第221話 ニート化しつつあるバイト野郎

 「じゃあ今日はもう帰りますね」

 「ええ。気を付けてね」

 「また来週よろしく、高橋君」


 天気は晴れ。と言っても、日曜日である今日はあと残すとこ5時間ちょいである。


 もうとっくに日は暮れて、中村家で晩御飯を頂いたバイト野郎は特にすることがないので帰宅するという流れだ。


 そんなバイト野郎を見送ろうと南の家の玄関で全員集合である。


 「え、お兄ちゃん帰っちゃうんですか?!」

 「そりゃあ和馬君は中村家じゃないからね」

 「近い将来、もしかしたら中村家の者になるかもしれませんけど」

 「おい、高橋ぃ。婿として受け入れる訳ないだろうが」


 まったく。冗談の通じないお義父さんだ。葵さんとか千沙とか一人くらい良いじゃんね。


 すぐ孫の顔見せっから寄越せ。ぐへへ。


 「あら、和馬。それは良い加減認める気になったってことかしら?」

 「じょ、冗談だよ。あはは」

 「ふふ」


 目が笑ってないぞ。目からハイライト消えてんぞ。怖ぇーよ。


 ああ、それと陽菜、俺はわかったんだ。先日、桃花ちゃんと葵さんのおっぱい揉んで悟った。


 巨乳最高だわ、と。


 貧乳はすっこんでろ。


 「なに勝手に帰ろうとしているんですか?! 千沙は許可してませんよ!!」

 「「「「「え」」」」」


 まさかロリっ子千沙ちゃんから待ったがかかるとは。聞き分けの良い子だと思ってたのに。


 なんか段々、JK千沙ちゃんみたいに我儘言うようになってきた気がする。


 平たく言うと、自己中娘である。


 「ち、千沙、今日はたくさん泣き虫さんと遊んだじゃない」

 「まだ足りません!」


 今日は一日中遊んだな。晴れていたから少しだけ外へ遊びに出かけたな。


 その際、千沙がかけっこしたいと言ったので付き合ったが、中身は小学生でも身体は筋力0ボディなのでそう長く続かない。開始10分で酸欠とは恐れ入ったわ。


 「こら! 我儘言うんじゃない! お父さんが黙ってないぞ!」

 「パパなんて大っ嫌いです! お兄ちゃんと交換してください!」

 「ゴフッ!」


 雇い主に癒えない傷がクリティカルヒットした。なぜか物理的なダメージじゃなくても吐血してしまった雇い主である。


 「お、お姉ちゃんと遊ぼ?」

 「私も居るわ」

 「“じゅけんせい”でしょう?! 遊びに付きあわせる千沙の身にもなってください」

 「「......。」」


 じゃあ、我慢しろよ。我儘言うな。


 「千沙、お兄ちゃん、明日学校なんだ」

 「ここから通えばいいじゃないですか!」


 バイト無しで平日まで中村家に入り浸っていたらただの寄生虫じゃないだろうか。


 ちなみに千沙は現状、高校の方はお休みするとのこと。そりゃあそうだ。記憶が無いのに通わせるなんて危ないもんね。


 「いやそれはちょっと.....」

 「聞けばうちから歩いて10分くらいの所に住んでいるんですよね?!」

 「まぁそうだけど」

 「なら10分早く起きればいいじゃないですか!」

 「え、ええー」


 なんてとんでもないこと言い出すんだこの子は。


 兄べったりやん。2日でもうどっぷり兄依存症やん。


 俺の魅力怖ッ。


 「千沙、いい加減にしなさいな。泣き虫さんだって学生の身なんだから千沙ばかりに構っていられないのよぉ」

 「うぅ」

 「学校の支度だってあるし、あまりここばかり居ては私生活に響くわぁ」

 「ぐ、ぐるるるる」


 野犬か。なんだその威嚇。くっそ可愛いな。


 「また遊びに来るから。ね?」

 「それはいつですか? 何時何分地球が何回ったらの話ですか?」

 「......。」


 小学生か。いや、小学生だったな。


 「千沙、いい加減に―――」

 「たくさん譲歩がまんしたじゃないですか!」

 「っ?!」

 「一緒にお風呂に入ることも我慢しましたし、添い寝も我慢しました! まだ千沙に我慢を強いるんですか?!」

 「......。」


 そりゃあお前、身体はJKじゃん。どっちもアウトに決まってんじゃん。


 男子高校生が狼さんになっちゃうよ。性的な意味で。


 「か、和馬君、いくら千沙に記憶が無いからって利用するなんて.....」

 「さ、最低ね」

 「ち、違いますよ?! 自分が誘って千沙が我慢したとかじゃないですから! 全部千沙が言い出したことですから!」


 盛大に誤解されとる! 盛大に誤解されとる!!


