第213話 桃花の視点 ヤリ〇ンJC(仮)

 「そ、そのまんまの意味です.......」

 「「え」」


 どうしてこんなこと言ったんだろう。


 私に誤解を解かせようとしたお兄さんの顔に腹を立てたのだろうか。


 「え、マジ?」

 「マジか」


 お兄さんとイケメンさんが驚いてる。


 それもそのはず、JCの口からアフピレベルのエッチしましたって宣言したからね。


 「おい、和馬。これはどういうことだ」

 「お、俺?」

 「当事者おまえだろ!!」


 今日はヤバい。今まではお兄さん以外に、智子さんと、その人の夫である虎次郎さんは理解のある人だからそこまで大事にはならなかったから良かった。


 でも今回は完全にそのお兄さんの身内じゃない。一般人である。


 しかもイケメン。


 「桃花ちゃん、冗談は止して?」

 「は? 何が?」

 「いや、何がじゃなくて。ただの悪戯だって言えば済む話じゃん」

 「悪戯って何?」


 横に居るお兄さんがなんか言ってきた。


 もちろんそんなことはわかってる。でも、叫んどいて言いうのもなんだけど、アレは流石に度を越している気がする。


 あんなことが毎回だなんて思われたら頭おかしい子って思われちゃう。


 「お、おまっ。まだそんな嘘を―――」

 「嘘じゃないもん」


 「なに馬鹿なこと―――」

 「嘘じゃないもん」


 「いや―――」

 「嘘じゃないもん」


 言わせない。真実なんて言わせない。


 私がここまで断固として嘘既成事実を貫くには訳がある。


 このイケメンさんのせいだ。


 「もしかして二人は付き合ってんの?」

 「はは。笑えない冗談ですね」

 「笑えないくらい即答ですね」


 このイケメンさんはお兄さんと比べてオーラが全然違う。交際経験はあるのだろうか、なんて聞くまでもない。


 絶対、だ。


 「おい、いい加減にしろ。俺は桃花ちゃんとは―――」


 と、お兄さんが言いかけたので私はイケメンさんに聞こえないように、お兄さんに向かって囁いた。


 「黙ってて。後であげるから」

 「ヤッたな。孕ませる勢いで結構ヤッたわ。中に出しまくったわ」


 黙っててと言ったのにこの切り替えと調子・ライド・オン。


 無論、“良い思いをさせる”というのも嘘である。奉仕するわけないじゃん(笑)。


 後でテキトーに料理でも作って機嫌を直してもらお。


 「え、でも二人共付き合ってないんだよな?」

 「いや、これから関係を―――」

 「身体だけの関係です」


 もし先程叫んだ内容が嘘だとバレてしまったら、この経験豊富なイケメンさんは私とお兄さんの関係に疑問を抱くかもしれない。


 なんで嘘ついたの?とか、もしかして経験無い感じ?とか聞かれたら返答に困る。


 実際、処女である私にそんなことを掘り下げて聞かれたらボロが出てしまう。それもお兄さんの前で。


 「まーじか。俺はお前のこと童貞だって信じてたのに」

 「そんな信頼本人に打ち明けないで?」


 お兄さんにだけは絶対にバレてはいけない。


 だって、今までめっちゃ経験豊富振ったこと言って童貞と罵ってきたもん。未経験でしたほど恥ずかしいものはない。


 「お前、新品だの、童貞だのって言ってたじゃん」

 「お兄さんは童貞って奴です」

 「......。」


 「え、じゃあ、セフレ的な関係?」

 「はい。それ系です」

 「......ご褒美のためご褒美のため」


 お兄さんが必死に我慢している。耐えてね、素人童貞さん。


 「ですので、これ以上はやめてください。恥ずかしいので」

 「あ、うん」


 ここまで言えばさすがに初対面でセフレの関係である私たちに深く聞いてこないだろう。


 後日、お兄さんからアレは嘘だった言われるかもしれないが、最悪、処女だってバレなければそれでいい。


 「んじゃ、今日はもう帰ってくれない?」

 「あ、うん。邪魔だったよね」


 よし。このまま変に会話を続けないうちに帰ろう。おそらく今日のところは“ご褒美の件”もあるからお兄さんは黙っているはず。


 「え、なんで帰る必要あるの? せっかく来たんだからゆっくりしていけばいいじゃん」

 「っ?!」

 「ここ俺んちだぞ」


 「いいじゃん、いいじゃん」

 「い、いえ、私は帰―――」

 『プルプルプル♪』

 「あ、健さんからだ。珍しいな」


 突然誰かの携帯が鳴ったかと思えばお兄さんのスマホの着信音らしい。電話に応答するためお兄さんは席を外して廊下の方へ向かった。


 え、置いてかないでよ。


 「健さんって誰だろうね?」

 「......さぁ?」


 しょうがない。まぁ、バレたくない対象が居なくなっただけでも幾分かマシだね。


 「んで、あいつとどうやって知り合ったん? マッチングアプリ?」


 まさかの続行。さっきやめてって言わなかったっけ?


