第276話 第五回 アオイクイズ 後編

 「で?」

 「見えてないことをいいことに息子をボロンしてました......」


 現在、バイト野郎はカブ畑にて可愛い妹に絶賛叱られ中である。腕を組んで睨みを利かせる妹を前に、兄は正座という体勢で反省を示しているところだ。


 怒られている理由は言わずもがな。


 「......。」

 「いでででででで!!」


 お願いだから息子を踏まないでくれッ!!


 長靴でッ!!


 千沙は加減なんかせずにグリグリと愚息を踏みつける。これが生足だったら固くなるんだろうが、如何せん長靴で踏まれては美少女関係なく血尿案件だ。


 「ほ、本当に私の目の前でぶら下げてたんだ......」

 「......姉さんはなぜ見なかったんですか?」

 「えッ?!」


 予想外の妹の質問に驚きの表情を見せる長女、葵さんである。


 そう、葵さんはクイズでうっかり答えやヒントを出さないように、上着で自身を隠してしゃがんでいたのだ。


 本人曰く、岩になってバイト野郎の探りを拒絶するのだと。


 完全にバイト野郎のことを無視する気満々だったので、バイト野郎はそれを逆手に取って視界を塞いでいる彼女の目の前で、ち◯ぽをぶらつかせていたのだ。


 そこをなぜか千沙に目撃されて今に至る。


 「いや、なんか見たら終わりそうな気がして」

 「はい?」

 「その、なんというか、こんなことで異性の陰部を見たくないというか......」

 「は、はぁ」


 俺がさっき葵さんに「どーせお父さんのしか見たことないんでしょ?」って挑発したからかな。


 正直、バイト野郎は葵さんに見られようが見られまいがどうでもよかった。ただただ出したかったんだ。


 開放感パなかったな......。


 「ところでなんで千沙はここに居るんだ?」

 「椅子」

 「あ、はい。......んぐッ?!」

 「ふん」


 千沙のその一言で正座をしていた俺は、今度は四つん這いになって千沙の椅子となった。


 可愛い妹はそんな俺に容赦なく腰を下ろした。


 これくらいは別にいいさ。痛くも痒くもない。むしろご褒美。背中の上にはがあるんだぜ?


