第325話 第六回 アオイクイズ 前半

 「じゃあ、いつも通り罰ゲームから決めよっか」

 「自分は今度葵さんに勉強に付き合ってもらいたいです」

 「え?! エッチな要求じゃないの?!」


 いや、冗談だけど。とっさにそう返してくるのもどうかと思う。俺をなんだと思ってるのかな、マジ卍る。


 現在、バイト野郎と巨乳長女は仕事もせずにアオイクイズという頭の偏差値が低そうな企画をしている。回数にして6回目と、まぁ、よく続いたものだな。


 ちなみに前回はほぼ千沙のせいで負けた。人のせいにするのは良くないけど、千沙のせいで俺は三姉妹に胸ピクを披露する羽目になった。


 「冗談ですよ。自分はク◯ニを所望します」

 「そっちの方が冗談であってほしかった。和馬君はいい加減自重した方がいいよ......」

 「葵さんは?」

 「いつも通り身体を使った罰ゲームかな?」


 お前も自重しろよ。


 「まぁ、両方とも冗談にしても、葵さんにはどんな罰ゲームをしてもらいましょうかね」

 「いや、普通に最初の、“お勉強に付き合ってもらう”でいいよ?」


 「あなたの罰ゲームと割に合わないでしょう?」

 「わ、私は乙女だし」


 「男の身体を好き勝手弄びたいと願う人が“乙女”と? これは魂消ますね」

 「......。」


 さて、どんな要求をしようか。葵さんがギリ看過できることと、俺の股間に刺激を与えることとの均衡探りが難しいな。


 ソラマメ?


 あ、そうだ。


 「決めました」

 「変態ッ!」

 「まだ何も言ってませんが」

 「ご、ごめんなさい。つい」


 “つい”?


