第229話 キョウダイ下暗し

 「お、お兄ちゃん、もう寝ちゃいましたか?」

 「千沙? いや、まだ起きてるよ」

 「一緒に寝ませんか?」

 「.....。」


 高橋和馬、16歳。今晩で卒業しそうです。ナニをとは言いませんが。



*****



 「お、おま、さすがにそれは駄目だよ」

 「なんでですか? さっきチューしたじゃないですか」

 「そ、それとこれは別だよ」


 お前、中身戻ってんじゃん。JK千沙ちゃんじゃん。


 現在22時頃、東の家の一室を使わせてもらっている俺は一人の時間を過ごしていたが、そこへパジャマ姿の千沙が入ってきた。両手は枕を抱えている。


 曰く、一緒に寝たいのだと。


 「きょ、兄妹が一緒に寝ることは普通です」

 「前にも言ったろ? 本当の兄妹じゃないんだ」

 「血は関係無いです!」

 「あるよ!」


 無かったらセックスの時間と化すよ?!


 目の前に居る千沙はまだ自分の記憶が戻ったことを隠している。俺にはバレバレだが、なんでかこうして続けようと必死になっているのだ。


 そんな千沙が夜遅くに俺のとこへ来たらもう夜這いだよ。


 「というか、真由美さんたちはどうしたんだよ」

 「自室で寝ると言って最初は南のあっちに居ましたが、バレないようにこっちに来ました」

 「.....。」


 ねぇ、それバレたら俺首ちょんぱされない? 雇い主にさ。


 千沙、もうわかったから。お前、口ではなんだかんだ言ってるけど実はお兄ちゃんが好きなんだろ。絶対そうだろ。


 じゃなきゃキスも夜這いもしないよな。今確信しました。ありがとうございます。


 「一緒に寝るって.....お前、夜更かししてまで遊びたいってことか?」


 自分で言ってて嫌になる。そんな訳ないじゃん。お遊びなんかでここまで来ねーよ。


 ただの確認だよ。男女が夜を共に過ごすってそういうことだから。


 「.........はい」


 ほらぁぁあああああ! なに今の間?! 絶対遊びじゃないよぉぉおおお!


 え、待って待って。マジで? いきなり過ぎない?


 あ、いやコレは状況的に俺が不利だ。


 「え、えーっと、とりあえず座れよ」


 だって千沙は今、JS千沙ちゃんなんだから、一緒に寝るってそのまんまの意味の行動しか移せない。性的な行動を取ったらバレてしまうからな。本当に添い寝だけってことだ。


 これがお互い高校生なら一線を優に超えることができるが、現状、性知識に長けているのは高校生である俺だけという設定じゃないか。


 そしたら俺から誘うしかないぞ。童貞から誘うしかないぞ。


 童貞からッ!!


 「ふ、布団が無いな。どうしよう」

 「お、お兄ちゃんの布団でいいです」

 「.....。」


 こいつせこくない?! JK隠してJSでやりきろうとしているよ。無知でやり過ごそうとしているよ。


 じゃあ本当に添い寝だけで良いってか?


 んな訳ねーだろ! 童貞なめんな! 一秒でも早く卒業したいのが童貞なんだよ!


 故に神が与えてくれたまたとないチャンスなんだ。


 「じゃ、じゃあ俺は見張りでもしているよ」

 「....私はお兄ちゃんと寝たいって言いました」

 「.....。」


 くそう! つうか一人称戻ってんぞ! やるならやるでちゃんと演じきれよ!


 マジか。キスまでしてくれるのはある程度の好感度故って思ったけど、同衾はもう確信犯だよ。


 「あ、おい」

 「ち、千沙は22時には寝るのでもう寝かしてもらいます」


 千沙はそう言って俺の布団に勝手に寝っ転がった。


 ちょ、記憶戻ったんだから22時で寝るようなJKじゃないだろ。日付変わって3時に寝るJKだろ。


 「.....寝ないんですか?」

 「寝れる訳ないだろ!」

 「じゃあ寝なかったら何をするんですか?」

 「っ?!」

 「親にチクりますか? それとも........」


 千沙の言葉は続かない。でもその続きはわかる。だって思春期だもん。


 「はぁ。馬鹿らしい。バレたらどうなるかくらい、小学生のお前でもわかんだろ」

 「........さぁ」

 「さぁって。お前なぁ」

 「わた―――千沙はお兄ちゃんと寝られればそれでいいです」


 だからそれどっちの意味だよぉおぉぉぉおおお!!


