第249話 今年も波乱万丈であけましておめでとう

 「高橋です。失礼しまーす」

 「いらっしゃい。和馬君」


 天気は晴れ。時間にして昼過ぎの15時頃である。


 1月2日で年を越してから始めて中村家にバイト野郎は、玄関で葵さんが出迎えてくれた。通りがかったついでで、偶々バイト野郎と会っただけだろうか。葵さんの手にはそう思わせる紙の束を持っていた。


 「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 「うん。明けましておめでとう」


 バイト野郎は葵さんと軽く挨拶してから他の4人が居るリビングに向かった。


 「あら、泣き虫さん。明けましておめでとう」

 「おめでとう。ことよろね」

 「和馬、明けましておめでと」

 「明けおめです。兄さん」


 中村家御一同はソファーで座ってテレビでも見ながら寛いでいた。ファンヒーターを使っているから部屋全体が暖かい。外の寒さとのギャップが凄いな。


 ....少しだけ三姉妹の晴れ着姿を期待していたことは黙っておこう。受験生が2人も居るもんな。そこまで息抜きできないか。


 「明けましておめでとうございます。これからもよろしくお願いします。それと新年早々にお邪魔してすみません」

 「気にしないのぉ」

 「高橋君は俺の隣ね。かもん」


 俺は雇い主が座っているソファーに腰掛けた。


 さて、家族水入らずのとこに部外者が入ったのは良いが、今日は挨拶だけで帰っちゃ駄目かな。


 でも以前、真由美さんがちょっとしたイベントをするって言ってたし。挨拶して即帰るのは失礼か。


 「和馬君、お雑煮食べる?」

 「いただきます」

 「今装ってくるね」


 葵さんが俺の分のお雑煮を装いにキッチンへ向かっていった。


 「兄さん、お餅にチチーマヨかけて食べると美味しいですよ」

 「お餅だけでいいよ。新年早々腹壊したくない」

 「それどういう意味ですか!」

 「そのまんまの意味です」


 千沙は良かれと思ってキチガイソースをかけたお餅を勧めてくるが、これに対して俺は軽くあしらった。


 チチーマヨとは例のごとく、チョコソースとチーズとマヨネーズを和えたキチガイソースのことだ。とてもじゃないが、食べ物にかけて良いソースではない。


 「はい、和馬。伊達巻」

 「え、あ、うん。もぐもぐ....美味いね。陽菜が作ったの?」

 「ええ、そうよ」

 「出汁が効いてるよ。甘さも控えめな感じでくどくない。控えめに言って最高」

 「えへへ」


 あからさまに照れた様子のポニ娘こと陽菜。可愛いね。それを口にできないけど満腹だし、眼福です。


 しかしこれに対して異議をぶつけたいのが次女である千沙ちゃんだ。両の頬をぷくーっと膨らませて抗議の眼差しを俺に向けてくる。


 お前らなんなん。新年早々可愛さアピールしてきやがって。パコるぞ。


 「はい、高橋君」

 「? これは....」


 次女と末っ子の可愛さに内心悶えていたら隣に居る雇い主から掌サイズの紙包みを受け取った。


 一瞬何かわからなかったけど、これアレだ。ポチ袋だ。


 「え、いや、バイトしに来ているだけなのに―――」

 「いいからいいから。ちょっとしか無いけど好きなことに使いなさい」

 「やっさん....」


 俺は本名がまだわからないやっさんから受け取ったポチ袋を見つめた。ああ、まさかお年玉をいただけるなんて思っていなかった。


 ..................いくらなんだろう。すっごい気になる。触った感じ、500円玉とかの硬化じゃない。厚みを感じないからきっと1000円札とか5000円札なのかな?


