてくるなんて。
しかも複数人。
実は私って可愛かった説(笑)。女子友に言ったら嫌われそう。いつかお兄さんにでも自慢するか。
「ね。この前一緒に遊びに行ったばかりなのに」
「うん。よくまぁ毎日のように誘ってくるよね」
私と陽菜も一概に拒否できないので、1、2回は他の女子たちも交えて男女複数人で遊びに行ったり、外食しに行ったのだがあまり楽しめなかった。
なぜ楽しめなかったというと、別に馬が合わない訳じゃなかったんだけど、男子たちからの視線と感想が不快だった。
私や陽菜を舐め回すように視線を向けてきたり、あっちは小声で私たちに聞こえないように話していたのかもしれないが、影で『おい、あの胸見ろよ』とか『揉みてー』とか丸聞こえで吐き気がしたのだ。
まだお兄さんのような素直さの方が100倍マシである。いや、そもそもセクハラをやめてほしいんだけど。
また陽菜に対しても同様に下種な会話をコソコソとしていた。中でもクソだったのが、『なぁ、俺だったらワンチャン付き合ってくれるかな?』というナルシスト野郎である。
秒で陽菜と帰ったわ。
せめて聞こえないように会話できないのだろうか。
「変な男に引っかからないように気をつけようね」
そんなことを考えていた私は陽菜に小声でそう呟いた。
「“恋は盲目”って言葉があるわ」
「......。」
良くも悪くも陽菜にとっては言い得て妙である。
*****
「あ、お兄さんだ! あの異常にYシャツの上からでもわかるガチムチな背中はお兄さんだ!」
「ねぇ、本当に驚かすの? ここ2年生のフロアよ?」
「陽菜だってこの前、お兄さんにお弁当を届けるためにここに来たでしょ?」
「そ、そうだけど」
お昼休みの時間、私と陽菜は昼食後にお兄さんが居るクラスへ向かった。その道中で、偶然、数メートル先にお兄さんの姿を見つけたのだ。
さて、私がお兄さんを驚かすのに考えた方法は、シンプルに“抱き着く”だ。
これにより3つ、面白いことが起こる。
まず1つ目、びっくりしたお兄さんの顔。これは言うまでもないかな。
次に2つ目、後方に控えている陽菜の顔。
陽菜には予め私のスマホを渡して、この奇行の撮影を頼んでいる。もちろん後々楽しむためだ。そして何も知らずに、私の奇行に絶句する陽菜の顔を私がリアタイで目に焼き付けよう。
きっとその後めちゃくちゃ怒られるだろうけど、その価値は十二分にある!
「最後は......ふふ」
「な、なに笑ってるのよ」
そして最後、3つ目はお兄さんの周りに居る先輩たちの顔である。
“
きっと今後、お兄さんの彼女作り計画に大きなダメージを与えられるだろう。
彼女作り? そんなの、私にとって何も面白くないし、特定の女子が近くにいるとその人が気になってイジりにくくなる。
だから抱き着いてお兄さんの株を落とす!
「じゃあ陽菜、準備はいい?!」
「わ、わかったわ」
陽菜の返事を受けてから、私は若干駆け足でお兄さんへと近づいていった。
お兄さんはそんな私に気づいていない。
そしてどう考えても回避できない距離で私は叫ぶ。
「お兄さぁーん! 愛しの桃花だよぉー!!」
「っ?!」
ビクッと驚くお兄さん。
ナイスリアクションなお兄さん。
そして後ろから居るはずもない人を確認するため振り返るお兄さん。
そこに私は思いっきり――
「寂しかったよぉー!!」
―――抱き着いた!
お兄さんが逃げないように両腕でがっしりと!
胸をこれでもかってくらい押し付けて!!
「も、桃花ちゃん?! な、なんでここに?!」
「なんでだろーねー」
チラッと後方に居る陽菜を見る私。
彼女は開いた口が塞がらないほど、最高なリアクションだった。
周囲の人間も完璧な反応だ。私たち二人を見てザワついている。
「ちょ、どういうこと?! って、こら! 放せッ!!」
「ええー、もうちょっとハグしてようよ〜。いつもしてほしいって言うくせに〜」
「なッ?! ここでそれをッ!! うおぉぉおおぉおお――」
と、お兄さんが叫ぶ途中で、
「た、高橋和馬さんですかッ!!」
「「っ?!」」
お兄さんの叫び声を上書きする程の大声量が廊下の向こう側から聞こえてきた。
え、なに? 誰? 女子?
私もお兄さんもその声にびっくりしてお互い力が抜けてしまった。
「高橋和馬さんですかッ?!」
「あ、はい。高橋です」
如何せん廊下に少なくない人数が居たからか、最初は誰の声かわからなかったけど、私は次第にその声の主を見つけることができた。また周囲の人たちもそちらに目をやった。
「あ、あの! わッわわわわ私ッ!!」
十数メートル程先に居るその子は茶髪で、ツインテールで、少し吊り目が特徴の可憐な女の子だ。
そしてその顔の次に注目すべきは胸――おっぱいだ。
自慢じゃないけど唯一陽菜に勝っている私の胸くらい......いや、もしかすると私以上かもしれない。
そんなおっぱいだ。
そして普通にお兄さんの好みドストライクな子でもある。
「私ッ!!」
そんな子がソレを盛大に揺らしながら、こちらへと近づいてくる。
......あれ、よく見たらクラスが一緒の女子だ。
名前はたしか――
「1年1組の
そうそう。百合川さんだ。
で、なに? 今めっちゃ良いところなん――
「高橋さんッ!! ひッ、ひひひひ一目惚れしました! 私と付き合ってくださいッ!!」
MAJI☆DE☆SUKA☆
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