 「くそ。じゃあもういい。寝るだけなら隣で寝てやる」

 「はい」


 俺は千沙と一緒に同じ布団に寝っ転がった。



*****



 「「......。」」


 千沙はわかんないけど、俺は背を向けてずっと目を瞑ったままだ。寝たフリとも言う。


 すごいな。千沙と一緒に寝てから30分が経ったけど俺たち、まだ何もしていないぞ。本当にお互い思春期真っ最中の高校生かって疑っちゃうくらい。


 俺、いいのかな。襲っていいのかな。


 もう童貞じゃわっかんねーよ。


 「「..............。」」


 それにこいつ、添い寝とか言っておいて地味に布団の真ん中陣取ってるし。おかげで俺の身体半分布団から出てるよ。さみーよ。


 「起きてますか?」

 「....。」


 ちょっと心の準備ができてないから無視ろう。


 .....こいつ、まだ心はJSのつもりなのかな。このまま隠すつもりなら俺やっぱ襲わないでいよう。


 JSなら許されるだろうって思い込んでいる今の千沙を赦せない。


 「なんですか、妹置いて寝ちゃったんですか」

 「........。」


 言い訳ついでに言えば、今朝の会長との会話だろうか。


 お互い未経験という条件は別にいい。でも、お互いの気持ちを考えるという面では.....あまりにも一方的じゃないか。


 「はぁ。こんな状況じゃ寝れませんよ」

 「.............。」


 男の子だからリードしたい。女の子を満足させたい。きっとその方が格好いいのだろう。


 だけどその前に俺も経験したこと無いんだ。だから............何が正しいのかわからない。男だからって、メンタル強いと思うなよ。


 「お兄ちゃん、本当は起きてますよね? 狸寝入りですよね?」

 「...................。」


 千沙を無視して、変に葛藤して、何がしたいんだ俺は。最初にもっと強く言って追い返せば良かった。


 これじゃあ―――


 「.......意気地無し」

 「っ?!」

 「とんだヘタレじゃないですか。クソ童貞」


 かっちーん。


 「てめぇこらッ! 人が黙ってりゃあ言いたい放題言いやがって!!」

 「きゃッ! 本当に起きてたんですか?!」


 「起きてるよ! ずっと起きてるよ! 息子も起きてるよ!!」

 「ひぃッ!」


 「俺がどれだけ葛藤したと思ってんだ?! それなのに千沙も息子も横になってからずっと元気でいやがってよぉ!」

 「む、息子は知りませんよ」


 俺はブチギレて千沙に怒鳴りつけた。我慢の限界だったらしい。


 お互い布団の上に立って言い合いが炸裂する。


 Fightファイッ


 「千沙! お前ここに来た意味わかってんのか?! 一緒に寝たいって意味わかってんのか?!」

 「わた―――ち、千沙は何も知りません」


 「とぼけんのもいい加減にしろよ! 記憶戻ってんのもバレバレなんだよ!」

 「っ?!」


 「それなのに知らんふりして襲われようとしやがって! ねぇなんなの?! 襲われたいの?! この変態がッ!」

 「変態?! に、兄さんに言われたくないですよ!!」


 「ほら! “お兄ちゃん”呼びもいつもみたいに“兄さん”に戻ってんぞ!」

 「わ、私だって慣れてないのに―――」

 「一人称も戻ってんぞ! なめてんのか?!」


 すげーな。めっちゃ怒鳴りつけているのに空気が読めない息子はヤりたくてヤりたくてギンギンだ。


 あ、そうだ。


 俺は千沙の手を握って俺のイチモツにタッチさせた。


 「にゃあッ?!! なっなななななにを?!」

 「ち〇ぽだッ! コレがお前を犯す肉棒なんだよ!! ちゃんと確かめろ!」

 「こ、こんなおっきいモノ―――」

