第326話 第六回 アオイクイズ 後半
「それでは第二問!」
「ああー、あと二問正解すれば下乳ソラマメが......」
「な、なんとかして不正解に持っていかなければ......」
できるといいですねー(笑)。
現在、バイト野郎と巨乳長女はソラマメ畑の近くで仕事もせずにクイズ大会をしている。もちろん、いつも通り互いの罰ゲームをかけてだ。
俺は葵さんにソラマメを下乳に挟んでもらってそれを食べるという変態的な要求を。
葵さんは俺に上半身半裸でブリッジさせて流し素麺をしたいという変態的な要求を。
誰にも言えないよね、こんなこと。
「えっとね、ソラマメを食べる時、皮が付いてるでしょ?」
「ああ、一般的には莢、皮の順に剥いて
「そ。で、その剥いた皮なんだけど......って、なんで前屈みになってるの?」
「葵さんが“剥いた皮”なんて言うから......」
「卑猥な意味じゃないよ?!」
「え、誰も“卑猥な”なんて言ってませんよ?」
「そ、それは和馬君が――?!」
「頭の中、えっちなお花畑でいっぱいですね」
「も、問題の途中だよ!! 集中して!」
「はいはい(笑)」
なにこれ、楽すぃー。
真っ赤な顔した葵さんは問題の続きを言う。
「その皮ってちょっと変わってない?」
「?」
「実際に見せよっか」
そう言って葵さんはただでさえ収量が少ないソラマメを一つもぎ取ってきて、莢を剥いて中の綿に包まれた豆を一粒取り出して俺に見せた。
「あ、真っ黒な部分がありますよね」
「そ。ここから芽や根が出てくるの」
葵さんが取って見せてくれたソラマメには側面の一部に黒い箇所があった。どうやらここから芽や根が出てくるらしい。
またその辺りに上下にぽこんと出っ張っている部分がある。普段あまり気にもしていなかったが、ソラマメって平らなイメージがあったけど、完全な平らじゃないのな。
「ふむ」
「どうしたの? 真剣な顔して」
......余談だが、これを見た俺は一瞬、「おま◯こみたい」と思ってしまった。
どこが?と問われれば返答に困るのだが、ただの欲求不満な男子高校生による、“なんでも18禁に錯覚してしまう症候群”のせいである。
たぶん思春期の男の子は人生に一度くらい思い当たる節があるんじゃないだろうか。
俺の場合、たまたまソラマメがそれに視えただけであって、俺の頭が決しておかしいわけじゃない。
ないったらない。
「なんでもありません」
「? まぁいいや。でね、問題はこの黒色の部分を何て呼ぶかってこと」
「おま◯こみたい」とも「おま◯こです」とも葵さんには言えない。言いたいのだけれど、これを口にしてしまったら流石に「こいつ末期だろ」と思われるかもしれない。
それは避けたい。なんとしても避けたい。
それにセクハラにはインターバルが必要なんだ。次々に言い放てばいい訳じゃない。そんなことしたら嫌われちゃう。大切なのはその場その場のセクハラ・クリティカルヒットさ。
「さすがにわかりませんね」
「はい、不正解!」
「少しは待てません?」
「わかんないんでしょ? 待つだけ時間の無駄じゃん。それにこの後に仕事が控えているんだし」
今更正論を言うな。このおっぱいが。
「ヒントありません?」
「ヒント出すわけないじゃん! 馬鹿じゃないの?!」
なんかキレられたんですけど。
「まぁまぁ。正直、ニワカ野郎相手に選択問題ですらない時点でかなりハンデがあるんですから、ヒントくらいいいでしょう?」
「う、うーん」
「少しだけ......先っちょだけ!」
「卑猥な方に言い直さなくていいよ」
別に卑猥な言い方と決まったわけじゃない。あんたがそっち系に即変換するからだろ。
「わかった。じゃあほんっと少しだけね!」
「さっすが先輩! 尊敬しちゃいます!」
「ふっふっふー! 偶には先輩としての余裕を見せてあげよう! 私ですら理解しづらいヒントあげるよ!」
「よっ! 頼れる長女! 切れる才女! 揺れるおっぱい!」
「最後の余計なんですけど!」
ざーめん。じゃなくて、さーせん(笑)。
葵さんは先程、俺に見せた莢から取り出したソラマメを再び見せた。指差している箇所は問題の内容の黒い部分だ。
「よく見て? 何かに似てない?」
「何に......似てる?」
「で、ヒントは“色が関係している”、だよ」
色?
