第250話 思春期の男子高校生は筆の使い道を誤っている

 「書初めをするわよ!」

 「ああ、うん」

 「なによ! もっと盛り上がりなさいよ!」


 書初めってそんなテンション必要?


 現在、中村家にて俺ら全員で書初め大会をすることになった。


 陽菜、悪いけど俺がテンション上がらないのは筆を使って18禁プレイをできないからだ。あんたら三姉妹のチ〇ビとかおま〇ことか、クリ〇リスとか筆でこちょこちょしたかった。


 ご両親が居る前ですもんね。ごめんちゃい。


 「大方、文鎮ぶんちんで私たち姉妹にエッチなことでもしたかったのでしょう」

 「か、和馬君、それはちょっと....」

 「泣き虫さん、前から言ってるでしょう? 親の前では少しくらい猫を被りなさいって」

 「おい、高橋ぃ! 初耕しされたいのか!」


 文鎮でエッチなことってどういうこと? 実践してくんね?


 葵さん、真に受けないでください。


 あと真由美さんもです。


 雇い主もなんだ、“初耕し”って。一回されたら死ぬだろ。


 ツッコミが追いつかねぇよ。畳みかけんな。


 陽菜助けて。


 「和馬は文鎮ディルドというより筆で女の子の秘部をいじりたいのよ」

 「....。」


 こいつ、‟文鎮”を“ディルド”って言った! JCの口から出ちゃいけない18禁単語が新年早々出てきたんですけど!


 「あの、そういうのいいんで書初めを始めましょ?」

 「「「「「.......。」」」」」


 その「ノリ悪い奴ぅ」みたいな眼差しで見てくるのやめてくれない?


 多勢に無勢だよ。しかも攻め方がソレ系って、リアクションを取らなければならないこっちの身にもなってほしい。


 「さ、部屋を移すわよ!」


 こうして中村一家とバイト野郎一匹による書初めが始まった。



*****



 「皆終わった?」


 所変わって書初めをした部屋は中村家の和室である。9畳はあるこの部屋で俺らは30分程かけて作業をしていた。


 葵さんの声掛けにより、全員書き終えたと首を縦に振った。もちろん書初めだから毛筆と墨汁を使って半紙に書く。


 のりを活用すれば半紙の枚数に制限は無い。5枚使う者も居れば1枚しか使わない人も居るし、熟語や文で目標を作った者も居る。


 “今年の目標を書く”というルールだけを守っていればいいのだ。


 「私からよぉ」


 最初の発表はラスボスこと真由美さんからだ。使った半紙は見たところ1枚。


 「‟家内安全”」

 「「「「おおー!」」」」

 「....。」


 娘たちとバイト野郎は感動した。若干一名、呆然と立ちつくしているが、気にしない。


 バッと広げられた縦長の半紙には“家内”と‟安全”の綺麗な4文字である。書道でもやっていたのだろうか、素人目でもわかるくらい能筆だった。


 さすが一家の奥さん。結婚してください。じゃなくて、家族愛に満ちた書初めですね。


 「ほら、今年は陽菜と葵が受験生じゃない? 無理はしてほしくないけど、必死に頑張っているみたいだから、母としてはせめて健康面や環境面に気を配りたいわぁ」

 「ママぁ....」

 「母さん....」


 たしかに、この乾燥する時期はウイルス感染の防止等の勉強ができる環境に気をつけなければならない。‟願う”という印象があったが、‟家族を守る”という意味ではある種の目標だ。


 「じゃあ次はあなたね」

 「え、あ、うん」


 ラスボスから雇い主へとバトンがパスされた。


 雇い主はなんて書いたんだろう。半紙は5枚と、そんなに使っていいのか疑問が湧いてしまう枚数だった。


 母親である真由美さんがあんな良いこと書いたんだ。父親であるあんたもなんかジーンと来るヤツ書いてんだろ?


 フラグで立ててごめんね?


 「お、俺はコレ。“娘たちに彼氏ができませんように”」

 「「「「「....。」」」」」


 いや、目標じゃなくて祈願になってんじゃねーか。


 そういうのは初詣でしろよ。奥さん、娘さんともに無反応だぞ。いつも通り罵ればいいのか、拒絶すればいいのか、あまりにもツッコミどころが多すぎてリアクションに困っているといった様子だ。


 「は、はは。ヤだなぁ。この書初めの真意は娘たちの健康を祈っての目標だよ」


 どこも健康を祈っているようには思えませんが。


 なに、真由美さんに便乗しようとしてんだ。謝れ。


 「じゃあ次よ!」

 「長女いきます!」


 雇い主へ感想を告げる程の優しさは持ち合わせていないようだ。次は巨乳長女、葵である。


 「じゃじゃん! “サークル活動”!」

 「「「「「....。」」」」」


 ....なんか真由美さんを最初に発表させたの間違いじゃなかった?