 「ソレをメスにねじ込むのがセックスなんだよ!! オラァ!!」

 「きゃっ?!」


 俺は勢いに任せてそのまま千沙を布団に向かって倒した。


 そしてそのまま俺は下半身に穿いている全ての衣服を脱ぎ捨てた。


 「なっななな!! ソレおおおおちおおちおちおち」

 「ち〇ぽだよ! 崇めッ!」


 当然、ギンギンおち〇ぽも露出する。


 千沙は両手を顔に当てて見ないようにしているみたいだが、指の隙間からガン見である。


 「画面越しAVでいつも見てんだろ! コレが生だ!」

 「ひぃッ?!」


 「スリープorセックス?」

 「機内食のビーフorチキンみたいに言わないでください!!」


 「おら! さっさとてめぇも服脱げ!」

 「わっわわ私が悪かったんですね! わかりましたから一旦納めてください!」


 「お! いいんだな?! じゃあさっそく挿入れさせてもらうわ!」

 「ちょ! そっちじゃないですよ!! ズボンです! パンツです! 私のじゃないです!!」


 「ふざけんな! 何しに来たんだてめぇは!」

 「わ、私は―――」


 「シに来たんだろ?!」

 「っ?! で、でもまずはハグしたりキスしたりごにょごにょ.....」


 「安心しろ! 手マンもクンニもするから!」

 「順序ってもんがあるでしょう?!!」


 引き気味だった千沙もこれには激怒し、下半身露出野郎の息子に怒鳴りつける。俺の目を見て言わんかい。


 え、前戯じゃ駄目なのか?


 「ま、待ってくれ。じゃあフェラした後、キスするのか」

 「キスが先ですよ?! 大体ですね―――」


 「か、和馬君、騒がしいけど、どうしたの?」


 「「っ?!」」


 不意に部屋の向こうから葵さんの声が聞こえた。


 マジか。なんで居んの。


 「あ、葵さん?! どうしたんですか?!」

 「いやこっちのセリフだよ?! 自室の窓開けたらここが騒がしかったから来たの!」

 「な、なるほど」

 「開けるよ?!」

 「え」


 0.01ミリ―――じゃなくて秒だ、秒。ゴムは関係無い。この間、高橋和馬は思考を研ぎ澄ませ、一瞬で行動に移した。


 「きゃっ?!」

 「静かにしてろ!」


 まずは千沙に掛け布団を被して隠した。そして自身のスマホをパンツより先に片手に持った。ティッシュもスタンバイOKだ。


 そして戸が勢いよく開けられた方向に尻を向ける。もちろん息子は見せない。


 「っ?!」

 「か、勝手に開けないでくださいよ!!」

 「な、ななんで穿いてないの?!」

 「そういうタイミングだったんです!! 早く出て行ってください!」

 「ご、ごめんなさい!!」


 そう言って葵さんは勢いよく出て行った。ふぅ、助かったぜ。

 

 部屋に入ったら下半身丸出しの男が片手にスマホ、近場にティッシュがあれば自家発電の最中を疑うしかあるまい。


 丸出しのこちらに非はあるのか。否、断じてそんなことはない。あちらのマナー違反だろう。


 和馬はオナバレを有効活用し、千沙との未セックスバレを回避したのだ。


 ......なんだ、“未セックスバレ”って。まぁ、シしてないもんな。


 「はぁ。おい、千沙」

 「は、はい」


 「もう帰れ」

 「わ、わかりました」


 「おやすみ」

 「.....おやすみなさい」


 とてもじゃないが、続きなんかできる雰囲気ではないだろう。千沙も特に反論することなく出て行った。


 「.....。」


 独り悲しく部屋に残された俺は、息子を慰めるため今日もスマホを片手に自家発電に励む。


 「くそぅくそぅ.....ぐすん」


 神様、いつになったら卒業できますか?

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