第242話 唾液で消毒できても鎮静はできない
「はぁ。農家の仕事らしからぬ仕事してるよ俺....」
天気は曇り。この時期は日が出ていないと本当に寒い。外で仕事していると足先とか寒さで段々痛みが湧いてくるし、もうちょっと寒さ対策をした方がいいのかもしれない。
直売店で真由美さん達は忙しいので、バイト野郎の今日のお仕事は一人で作業することになった。
「マジ卍るぅー」
内容はある畑の周辺にある雑木の伐採。長い間碌に管理されず、枝が伸びに伸びて大変なことになったのだ。その枝を切ることと、可能ならチェーンソーで根元から切れとのこと。
バイトで来る子にチェーンソー使わせるなよ。つーか、使い方知らねーし。
「ほんっとあの人は物だけ置いて説明しないで俺を放置するよなぁ」
当然、こんな馬鹿げたことをやらせるのは雇い主である。
枝を太枝切り
もちろん使い方わかんないから聞いた。それに対してなんて返ってきたと思う?
『説明している時間無いから手短に言うよ! 映画とかで出てくるジェイソンのイメージ通りだからそんな感じ!』
とか言って、説明になっていない投げやりの言葉を最後に早々に帰ってしまったのだ。これにはさすがのバイト野郎も笑えない。
雇い主が俺を迎えに来たらあの人を対象にチェーンソーをぶん回そう。今日は俺が耕す番である。
「はあ。俺がもっと役に立っていれば直売店の仕事手伝えるのかな。こんな雑用させられるってことはまだ力不足ってことだろ」
悪態と独り言を続けるバイト野郎。畑だから周囲に人なんか来ないし、もういっそ歌でも歌おうか迷っている。だってすごい単純作業なんだもん。枝切るだけ。
細い枝なら枝切り鋏で。太かったら鋸で。木の周囲はチェーンソーで。
「いや、チェーンソーは使えないか」
とりあえず、枝をどんどん切っていこう。仕事量的に絶対一日じゃ終わらないからペースを上げて切っていかなきゃ。
*****
『ザシュッ!』
「あああああああ!!」
作業中に考え事でもしていたからか、鋸で左手の中指を切ってしまった。ザシュだって。中々聞かない擬音語だよ。
中指からはどくどくと綺麗な赤色の血が出てくる。うっわ。盛大に切ったなぁ。
「いってぇー」
そう言えば以前も竹藪の中で竹を切っているときに指を切っちゃったっけ。今回も結構勢いがあったから手袋してても刃が貫通しちゃったよ。
「仕方ない。こういうバイトなんだからそういうこともある」
俺の不注意だしね。しかし鋸の構造も怪我した原因である。
鋸で竹か木なんかを切るときは引くときに力を入れる。細かい刃が
「はぁ。良いこと無いなぁ」
この頃良いことが本当にない。クリスマスで卒業できてたらきっとこのモノクロの視界ももっと色鮮やかなものになっただろう。あの三姉妹マジで許せねぇ。
「.....。」
こんなバイト生活があと3か月、陽菜と葵さんの受験が終われば、また一緒に楽しく仕事できんだ。冬休みの住み込みバイト序盤でこんな弱気になってどうする。
「おっしゃ、お茶で指洗ってから作業再開だ!」
*****
「和馬君、お疲れ様」
「あ、お疲れ様です」
現在、バイト野郎は中村家の中庭にて私服姿の葵さんと遭遇した。もう今日の仕事は終わり、後は余暇を過ごして今日という日を終えるだけだ。
葵さんは東の家にでも用があったのか、帰宅して入浴しようとした俺と一緒に東の家に向かった。
「今日も寒かったね」
「ええ。大切な時期なんですから風邪ひかないでくださいよ」
「うん。和馬君が家業を手伝ってくれるから心置き無く自分のことに集中できるよ」
「はは。そう言っていただけると嬉しいですね」
「あ、お風呂はさっき千沙が湧かしてたよ。ごゆっくりどうぞ」
「仕方ないですね。そこまで言うなら葵さんと一緒に入ってあげますよ」
「会話が1ミリも成り立ってないんだけど!!」
珍しいこともあるもんだ。あの千沙が他人のためにお風呂を沸かすとは。もしかしてソーププレイか? それなら、わくわくぼきぼきで期待してしまう。
そんな会話をしながらバイト野郎と葵さんは東の家の中に入った。
「そう言えばなぜこちらの家に?」
「ああ、千沙を起こしにね。そろそろ晩御飯の時間だから」
「なるほど」
うちの可愛い妹は昼寝と称して4、5時間という長時間の睡眠を決め込むからな。
「私も聞きたいことあるんだけど」
「?」
「なんで左手をさっきからポケットに入れてるの?」
おっと。普段ポケットに手を突っ込んでいる系男子じゃないから変に思われたぞ。