 8時間はこの体勢でいける。


 「ほら、このカブ畑をカブごと耕すのでしょう?」

 「千沙には耕運機トラクターで来てもらってそのお仕事を任せたんだよ」

 「なるほど。で、トラクターは?」


 「姉さんが乗ってきた軽トラの出入りに邪魔かと思ったんで、畑の近くに停めてあります」

 「でもこっちの仕事がまだ終わっていなくて」

 「葵さんが馬鹿なクイズをやり始めましたからね―――いはいれふ痛いです! いはいれふ痛いです!」


 そんなことをバイト野郎が口走ったら、葵さんは四つん這いの状態で無抵抗なバイト野郎の頬を抓った。


 これはご褒美でもなんでもないな。ただ痛いだけ。


 「ったく。仕事をせずに何遊んでるんですか」

 「ま、まさか千沙にそんなこと言われる日が来るなんて......」

 「禿同」


 千沙の休日は中村家にひきこもっているからな。


 そんなことを考えていたら、千沙はバイト野郎の尻をベチンと平手打ちした。今日は厳しいですね。ありがとうございます。


 そりゃあそうか。気になる男子が自分の姉にち◯ぽ出してたらそりゃあ怒るか。通報しないだけマシと考えよう。


 「そう言えば陽菜も以前、そのアホみたいなクイズ企画に参加していましたよね?」

 「“アホみたいなクイズ企画”......」


 葵さんが千沙にアホなクイズ企画と言われてなんか落ち込んでいる。


 「せっかくですし、私も参加します」

 「「え」」


 なんてこった。これじゃあいつの日にかあった(第二回 アオイクイズ時)バイト野郎の惨敗の繰り返しじゃないか。


 そう、以前は葵さんと陽菜がタッグを組んで二問出すというマジキチ問題が乗じたのだ。ガチ勢農家姉妹によるニワカ野郎へのいじめが生じてしまった。


 「で? 兄さんは姉さんにどのくらいエッチな罰ゲームを要求したんですか?」

 「エッチ確定かい」

 「兄さんですから」

 「さいですか。俺は葵さんに今度晩ごはんの際に、あーんしてもらう罰ゲームを提案した」

 「わ、私が居るのによくそんなこと要求しましたね......」


 はは。千沙とは付き合ってないんだし、別にいいだろ。


 「ちなみに姉さんは兄さんにどんな罰ゲームを要求したんですか」

 「和馬君には彼の胸筋とトークしてもらいます」

 「......は?」

 「えっとね、胸ピクって知ってる? それで彼には左右の胸筋と会話してもらいたいの」


 千沙がこいつマジかって顔で姉を見ている。


 な? お前からも言ってくれよ。この人の罰ゲームは傷跡を残す罰ゲームなんだよ。


 「ま、まぁ、とりあえずそこは置いておきましょう。私も参加するにあたってやはりクイズ出す側ですね」

 「ええー」

 「でも千沙はクイズ出せるような野菜の知識ある?」


 そう姉に聞かれてしばし考える素振りを見せる妹は十数秒後には答えを出していた。


 「……無いですね。私じゃクイズ作れません」

 「じゃ、じゃあ千沙は見学な?」

 「残念だけどそうして―――」


 「いえ。でしたら私はクイズを答える側に回ります」

 「え?!」

 「ちょ!」


 天才次女千沙が味方になってくれるとか心強すぎ。野菜のことに関して知識は無いのかもしれないけど、それでも考える頭が一つ分増えることはより答えに辿り着ける確率が上がる。


 「だ、駄目だよッ! 和馬君が正解しちゃうかもしれないじゃん!」

 「あれ? クイズですよね? その言い方だと正解させる気が無いにしても、自分が勝つ前提じゃありません?」

 「千沙、お前の姉は俺の身体を弄びたいんだよ」

 「ぐうの音もでないけど、言い方!」


 いや、ぐうの音も出ないなら間違ったこと言ってねーだろ。


 「別にいいじゃないですか。私が負けたらちゃんと姉さんの罰ゲーム受けますから」

 「うぅ。じゃあ私が勝ったら今度見たい映画に付き合ってよ」


 罰ゲームじゃねーだろ、それ。


 なんだ俺との差は。千沙にも胸ピク要求しろよ。右乳首と左乳首で会話する罰ゲームに変更しろよ。俺は最前列で鑑賞するから。


 「罰ゲームですか、それ」

 「恋愛モノだよ」

 「罰ゲームじゃないですか、それ......」


 どうやら千沙は恋愛モノの映画が嫌いらしい。千沙らしいと言えば千沙らしいな。

 

