第277話 胸ピクってHなイメージあるけど基本男のスキルである
「『ト、トムだよ』。『や、ヤムだよ』。『『二人合わせてトムヤムだよ』」
「......。」
「.....あの、もうやめてよろしいでしょうか」
「駄目です。続けてください」
「......。」
くそうくそう。
天気は雨で、ジメッとした空気が漂う中村家では、リビングにて俺と葵さんの他に千沙と陽菜が居る。雨のせいで今日は仕事が無い。無いので真由美さんたちは買い物に出かけるから誰も止めてくれる人がおらず、バイト野郎がこうして半裸姿をお披露目しないとけいないのだ。
俺はテレビの前に立って、三姉妹はソファーで横に並んで俺のパフォーマンスを鑑賞している最中である。
『カシャ! カシャ!』
「......撮影は許可した覚えないんですが」
「追加オプションだよ。和馬君も以前したでしょ?」
「......。」
ちなみにそのパフォーマンスとはバイト野郎の胸筋による“胸ピクトーク”である。前回のアオイクイズによるキチガイ罰ゲームだ。
右の胸筋が“トム”、左の胸筋は“ヤム”という。
この二人を器用にピクピク動かしてなんのためかわからない会話をしているのだ。
「和馬、あんたよくやるわね......」
「いくら罰ゲームでも従順すぎません?」
仕方のないことなんだ。
断りたいとこだけど、如何せんバイト野郎が第四回 アオイクイズの罰ゲームではっちゃけたせいで言うことを聞くしかないからな。故に我慢しなくてはならない。
もっと言うならこの罰ゲームを断ったら最後、この妹二人にあの“AV風の自己紹介動画”の存在がバレてデータを消されてしまう。
それだけは避けたい。
「というかなんですか、“トム”と“ヤム”って」
「タイ料理みたいな名前ね」
「たしかに。ネーミングセンスはアレだけど、大切なのは胸筋だから別に私は気にしないよ」
「......葵さんだけじゃなくてなんでお前らまで居んだよ」
「別にいいじゃない。葵姉みたいに筋肉フェチじゃないけど見て損は無いでしょ」
「まぁ、デブな男性を見るより、引き締まっている身体の方が目の保養になるのに性別は関係無いですから」
「禿同! あ、陽菜! わ、私は別に筋肉フェチじゃないよ?!」
今更取り繕ったって遅ぇよ。
「じゃあ続きお願い」
「......『トムの趣味は―――』」
「ちょっと! ちゃんと胸ピクさせてよッ!」
「......。」
胸ピクって意識してやるの難しくない? 練習なんてしたこと無いし、実際できるとは思っていなかったんだ。慣れてないと簡単にできないよ。
葵さんがやれって言うから頑張っているのにさ。
「これ、意外と難しいんですよ? 文句を言うならお手本を見せてくださいよ」
「あんたそれセクハラよ」
「なんとか根性でやって」
「あ、良いこと思いつきました。針で兄さんの乳首を刺せばビクンッてなりません?」
鬼か。
お前は兄をなんだと思っている。
俺はそんな妹を無視して胸筋の会話を続けることにした。
「『トムの趣味は筋トレだよ』」
「へぇー」
「「......。」」
「『ヤムの趣味は......筋肉をいじめることだよ』」
「それ筋トレと違うの?」
「「......。」」
「『特に乳首をいじめると硬くなるよ』」
「乳首は筋肉じゃないと思う」
「......なんかシュールですね」
「......ええ。和馬がちょっと可哀想ね」
じゃあ止めてよ。狂気と化した自分たちの姉を止めてよ。
「なーんか会話に花が咲かないなー」
「......逆にどうやったら胸筋の会話に花を咲かせるんですか」
こいつ無茶振りにも程があんだろ。乳首抓んぞ。
「うーん。あ、そうだ。私たちが質問するからそれに答える形式にしよう!」
「「“たち”?」」
「まぁ、その方が答えるだけなので楽ですね」
質疑応答の形式なら胸筋を介して会話するだけだから楽っちゃ楽だな。
というか、“胸筋を介して”ってなんだ。
「じゃあ私から! 胸筋に思いっきり力を入れて!」
質問じゃなくて要望じゃねーか!