寒いからですよ、ではない。さっき蛇口で傷口を洗ったら
「ちんポジ調整ですよ」
「嫌悪するべきなのに、なんかもう和馬君のセクハラは聞き慣れて感覚が麻痺してきた。『あっそ』って感じ」
「葵さんも握ります?」
「だからってセクハラを続けないでよ」
そんな嫌悪感丸出しな声と呆れ顔で葵さんは千沙の部屋がある二階へと向かっていった。
俺も夕飯の時間が迫っているため、早々に浴室へ足を運んだ。
「いやぁ、帰ってすぐに風呂に入れるとか最高かよ」
でも怪我した中指は沁みるだろうなー。
俺は脱衣所で作業着を脱いでいる。これから誰得のバイト野郎の入浴タイムだ。謎の光とかで俺の乳首や陰部が隠されるだろう。
『ガラガラガラガラ』
「和馬、失礼するわよ!」
「開ける前に言わんかい」
そんなことを考えていたらノックも無しにポニ娘こと陽菜が脱衣所に入ってきた。ポニ娘の手には俺が昨日出した作業着と思しき衣服一式があった。
「はいこれ。あんたの作業着」
「いつもありがと。でも、今じゃなくてもいいよね」
「いいじゃない別に。減るもんじゃないし」
陽菜は上半身が露になった俺を見てそう言った。葵さんと違って別に興奮する訳でも無い。いつも通り落ち着いている様子である。
さすが経験者。男の身体は見慣れたってか。
受け取った衣服は崩すのが勿体ないと思えるくらい綺麗に畳まれていた。本当にいつも感謝の気持ちしかない。
「っておい、人の使用済み作業着に顔を
「はぁはぁ.....いいじゃない別に.....はぁはぁ、減るもんじゃないし」
「.....。」
いや、お前の奇行のせいでさっきのありがたみも好感度も減ったよ?
陽菜って匂いフェチなのかね。男の子なら女の子の下着とか無性に嗅ぎたくなる気持ちはわかるけど、果たして逆の場合でもそれは同じだろうか。
でも本人の目の前でコレって.....。
「あら? あんた指怪我してるじゃない」
「え」
さっきまで顔全体を埋めていた陽菜は、今度は目だけひょこっと出してバイト野郎の怪我した箇所を指摘した。スメルは続行らしい。
血はもう止まって、また瘡蓋と化してきている傷口である。お風呂に入って綺麗にしてから絆創膏でもしようかと思っていたのだ。
よ、よくわかったな.....。
「あ、ああ。まぁ、鋸でちょっとな」
「ふーん? 怪我なんて珍しいわね」
「って、何してんの?」
そして陽菜は俺の前で膝を突いて、俺の左手を両手で掴んできた。
「あーむ」
「っ?!」
俺は目の前の光景を疑ってしまった。
「ん。れろ、んちゅ.....はぁはぁ。んむぅ」
瑞々しい音がバイト野郎の中指と陽菜の口の間で生まれる。
そして中指から口を離した陽菜が、糸を引きながら上目遣いで俺を見てくる。
「お、お、おおおおまっ」
「なにって、‟消毒”よ?」
消毒って!
陽菜を見れば頬は赤く、自分からしたことなのにどこか照れた様子だ。
同時に興奮した表情で、また俺の左手を掴んで中指をしゃぶろうとした。
「な訳あるか!」
「ちょ!」
でもこれ以上は看過できない。バイト野郎は左手を強引に引っ込めた。
「お、お前こういうのやめろよ」
「なんで?」
「いや、なんでって.....」
「消毒のためよ? むしろお礼してほしいのだけれど」
ありがとうございます、ありがとうございます。
異性からの指舐めが初体験ですっごくどきどきしました。でもお礼は口にしません。言ったら調子乗るからね。
未だ中腰のまま、陽菜は今度は俺の息子をガン見である。
「あはっ。もしかして勃っちゃった?」
「っ?!」
「こっちも消毒した方がいいのかしらぁ」
「こ、こら! ズボンを下ろそうとするな!」
勝手に人のズボンを脱がそうとする貧乳JCと、下げさせまいと必死に抵抗するバイト野郎。なんだ、こいつ。全体重使って下げようとしてくるじゃん。
「なんで抵抗するのよ?!」
「するに決まってんだろ! この変態!」
「へんッ?! あんたに言われたくないわよ!」
「じゃあ手を離せ!」
「イヤ!」
「こ、こんなことしてたら夕飯に間に合わなくなるだろ!」
「私はこっち食べたい!」
「下ネタじゃねーか!」
そんなこんなで事が落ち着くのはもうしばらく後のことである。
神様、前言撤回します。「良いこと無いなぁ」を撤回させていただきます。JCに中指しゃぶられるとかもう性犯罪ですよ。ぐへへ。
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