 「千沙だって、こんな我儘言いたくないですよ。でも.....」

 「「「「「?」」」」」


 「でも本来の千沙が記憶を取り戻したら.......今の千沙は消えるんじゃないですか?」

 「「「「「っ?!」」」」」


 えっ?! 記憶喪失ってその線もあり得るの?!


 取り戻したらやったーじゃないの?


 「千沙は消えたくないです。でも、千沙が消えることが正しいことなら従うしかありません.....」

 「「「「「......。」」」」」


 「千沙は......千沙は所詮、ですから」

 「「「「「千沙ッ!!」」」」」


 さすがに小学生に暗い表情でこんなこと言われたら黙っていられない。俺を含む全員が千沙に抱き着く。


 「そんなことないよ! 千沙は消えたりしないから!」

 「ええ! いつまでも私たちの家族よ!」

 「何が正しいかなんて言わないで! どっちもちゃんと千沙姉よ!」

 「陽菜の言う通りだ。どっちもかけがえのない大切な娘だ!」

 「お兄ちゃんが悪かった! お兄ちゃんが悪かったぁぁぁああ!!」


 なんてこった。JK千沙ちゃんの記憶を取り戻したら今度はJS千沙ちゃんを失うっていうのか。苦渋の決断じゃないか。


 怖ッ。いつの間にか人格の問題になっちゃったよ。


 でもどっちも俺にとっては可愛い千沙なんだ。自然に記憶が戻っても兄として愛し続けることに変わりない。


 「ってことでお兄ちゃん、帰りませんよね?」

 「和馬君、千沙に残された時間がわからないからできるだけ一緒に居てあげて」

 「和馬、他に選択肢は無いわ」

 「......。」


 バイト野郎、明日学校なのに今晩も中村家で泊まることになってしまった。



*****



 『ピロン♪』

 「ん? 桃花ちゃんからだ」

 「誰ですか?」

 「友達」


 不意に俺のスマホが鳴ったと思ったら、桃花ちゃんからメッセージが届いてた。


 ちなみに今はリビングで千沙とテレビを視て過ごしている。3人用ソファーでは俺と千沙がそれを両隣となって独占中だ。


 ここに真由美さんたちが居なかったらきっと午前中みたいに俺の股ら辺に割り込んで、俺の太ももをひじ掛けにでもしただろう。距離が近くてマジ発狂しそうだったわ。


 [猫飼うことになった!]


 「へー」


 俺は[ペットショップで?それとも野良猫?]と送った。すぐ返信したからか、あっちも即返してきた。


 「あ、野良猫か。猫好きなのかな?」

 「ちょっとテレビ視てるんですよ! 集中してください!」

 「え、あ、うん」


 千沙が膨れっ面で睨んでくる。ああー可愛い。ほんとなんなのこの生き物。


 つうか、テレビを視るのに集中って。


 俺は桃花ちゃんに返信しながら千沙に対応する。


 「ふふ。本当にべったり甘えるようになったわねぇ」

 「まったくだ。たった二日だって言うのに」


 真由美さんと雇い主がそんな俺たちを見て呆れ顔である。速攻で兄依存だもんな。


 「千沙は猫や犬は好きなの?」

 「犬は大好きです。猫は無愛想なので面白くないです」

 「はは。偏見だよ」

 「餌をチラつかせない限り寄ってこないじゃないですか」

 「まぁ、猫は気分屋だからね」


 JK千沙ちゃんもまさしくそれだよ。


 「さすがにうちでは飼えないけど、もし飼えるなら犬が良い?」


 雇い主がそんなしょうもない質問を千沙に聞いた。


 「お兄ちゃんがいいです!」

 「「「......。」」」

 「お兄ちゃんを飼い慣らしたいです!」


 ......お兄ちゃんはペットじゃないよ。


 純粋なまなこでそんなこと言われたらさすがに絶句してしまう。俺は真由美さんたちに目を遣った。


 そこには今晩俺を泊めるということに対して後悔するような顔つきをしていた。俺の意思じゃないのにね。


 『ピロン♪』

 [お兄さんは何飼いたいの?]


 横に居る千沙も俺のスマホの画面を見ている。兄がこれに対してどんな返信をするのか気になったみたいだ。


 「い、妹は駄目ですよ?」

 「......。」


 いやしねーよ。お前と一緒にすんな。


 つうか兄を飼い慣らしたいとか言ってたくせに、妹は駄目なんだな。ご都合主義め。


 俺は桃花ちゃんにテキトーなメッセージを打って返した。


 「お、お兄ちゃんは豚さんが好きなんですか?」

 「.....まぁね」

 「「?」」


 ロリっ子千沙ちゃんにはまだ18禁ワードは早かったらしい。



―――――――――――――――



ども! おてんと です。


これから小説内で時間を置くとき(場面が変わるとき)、今まで改行をたくさん用いてきましたがなんか格好悪いので、これらからは「*****」と肛門マークで統一しようかと思います。許してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る