 「開けてみなよ」

 「は、はい」


 雇い主は金額が気になっているバイト野郎にそう言ってきた。俺も確認したいのでポチ袋をかけることにした。


 千沙たちも俺がポチ袋を開封することに興味津々だ。


 「こ、これは....っ?!」

 「な、なんですか?!」

 「い、いくらよ?!」

 「結構いってた?!」


 俺は大袈裟な反応してポチ袋の中身の紙を取り出す。


 「か、“肩叩き権”....ですか」

 「ぶはははははははは!! そうだよ!! お金じゃなくて残念だった?! お詫びとして今度俺が高橋君の肩を叩いてあげるね!」

 「「「「....。」」」」


 一人、何が面白いのか爆笑するクソジジイが居る。


 一枚の紙きれに書かれていたのは手書きで‟肩叩き権”の4文字だ。


 さすがにこれは笑えない。お年玉を貰ったときの子共の気持ちを踏みにじりすぎ。これなら最初っから貰わない方が良かった。


 「あ、あなたは最低ねぇ....」

 「え?」

 「か、和馬君、可哀想。私のお年玉あげるから泣かないで」

 「わ、私も差し上げます」

 「私も」


 なぜか三姉妹のお年玉を貰うという空しい結果に。葵さん、自分がこんなことで泣く男だと思っていたんですか?


 なんで娘たちの受け取らないといけないんだよ。そっちの方がよっぽど罰ゲームだわ。


 「あ、あれ? もっと盛り上がると思ったんだけど」

 「この時期はお餅を喉に詰まらせて死んでもおかしくないので、とりあえずお餅を食べてくれませんか?」


 「遠回しに死ねって言いたいの?!」

 「そして未亡人になった真由美さんを自分がいただきます」


 「ふざけんなッ! 殺すぞ!」

 「こっちのセリフじゃボケ! 今日は俺が耕したるわ!!」


 新年早々、他所のうちの旦那と喧嘩をおっ始めたバイト野郎。


 これにはさすがの女性陣も待ったをかけるしかない。歳の差関係なく喧嘩は程なくして終わりを迎えた。


 「はぁ。悪かったよ。はい、お年玉」


 雇い主はポケットから今度はちゃんとお金が入ったと思しきポチ袋を俺に差し出してきた。


 ポチ袋で良かった。これでお財布から現ナマとか出されたら、なんかお小遣いみたいで咄嗟に殴ってしまうところであった。


 「....ふんっ!」

 「あ、ちょ!」

 「「「「....。」」」」


 俺は差し出されたポチ袋を失礼にもパシッと手首をスナップさせて取り上げた。中身は確認しないが、きっとちゃんとお金なんだろう。


 「これで許してあげます」

 「‟ありがとう”は?!」


 「正直、ドッキリで終わると思ったので貰えるとは思いませんでした。だからお礼を言うと変に照れくさいので言いません」

 「か、可愛くないなぁ。2回目も肩叩き権にすれば良かった」


 「まぁ、はい。ええーっと....お礼の言葉ではなく代わりにこれを差し上げます」

 「? ....ああ、うん。はは。今度使うよ」


 雇い主がにかっと笑う。


 俺が雇い主に渡したのは先程受け取った肩叩き権である。俺は別に必要ないし、お年玉のお礼はこれで勘弁してもらいたい。


 そう願って軽い気持ちで渡しただけなのだが、皆俺にバレないようにとクスクスと笑っていた。お礼を真っ向から言うよりマシだと思っていたが、これはこれで恥ずかしい。


 ただ貰った物を返しただけなのにね。


 「え、ええーっと!! 今日は何かイベントをするって聞きましたが!!」

 「ええ、アレよ。正月イベントと言ったらアレするでしょ」

 「?」


 ‟アレ”ってなに?


 バイト野郎がそう不思議に思っていたら、千沙がリビングを出て行き、廊下の方へと消えていった。待つこと数十秒。戻ってきた千沙の両手には筆と真っ白な一枚の紙である。


 なるほど、筆を使って君ら姉妹の性感帯をイジメろと―――


 「書初めです!」

 「お題は今年の目標よ!」

 「和馬君にも中村家の恒例行事に付き合ってもらいます!」

 「....。」


 ああ、そっちね。うん、知ってた。



―――――――――――――――



 ども! おてんと です。


 ということで、次回は書初め大会です。誰がどんな目標を立てるのか予想してみるのも面白いかもしれません。是非、楽しんでください。


 私事ですが、カレンダーで明日の欄に“予定あり”と書いてありました。


 しかし内容がまったく記憶にございません。なんでしょうね。許してください。


 それでは、ハブ ア ナイス デー!

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