が、大人しく従わないと終わる気配がしないので俺は素直に従った。
「ふんぬッ!!」
「お、おおー!」
「じゃあ次は私ですね。トム君とヤム君の好きな食べ物はなんですか?」
「胸筋なんだからプロテインとかササミでしょ」
燥ぐ長女を軽く流して、千沙からそれっぽい感じの質問がきた。
陽菜、『胸筋なんだから』ってどういうこと? これは俺の意見を胸筋を通して回答しちゃ駄目なの? 胸筋の好物ってなんだよ。
テキトーでいっか。
「『“おっぱい”です』『胸筋だけに』」
「「「......。」」」
やべ、本音が出ちゃった。
胸筋だけにおっぱいが好きじゃ通らないだろうか。
「えーっと、『『まぁ、高タンパク質で低糖質なモノなら何でも好きです』』」
「今更言い直しても......」
「“おっぱい”ってあんたねぇ......共食いじゃない」
「陽菜、そういう問題じゃないです。というか兄さん、陽菜に謝ってくださいよ。失礼です」
「失礼はどっちよ!」と言って次女の胸倉を掴んで持ち上げる末っ子。相変わらずの仲良しこよしで見ててほっこりする姉妹だ。
あと“ちっぱい”も“ひっぱい”もあんま変わらんからな。
陽菜は質問する番が自分に回ってきたので胸倉を掴まれていた千沙を解放して俺に向き直った。
「ごっほん! 私はそうねぇ。好きな女性のタイプでも聞こうかしら?」
「「お、おおー」」
それ胸筋関係無いだろ。
バカ姉二人は末っ子の攻めた質問に感心しているし。
「『胸が大きい女性かな』―――痛ッ! ごめん! 嘘だって!」
「誰がッ! 貧乳よッ!」
「いだッ?! そんなこと誰も言ってないから! ひっぱいも好きだから!」
「“ひっぱい”って何よ?!」
駄目だ。バイト野郎が口を開く度に陽菜の足蹴りが威力を増してしまう。
「ごっほん! では、一通り終わりましたし、もういいですか?」
「うーん。もうちょっとやってほしいけど、そろそろ母さんたちが買い物から帰ってくる時間だしなぁ」
「そうね。和馬が半裸でリビングに居たらパパに耕されちゃう」
「......。」
たしかに。俺は本当にずっと被害者だった。葵さんは動画録ったり、写真撮ったりでさぞかし良い気分なのだろう。バイト野郎はストレス発散のため、また葵さんのあのAV風自己紹介動画で今夜もヌく予定である。
「......ちょっと揉んでみたいですね?」
「「「何を?」」」
そんなことを考えているバイト野郎に対し、千沙は俺の胸筋を見つめて変なことを言い出してきた。
「揉むって......和馬の胸のこと?」
「わ、私でもそんな禁断なこと思いついても口にできないよ......」
「お、お触り禁止だから駄目だぞ」
「ええー。どんな柔らかさか気になりません? まぁ、私のよりはきっと揉み応えが無いと思いますが、もしかしたら陽菜以上かもしれません」
「千沙姉はさっきから私に喧嘩売っているのかしら?」
ふむ。できることなら俺も確かめたいな。姉妹のを揉み比べたい。
でも悲しきかな。男の胸筋は揉むのに対して無料感があるけど、女性のはオプション取られちゃうという固定観念があるし、もしかしたら通報まで行くかもしれない。
ダメ元で頼んでみるか。
「こ、交換条件だ。俺の胸筋だってタダじゃない」
「お、女の子の胸と一緒にしないでください。ちょっとだけ触らしてくださいよ」
「そ、そうだよ! 私も触ってみたい」
「私は揉まれてもいいわ」
「「「っ?!」」」
良くねーよ!!
いや、俺が頼んだことだけどさ!
「なんなら和馬の揉まなくてもいいわ」
「それなんのために揉ませるんですか......」
「いや、そういう話じゃないだろ。それじゃあただ揉まれたいだけじゃないか」
「だ、駄目だよッ! そういうエッチなことはお姉ちゃんが許しません!!」
なんてこった、他の姉妹の前でも陽菜さんは絶好調じゃないか。
冗談半分で言った俺が言うのもなんだけど、こいつマジかって言うのが正直な気持ちだ。
「というか、あんた。自分から言ったからには揉むのよね?」
「っ?!」
「させないよ?! 和馬君させないよッ!」
「いや、この勢いはなぜか陽菜が攻めている感じがします......。陽菜はなぜそこまで―――はッ?! まさかッ!!」
気づいたかッ?!