 雇い主はアウトだけど、葵さんのもなんというか、まぁ、うん。落差がすごいや。


 ちなみに字の綺麗さは母親譲りか、葵さんも中々の腕前である。


 「大学行ってサークル活動あるじゃない? 思いっきり楽しみたいなって!」

 「ヤリサーだったらどうするんですか!!」


 「う、うーん、貞操観念は大切にしたいかな」

 「家業を手伝ってください! サークルなんかバイトで来ている自分が許しません!」

 「か、和馬君って痛いとこ突いてくるよね」


 ったりめーだろ。ヤリサーだったら葵さんの穴が危ないんだぞ。あんた美人なんだから自覚しろよ。


 「ま、まぁ、大学行ったらの話よぉ」

 「じゃあ次は私ね!」


 おっと、ここまで年長者順で来たが、それを無視して陽菜が発表したいと言い出したぞ。


 なんだろう。陽菜は家事が得意だし、気配りもちゃんとできる子だ。そんな末っ子は何を目標にしたのかな。


 陽菜は4枚の半紙を勢いよく俺たちに見せつける。


 「コレ! “今年こそ絶対堕とす”よ!」

 「「「....。」」」

 「「?」」


 いや、ちょ、えっと、うん、もうお前オープンになったな....。


 ナニを、とは聞かないけど、葵さんと真由美さんは察して目が笑っていない笑顔になってるよ。


 ‟堕とす”対象の前でそれ言うとかどんな神経してんだ。


 そんでもって残りの馬鹿親子二人は「何を?」って顔してるが知ったことではない。


 だから陽菜、その可愛らしいウィンクやめろ。ご家族の前でしょうが。


 「え、えーっと、当事者たちだけで頑張ってください」

 「け、敬語やめなさいよ」

 「の、残ったのは二人だけねぇ。どっちにするのかしらぁ」

 「流れ的に中村家全員終わらしてから高橋君でいいんじゃない?」

 「え、なんで地味にプレッシャーかけるんですか」

 「じゃあ私が」


 そう言って千沙は2枚の半紙を使った書初めを俺らに見せてきた。


 「“愛の無事着”!!」


 妹と目標被ってんぞ!!


 いや、まぁ、俺が言えることじゃないけど。どっちも俺にベクトル向いてるじゃないか。


 「「....。」」

 「なんか韓国ドラマみたいな目標ね」

 「そもそも目標なの?」

 「俺よりはマシでしょ」


 千沙の真意を知っているのは俺と真由美さんだけである。上手い感想が言えないのはそれが原因だ。


 千沙も陽菜と同様に俺に向かって可愛らしくウィンクしてくる。ああーくそ。超可愛い。セッ〇スしよ。俺の白い墨汁は無限に出てくるから。


 白い墨汁ってなんだろ。


 「さ、残すとこ兄さんだけですね!」

 「和馬! さっさと見せなさいよ!」


 何を期待しているのかわからないけど、たぶん期待には応えられないよ。


 俺で最後なのだが、少し出し渋ってしまう。


 「あらあら、他所のうちでの書初めに緊張しちゃったのかしらぁ?」

 「高橋君が? はは。そんなタマじゃないでしょ」

 「どうかな? 和馬君って意外と真面目だし」


 ふむ。果たして俺の書初めは他所のうちで発表していいものなのだろうか。


 ここにきて若干の抵抗がある。


 書き直しちゃ駄目かな。軽い気持ちとマジな気持ちのハイブリッド書初めになったんだけど、見せる勇気が出ないや。


 「そんなに見たいですか?」

 「「「「「見たい」」」」」 

 「じゃあ....」


 うん。“見たい”と言われたら見せるしかないな。だから俺に非は無い。


 「自分はコレです」


 散々出し渋った俺は、面白いくらい興味津々になった皆に1枚の半紙を見せつけた。自分で言うのもなんだけど、結構綺麗に書けた気がする。


 「“卒業”」

 「「「「「....。」」」」」


 文句あんならなんか言えよ。


 「よ、よく胸張って見せてくるよね、和馬君」

 「ど、どんな神経してんですか」

 「そ、そうね。あ、書き直していいなら私、‟入学”にしたい!」

 「高校の話?」

 「馬鹿あなたは黙ってなさい」

 「....。」


 せめてツッコんでほしかった。高校2年生になるのに「なんで卒業?」って。


 でも、わざわざ口にしなくても意味が伝わってしまうのがここ、中村家である。


 嬉しいのか悲しいのかわからなくなったバイト野郎であった。



―――――――――――――――



 ども! おてんと です。


 予想できましたか?


 皆さんの今年の目標はなんでしょうか?


 ちなみに私は書初めというか、今年の目標を‟お酒を控えめにする”にしました。


 それでは、ハブ ア ナイス デー! プシッ!

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