ただの黒色だよな。あと真ん中に線が入っているだけだ。
「これは......“まんすじ”?」
「もう不正解でいいですか?」
「すみません、真面目に考えます」
「ヒントあげたから正解しなくてもいいよ」
すごい矛盾来たな。こいつ頭大丈夫か。
「あ、わかりました」
「はいはい、不正解」
「まだ答え言ってないんですが」
「いやいや、あんなヒントじゃわからないでしょ。時間の無駄です」
「いえ、たぶん合ってると思います」
「だーかーら。たった一回の回答権の上に、当てずっぽうなんだよ? 聞くまでもないじゃん」
「答えは“お
「はい、不正――かいッ?!」
「あれ、違ってました? 確信したんですけど」
「な、なんでわかったの?」
「なんかよく見たら口みたいだし、口......というか歯が真っ黒だったらお歯黒かなって」
「......。」
俺の憶測で答えを言ったのだが、彼女の反応からして正解だったらしい。やったね、あと一問だ。
そうか、ソラマメのこの黒い部分はお歯黒って言うのかぁ。葵さんが、色が関係してるって言うから簡単に推理できちゃったよ(笑)。
達成感のせいか、この名称は死ぬまで絶対忘れないだろうな。たぶん言う機会もそう無いんだろうけど。
「あと一問で私は下乳に......」
「?」
「もしかして、これってかなり危機的な状況?」
まぁ、3問中2問正解してるもんな。3本勝負だったらこの時点で俺の勝ちだったのに。
「ど、どうしよう、和馬君」
「じ、自分に言われましても......」
「なんとか和解できませんかね?」
「お互いの妥協しあえる点を提案するんですか? でしたら葵さんは自分が竹を用意するんで素麺を食べてください。自分は葵さんの片乳だけにソラマメを挟んでもらいます」
「私のはただの流し素麺じゃん! 和馬君のは根本的に何も変わってないよ!」
「そうですか? 片方だけなら恥ずかしさも半減するかと」
「行為に及ぶの時点で片方とか関係ないから! わかった、こうしよう。私は素麺を止めて水だけ和馬君に流します。和馬君はソラマメを食べてください」
「俺のはただの食事だろッ!! 素麺、水の問題じゃねーんだよ! 流すな! まず流そうとするな!」
「うぇーん!敬語ぉ!」
葵さんが尊敬の念を欠いた俺を前に涙目になるが、バイト野郎だって譲れることと譲れないことくらいある。
もう譲歩する必要ないな。お互い和解なんかしたら罰ゲームの意味がない。罰ゲームは思いっきりやってこそ価値があるのだ。
葵さんもそれを理解して、最終問題に移ると決意した模様。
「泣いても笑ってもこれで最後ね!」
「ええ。お互い文句無しです」
「それでは最終問題!」
さぁ! 何が来る! 簡単なの来い! 俺がわかるやつ来いぃぃぃぃいいいぃぃい―――
「ソラマメが上や下を向いている理由はなんでしょう?!」
―――ぃぃぃいぃやぁぁあぁぁあぁぁぁ!!!
くっそ! 仕事始める前に俺が『なんで上を向いているんでしょうね。勃◯みたいです』って言ってたやつじゃねぇーか!