自分が好いている異性が末っ子と同じ人だってことに気づいたかッ?!
「ま、まさか、自前のAカップが推定Cはあるであろう兄さんの胸筋に負けていると認めたく―――いだだだだだだ?!」
「Bはあるわよッ!!」
「「......。」」
姉の美乳を握りつぶしにかかる末っ子である。Bは無いと思います。ええ、はい。
それと千沙は安定の千沙だった。男の胸筋に何カップとかあんのかね。
ああー、トップとアンダーのバストを測れば何カップかわかるんだっけ。抵抗あるから測ったことないけど、千沙が言うにはどうやら俺の胸筋はCらしい。
誰得の情報だよって話。
「そもそも千沙姉も大して無いじゃない! Cも無いでしょッ!!」
「なッ?! それくらいはありますよッ!」
「嘘ッ! 絶対無い!」
「そんなことありません!」
「じゃあどれくらいよ?!」
なんか喧嘩おっ始めましたぞ。
長女止めろよ。
「私はF?......くらいはありますよッ!」
「鯖を読むにしても程があるわよッ! それにFは葵姉よッ!」
「ちょッ!」
末の子がさらっと長女を巻き込んだ。
さすがにこれには長女も黙っていられない。バイト野郎に教えたくもない自分のカップ値を暴露されては、これ以上変なことを言わないようにと止めるしかないのだ。
そうか、Fなんだ。巨乳長女はFなのか。
もっとありそうな気がするんだけど。
「もっとありそうな気がするんだけど」
「か、和馬君もやめてよッ!」
おっといけない。つい思っていたことが口に出てしまった。
見れば葵さんは自前の巨乳を両手で抑えて真っ赤な顔でバイト野郎に睨んでいる。可愛いからやめた方がいいですよ、それ。
そんな俺らを無視してちっぱいとひっぱいは無益な争い事を繰り広げていた。ただでさえ俺たちが居るリビングにはソファーやダイニングテーブルがあって動き回れるスペースが確保されていないのに、そんなことお構いなしで始めるから見ているこっちは心配でしょうがない。
俺はさり気なく胸ピクトークを切り上げて陽菜の近くの空いているソファーに腰を下ろした。
「というか知ってますよッ! 陽菜はパッド入れてますよね?!」
「っ?! い、入れてないわよ。ねぇ、和馬」
「俺に振るな。気まずいだろ」
「本当ですか?! 私が確かめます!」
「ちょ―――きゃッ!」
「うおッ!」
千沙が真偽を確かめるため、無理矢理にでも陽菜の胸を揉みにいこうとするが、末っ子はこれに拒絶しようと後ろに下がった。
が、体勢を崩してしまった陽菜の後ろには、俺が居るので必然と俺にぶつかってしまった。
「ふ、二人とも大丈夫?!」
「す、すみません。そこまでするつもりはなかったのですが......」
「いててて......ったく。陽菜、大丈夫か?」
「ええ。ありが―――とッ?!」
“と”?
バイト野郎は咄嗟のことで別に陽菜のクッションになろうとした訳ではないのだが、座っていた位置的に倒れてきた陽菜の下敷きになってしまったのだ。
「か、和馬、そこから手を退かして」
「「「......あ」」」
下敷きになった俺からは陽菜の顔は見れないが、耳まで真っ赤なのはなぜかその言葉でわかった。
そう。それは畏まった言い方で言うならば四十八手の一つ―――
―――“撞木ぞり”である。
そして一番の問題点はバイト野郎の右手が陽菜の............。
「その、なんだ............あるんじゃないか? Bくらい―――」
「死ねッ!!」
「ろぼすッ?!」
貧乳ポニ子から体重の乗った肘打ちを腹筋に食らうバイト野郎であった。
..............................無さそうに見える割には柔らかかったのは秘密である。ナニがとは言わないが。
――――――――――――
ども! おてんと です。
次回は特別回ですね。なんの?と言われますと、この『畑を耕し、そこに青春をばらまく』の公開記念1年目の特別回です。
え、去年の25日に公開したのなら今日の更新日が特別回じゃないの?ですって?
......くっ! 間に合わなかったんです!
いつもと一風変わった感じです。もしアレでしたら飛ばし読みでも良いかもしれません。許してください。
そしてできればご笑納ください。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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