 「し、知り合いの知り合いです」

 「ああー。和馬は意外と顔広いからな」

 「あの、帰りますね?」

 「えぇー。今日暇なんでしょ? もうちょっと付き合ってよ」


 めんどっ。このイケメンさん、めんどっ。


 「というか、いつも何してんの?」

 「え」

 「まぁ『アフピ』って言ってたからすることしてんだろうけど」


 しょ、初対面なのに普通聞いてくる? 予想外過ぎて素直に『アレは嘘でした』って言った方が良かったのではないだろか。そんな気がしてしょうがない。


 「もしかしてあいつの初めてって君が?」

 「......。」


 ここまできたらしょうがない。変に逃げてバレるのなら、


 「さぁ? 知りません」

 「へぇー。あいつ、絶対童貞だと思ってたんだよねー」


 「そんな感じしますけど、お兄さん、結構激しいのが好みなんですよ」

 「おおー」


 「毎回一箱は使っちゃいますね」

 「タフだなぁ」


 嘘も方便である。


 「くっそ。あいつ、クリスマスに卒業したいって言ってたのに、経験済みなら同じじゃねーか」

 「クリスマス?」

 「ん? ああ、クリスマスは和馬も交えて合コンするんだよ」

 「んなっ?!」


 お兄さん正気?!


 そこまで飢えてたなんて...。いや学生は皆、クリスマスの日には異性と過ごしたいに決まってる。


 「ま、あいつのセフレなら気にすることじゃないだろ。付き合ってないんだし」

 「そ、そうですね」


 まぁ私には関係無いし、別にいっか。


 そんなことを考えていたらイケメンさんが私に近寄ってきた。そして私の肩に手を置いて顔を近づけてくる。


 「でさ、桃花ちゃん、セフレってことは性欲強いってこと?」

 「っ?!」

 「良かったら俺が相手しよっか?」


 これってアレ?! アレだよね!!


 「そ、そんな」

 「あいつとはセフレなんだろ? なら俺とも楽しまない?」


 イケメンだけど! すっごいイケメンだけど、ここでOKしたら私の貞操がッ!


 心の準備がッ。


 ちょ、お兄さん助けて!!


 「い、いやでも―――」

 「いいじゃん。気持ち良くさせる自信ならあいつよりあるぜ―――いてッ?!!」

 「ばっか。お前、桃花ちゃんが困ってるだろ」


 と、いつの間にか電話から戻ってきたお兄さんがイケメンさんの頭をチョップした。


 な、ナイスタイミング。助かったよ。


 「え、照れ隠しじゃなくて?」

 「どこをどう見てそう思うんだよ。なぁ?」

 「う、うん」


 私はお兄さんの問いにこくりと首を縦に振った。


 「ちぇ。JCは羨ましいなぁ、おい」

 「ふっ。悪ぃな。俺のセフレだ」

 「っ?!」


 ひぇぇぇええ!!


 すっごい鳥肌立った。嘘の関係なのに嘘吐いた挙句、平気で私のことセフレ扱いしてきたからすっごい鳥肌立った。


 なにこの童貞!


 「つうか、アフピ代くらい出せよ」

 「あ、うん。そう、だったな。後で―――」

 「駄目だ。俺が居るうちに渡せクズ男」

 「クズ男......」


 可哀想に......。


 お、でも意外とこれは良い流れなのかもしれない。ついでにお兄さんからお金貰えそう。


 「え、えーっと、1万くらい?」

 「......1万5千」

 「こいつっ!」

 「ひ、被害者は私だよ!」

 「チッ。2万出す。覚えてろよ」 


 ここぞとばかりにお金をたかるJC米倉桃花である。


 「なんだ、なんだ。喧嘩すんなよ」

 「そ、そうだな! 悪いな桃花!」

 「っ?!」


 お兄さんは謝ると同時に私の肩に腕を回してきた。


 そして、


 『ぎゅむっ』

 「んっ!」

 「ま、これからも仲良く楽しもうぜ、桃花!」

 「ひゅー。大胆な奴だなぁ」


 私の胸をその片手で揉んできたのだ。イケメンさんの前で。


 強めに揉まれて少し感じてしまったのは秘密である。私は状況的にお兄さんを責めることはできなかった。


 「......てて、...った」

 「「?」」


 「生きてて良かったぁ」 

 「なに感極まってるの(笑)」

 「.......。」


 こんなのに私の人生初の胸タッチをされたのだろうか。


 私は横に居るお兄さんに目をやった。


 彼の眼は「2万がタダなわけねーだろ」と訴えかけている。


 これは2万の代償らしい。


 「は、はは。私体調が優れないから帰るね」 

 「ん? ああ、そうだったの。引き止めてごめんね」

 「次からは気を付けろよ」


 玄関で叫ぶなよ、と言いたいんだろう。私も少し反省する必要があるかもしれない。


 それから私はお兄さんたちに告げた通り、家に帰ることにした。家と言ってもお兄さんちの隣の祖父母の家だけどね。


 「ただいまー」

 「おかえり。まだ夕飯はできてないよ」

 「うん。部屋に居るー」

 「?」


 家に帰ったらおばあちゃんがわざわざ出迎えてくれた。


 いつもなら居間に向かって夕飯ができるまでおじいちゃんと一緒にテレビでも視ながら寛ぐんだけど、今はそんな気分じゃない。


 理由は言わずもがな。


 「はぁ。疲れたぁー」


 私は自室のベッドにぼすんっと身を委ねるように倒れ込んだ。


 「.....。」


 そして自然と私の目から涙がぽろり。


 「うぅ。2万の代償ぉ」


 私は意外と初心なのかもしれない。

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