 「で、千沙が勝ったら?」

 「ああ。私が勝ったら兄さんに罰ゲームを受けてもらいます」


 なんで俺。


 「ちょっと意味わからないんですけど」

 「さっきのボロンに関して反省してほしいので。それに二人で姉さんに罰ゲームを受けさせたらが可哀想じゃないですか」

 「兄がクイズに勝っても罰ゲームを受けたら可哀想じゃないですか」


 俺が負けたら胸筋と会話しなきゃいけなくて、逆に俺が勝ったら千沙の罰ゲームを受けるとかどんな嫌がらせだよ。いいじゃん、二人で葵さんをいじめようよ。


 「まぁ、内容くらい聞いてくださいよ」

 「どんな内容?」


 「今度料理するんで付き合ってください」

 「罰ゲームか、それ」


 「兄さんには毒味してもらいます」

 「罰ゲームじゃないか、それ......」


 “毒味”って言ってるじゃん。


 葵さんを見ればお気の毒にって顔で俺を見てくるし。


 俺は千沙の要求を無視して本題のクイズに戻ることにした。バイトの時間なのに仕事せずにぐだぐだしていたから良心が傷んでしまったのだ。いや、今更だけど。


 「で、問題というのは?」

 「この3つのカブの中から仲間外れがあるんだけど、それを当ててって話」

 「なるほど。ぱっと見、全部カブの仲間みたいですね」

 「制限時間は3分ね。私は少し離れているから時間になったら野菜こたえを持って来て」


 そう言って葵さんは30メートル程離れた場所に移動していった。


 きっとバイト野郎が探りを入れてくると思っての行動だろう。さすがに先程のボロンを懸念してか、“岩になる”ことはやめたようだ。


 「さて、二人で解決するか」

 「......。」


 クイズの内容は至ってシンプル。目の前に置かれた赤色と黄色とバカでかい3つのカブに類似している野菜からカブじゃないのを選べば良いのだ。


 これだけ色や大きさが違ってくるとなると品種改良かなんかでカブに限らず野菜は種類が多いんだなって思う。


 今までの経験上、色が違うくらいなら品種改良ということで結局はカブの仲間なんだという判断ができる。だから大きすぎる白色のカブみたいな野菜はカブじゃない。


 と、言いたいのだが、根系の野菜って放置するとバカでかくなるから一概にそうとも言えないのだ。


 んんー。わかんないー。


 考えてもわからないから千沙に聞いてみよ。


 「千沙はわかるか?」

 「ええ。余裕です」

 「っ?!」


 試しに聞いてみたが、なんてこった。うちの可愛い妹にとってこの問題は余裕だったらしい。


 千沙は並べたられた3つのうちの2つのカブを両手に取った。その選択肢は赤色と黄色の野菜であった。


 「品種改良でこの赤色と黄色のが生まれたんです。つまりこの2つがカブの仲間です」

 「けど、大根とか人参みたいな土の中でできる野菜って放っておくとデカくなるんだぞ?」


 「ふふ。兄さんは覚えていませんか? 一時期、直売店で私たちが店員さんのお仕事をしたことを」

 「?」


 「店に並べられていた商品を思い出してください。赤いカブや黄色のカブはありましたよね?」

 「っ?!」

 「気づきましたか?」


 な、なるほど。千沙の言いたいことがわかったぞ。


 うろ覚えだが、店の商品として確かに赤色のカブと黄色のカブは置いてあった気がする。売るために栽培しているのだから当たり前っちゃあ当たり前だ。


 でもその理屈でいくならば―――。


 「大きいカブもあったな!」

 「はい。つまりこの大きいカブは放置して大きくなってしまったのではなく、元々そういう野菜でから店に置かれていたんです」


 そうだ。この際、赤色だろうが黄色だろうが関係無い。巨大すぎるカブなんて店には置かないんだ。理由は大きすぎると硬かったり、スが入っていたりとクレーム要素満載のリスクがあるからな。


 だからそんな変な野菜は置かない。大きいこの野菜はそういう野菜として売っているんだ。


 つまりこの大きなカブみたいな野菜はカブの仲間じゃない。


 「ちなみに私は直売店でこの赤色のカブは“赤カブ”と値札に書かれていたのを覚えています」

 「さ、さすが俺の自慢の妹だッ!」

 「ふ、ふふ。も、もっと褒めてください」

 「偉い! 偉いぞ!」


 燥ぐ俺は照れる千沙の頭を撫でながらべた褒めしまくった。千沙は顔を赤くして満更でもないといった様子である。というか、デレデレだ。


 こいつ、承認欲求があったり、褒められるが好きだもんな。


 「そ、それではこの大きい方のカブみたいな野菜を持って姉さんの下に行ってきますね!」

 「おう!」


 出した答えを伝えるべく、千沙は満足気な顔をして約30メートル先の姉の下へ走っていった。体力が無いくせに走りやがって。


 お? あの歪なジャンプの混じった走りはスキップか?


 全然できていないけど、褒められて嬉しいから燥いでいるのだろう。そんな思いで姉にドヤ顔を決める気なんだろうな。


 「いやぁ。これで葵さんからの罰ゲームを受けずに済んだぞー」


 助かった。胸筋と会話なんてしたくない。狂気の沙汰だぞ。


 「千沙、遅いな......」


 大した距離ではないが会話が聞こえない。ここからでは姉妹たちが大声を出している雰囲気くらいしかわからないのだ。


 「......。」


 ......千沙、四つん這いになってない?


 ...........いや、それはないよな。うん。


 「............。」


 そんな千沙を前に年甲斐もなく、ぴょんぴょんと飛んで巨乳を揺らす長女が視界に入る。


 え、ちょ、は?


 そして少ししてから下を向きながら落ち込んだ様子を醸し出す妹と、ほくほく顔で俺を腹立たせてくる巨乳長女がこっちへ向かってきた。


 もうここまできたらわかる。


 千沙、お前......。


 「兄さん......」

 「和馬君! 和馬君!」

 「......。」


 間違えてんじゃねーか!



――――――――――――



ども! おてんと です。


今回のクイズで出題された野菜は【黄カブ】と【聖護院カブ】、そして【ビーツ】です。


そう、カブの仲間じゃないのはビーツと呼ばれる赤カブに似たような見た目の赤い野菜なんです。アブラナ科じゃないんですよ。詳しくはググってください。


葵の作戦ひっかけの成功です。許してください。


ちなみに黄カブは通常のカブより少し硬く、煮崩れがしにくいので煮物に向いています。聖護院カブは、、、あの京都で有名な千枚漬けに使われます。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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