勃◯なんて言わなきゃ良かった......。あ、じゃなくて『なんで上を向いているのか』だ。
予め疑問に思ったのを口にしたことが不利な状況を生み出してしまった......。
「ど? わかる?」
「......。」
「もしかしてわからない?」
「......。」
「わ、わからないんだぁ。そっか、わからないんだぁ! うへへぇ〜」
この顔。
このニマァってうざい顔。
女性の顔にビンタしたいと思ったことなんて無いのに、そうさせたくなるような顔しやがって。
「ヒントを――」
「あげるわけないでしょ?! さっきそれで痛い目を見たんだから!」
くっ。そりゃあそうだよな。
葵さんはもう勝った気でいるのか。イメージで片手にお椀、片手にお箸で流れてくる素麺をキャッチする
マジうぜぇな......。
「やっぱ途中で掬うのは野暮だよね。傍観に徹しよ」
なんかヤバいことを小声で言ってるんだけど。
流れてくる素麺を眺めてるだけとか何がしたいんだよ、お前。
「もっと近くに行って見てもいいですか?」
「駄目ッ! ここから動いちゃ駄目!」
「も、問題の条件に無いじゃないですか......」
「じゃあ和馬君はテレビ番組でクイズ大会に出ているのに、途中で帰宅して、テレビの前で回答してもいいと思ってるんだ」
そんな大層な距離じゃねーだろ! 屁理屈言いやがって。
が、これで少しヒントが得られたぞ。上を向いているソラマメを『間近で見たらわかってしまうかもしれない』ということを。つまり見た目でわかってしまうということを。じゃなきゃ近づかせない。
ちなみに俺たちが居る場所はソラマメが生っている所から数メートル離れた位置である。だからここからソラマメを眺めているだけじゃわからない。
その肝心のソラマメもなぜ上を向いて生っているのか、下を向いて生っているのかわからない。偶々か? いや、偶々だったら問題にしないか。
なんでソラマメは勃◯しているんだろう......。
いや、まず勃◯ですらないんだけど。
「ふむ......」
「人間ブリッジ流し素麺、かぁ。なんの道具が必要かなぁ」
「うーむ......」
「上から下に流れていくんだから、まずは大きめのバケツとか後頭部ら辺に設置して......」
「うーん......」
「ねぇ、いい加減諦めてよ。さすがの和馬君でもわからないでしょ?」
う、うるさいなぁ。どうにかして人間ブリッジ流し素麺を回避したいんだよ。
ん? “上から下に流れていく”?
上から下......。ソラマメも上から下に生っていくとしたら?
「あ、深く考えすぎか!」
「え」
「わかりました」
「終わったぁ」
「あ、葵さん?」
さっきまでほくほく顔だった葵さんが、今度は泣きながら現状に悲観している。
情緒大丈夫か?
「え、えーっと、どうしたんですか?」
「和馬君のその顔というか、その雰囲気はもう絶対正解に辿り着いたときのそれだよぉ」
「は、はぁ」
「また負けたぁ」
まだ答え言ってないのにそこまで?
俺はとりあえず葵さんに答えを告げることにした。
「自分の答えは単純に“成長過程”です」
「......。」
「ソラマメ。その語源は文字通り、“空を向いて生る豆”からだと考えられます。なら最初から空を向いて成長し、後に莢の中身、つまり豆が育ってちゃんと生れば、上を向いているソラマメは重さかなんかで下を向き始めるんだと思います」
「......。」
「最初は枝や他のソラマメの密集具合から上を向いているとか、直射日光を避けるため、下を向いて葉の下に隠れるためとか深く考えすぎてました.....って葵さん?」
「......最悪だよ」
最高です。
葵さんが虚ろな眼差しでどこかを見ている。俺の答えが合っているとその顔から感じ取れた。
その、なんだ。可愛くない後輩でごめんなさい。
「ねぇ、片方だけでいい?」
「え、あ、はい」
片乳だけでも別にいいけど。
さっきは片方も両方も恥ずかしいことに変わりないと言っていたけれど、彼女なりに思うところがあるらしい。
「嘘ですよ。あんな罰ゲーム冗談です」と言えるほど、バイト野郎は大人ではなかった。
*****
〜その後〜
*****
「うっわ、挟めちゃったよ......」
「葵姉、洗面台の前で何しているの?」
「ひゃッ?!」
『ポト』
「ん? ソラマメ? ソラマメで何かしていたのかしら?」
「こ、これはその、決して変な意味じゃなくてね!」
「も、もしかして谷間に挟んでたの......死ねばいいのに」
「ち、違ッ! 谷間じゃなくて下乳で!」
「え、した......ちち?」
「えっと、その......色々な意味でごめんなさい」
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