 葵さんが自分の胸を両手で押さえて俺にそう言ってきた。


 「その前に、葵さんは数年前、某国でブームになった“ペンチャレンジ”を知っていますか?」

 「え? いや、知らないけど。なんのペンチャレンジ?」

 「下乳にペンを挟んで、ペンが落ちてしまったらブラジャーが不要という試験です」

 「そのテストはカップのヒエラルキーでも作りたかったのかな?!」


 まぁ、人間誰しも自分が他者より優れていたいと切に願っている生き物ですから。


 男にとってはそのヒエラルキーは上の階級でも下の階級でもモーマンタイである。


 だっておっぱいは、おっぱいだから。


 「まぁ、葵さんには不要な検査です。万人が認めるあなたの巨乳がペンを挟んだら落とさないでしょうし」

 「素直に喜べない事実だね......」


 「中にはペンを挟むんじゃなくて、スプレー缶やボトル瓶を挟んでアピールする人だって居るんですよ?」

 「なんのアピールかな? 頭の悪さのアピールかな?」


 「葵さんだったら消火器だって夢じゃありません」

 「いや、夢であってほしいです。人間やめたくありません」


 ちなみに人種的な問題なのか、日本人女性のほとんどがペンを落っことしてしまうらしい。


 でもこれって年齢層によるよね。


 だって、サイズが小さくても面積的に挟めそうだし。そして垂れるのは基本的にそういう年齢である。そう思った、高校二年生高橋和馬です。


 「で、それが私に要求する今回の罰ゲームと何か関係あるの? 言っとくけど、そんなことやらないからね」

 「あはは。ペン挟んだって意味ありませんよ。そんなこと要求しません」

 「ほっ。それが聞けて安心――」

 「挟むのはペンではなく、ソラマメです」

 「できなかった!!」


 葵さんは「そっちの要求?!」と言ってくるが、考えれば当たり前なことじゃないか。


 ペン挟んだってなんも意味がない。そのペンを貰う? そんなのインクの残存量を気にして愛用したくても愛用できない。


 こういうのは一時の楽しさに全力を注いでこそ得られる価値があるのだ。


 「葵さんの下乳に挟んだ――」

 「ちょ! ちょちょちょ! なに平気な顔してとんでもないこと言ってるの?!」


 「最後まで聞いてくださいよ。ちゃんと続きはあるんですから」

 「どうせ私の下乳に挟んだソラマメを食べたいんでしょ?! しかも!」


 「あ、正解」

 「和馬君は人として不正解だよッ!!」


 お前それブーメランだからな。刺さってんぞ。返ってきてグサッと刺さってんぞ。


 ちなみに葵さんが言った“数的に2莢”というのは、人間には左右に乳房が1つずつあるからである。当然な話だよね。2莢できるのに1莢だけって馬鹿だろ。


 というか、挟めるだけ挟みたいわ。葵さんなら片方3、4莢いけそう。


 「まぁまぁ。葵さんが勝てばなんの問題も無いでしょう?」

 「そう言って今まで何度負けてきたと思ってるの......」

 「じゃ、じゃあこんな馬鹿なクイズやめてくださいよ」


 葵さんは「断固拒否します」と言って決意を固く示した。


 「で、葵さんは罰ゲームの内容をどうするんですか?」

 「以前、千沙がまともな料理をしたの覚えてる?」


 「ああ、あの午前中の時間を全て使って茹でた“素麺”ですか? 料理と言っていいのかわかりませんが、“食べられる”という意味合いで言えば料理ですね」

 「そ。そこで私は思いついたんだ。次の罰ゲームを」


 「?」

 「“人間ブリッジ流し素麺”を」


 真由美さん、雇い主、あんたら一体どんな教育をしたら娘がこんな思考をするようになるんですか? 余生のためにもぜひ教えてほしいです。


 “人間ブリッジ流し素麺”ってアレか。高さ的に上半身半裸になった俺の腹筋から首元までの超短距離な人間流し素麺のことか。きったねぇーだろ、それ。


 「わかってる。季節じゃないってことくらいわかってる」

 「全然わかってません。季節関係無いです」


 「それでも眺めたい。上半身の筋肉をなぞる素麺たちを眺めたい」

 「せめて食べなさいよ」


 「女の子としてそんなことした食べ物を口にしちゃいけないと思うけど、流したい」

 「女の子云々より人として流さないでください」


 こんな発想しといて人のペンチャレンジによく文句を言えたよな。


 両者、互いに罰ゲームの内容を譲らないことで、中々アオイクイズが始まらない。というか、俺的にはしなくても良いんだよね。そりゃあ勝ったらご褒美は最高だよ? でも男としての尊厳がなぁ。


 無論、逆も然り。葵さんだってしたくないに決まっているが、それと同じ気持ちくらい流し素麺が食べたいのだろう。


 「わかりました。じゃあこうしよ」

 「?」


 「和馬君の要求は、まぁ、認めます」

 「おおー!」


 「でもその代わりに、クイズを3問出します。1回でも外したら和馬君の負けね!」

 「そこはせめて3本勝負だろッ!」

 「敬語ッ!!」


 仕事どころかクイズすら始めずに言い合いをしだした先輩と後輩である。


 「はぁ。もういいです。よく考えたらいつものことですし。その代わり、こっちが正解したらちゃんと罰ゲーム受けてくださいよ!」

 「正解させないからいいよーっだ!」


 それ主催者が言っていいのか。


 こうしてやっと6回目のアオイクイズが始まった。



*****



 「それでは問題ッ!」

 「デーデンッ!」

 「なんやかんや言って乗り気だよね......」


 そりゃあ不利な条件でも勝てば下乳に挟まれたソラマメが食べられるからな。


 きっとそのソラマメを下乳に挟んだからって味が変わるわけでもないけど、挟むことに意味があるんだ。挟むことに意味が。


 「第一問! ソラマメは別名が多い野菜で有名です。では他になんと呼ばれるでしょうか?」

 「大きさが2、3センチ程ですし、きっと“一寸豆”とか呼ばれているのでしょ――」


 「だ、第一問ッ!」

 「え」


 「第一問!! ソラマメは別名が多い野菜で有名です。では他になんと呼ばれるでしょうか? !!」

 「......。」


 うっわ。正解だとわかったら問題の難易度上げてきたやがった。葵さんに先輩としてのプライドは無いのだろうか。


 そんな葵さんを俺はジト目で見つめるが、巨乳長女は下手くそな口笛を吹いて知らんぷりしている。


 数を増やせば不正解に持っていけると思っているらしい。


 が、


 「“四月豆”、“五月豆”」

 「?!」

 「ふっ。知らないとでも思いましたか?」

 「な、なんで......」

 「実は以前、直売店のお仕事を手伝った際にお客さんがソラマメをそう言ってたんです」


 そう、雇い主と真由美さんのお誕生日のときのことだ。当時、お客さんが『四月豆が出たって近所の人から聞いたから買いに来たのだけれど......』と言っていたのだ。四月豆がなんなのかわからない俺だが、その時は3月だったので、4月の豆なんてありませんよと答えてしまったのだ。


 直後、後ろから理不尽にも陽菜に頭を叩かれて、『すみません、ソラマメはもう売り切れました』と謝っていたのだ。


 え、ソラマメって“四月豆”って言うの?と疑問を口にしたら、『別名の由来は地域によって4月から採れ始めることから来ているのよ』とお客さんから言われたのだ。


 いや、普通に“ソラマメ”って言えよ。ニワカいじめんな。と思ったが、今日役に立ったので感謝したい。現金な男、高橋和馬である。


 同じく“五月豆”もだ。ちょうど3つ知ってて良かった。俺は別名を知っていた経緯を葵さんに伝えた。


 「そ、そんなのズルじゃん」

 「ズルではないと思いますが」


 「こんなことなら直売店を臨時休業にすれば良かった......」

 「自分勝手な後悔ですね」


 「そもそも4月5月と続けるなんて回答、認めるわけ――」

 「葵さん、二問目つぎです」

 「......。」


 これ以上の言い訳は見苦しいと自分でも悟ったのか、葵さんは渋々次の問題へと移ることにした。


 これで諦めてくれたら楽なんだけどな、と思うバイト野郎は溜息を吐きながらも逃げずに立ち向かうのであった。

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