第212話 勉強会はサ〇ゼで? いや、ヤリ部屋じゃないです

 「和馬! 俺に勉強を教えてくれ!」

 「見返りは?」

 「友人から金取るのかよ?!」


 当然だ。タイムイズマネーという言葉は知ってるかね?


 天気は曇り。今日は木曜日で、先日の西園寺家でバイク練習から4日が経った。12月上旬である今はもう完全に冬である。寒い。


 学校の机をこたつにしたいと思うのは誰もが学生の間に一度は思うことだろう。


 「和馬、そろそろ期末テストだ」

 「ああ、そう言えば」

 「お前、地味に頭良いじゃん? 頼むよ。教えてちょ」

 「まず頼み方から学んで来い」


 そんな寒い季節でも騒がしい友人が一人居る。


 裕二だ。


 今はまだ朝会の前で少ししたら授業が始まる。クラスメイトもちらほら教室に居るくらいで全員ではない。


 「今回も大して勉強しないんだろ?」

 「平日、空いた時間にちょこちょこやってるからね」


 「じゃあ手っ取り早く簡単に教えて」

 「俺はト〇イさんじゃないぞ」


 「ヤバいんだよ。今回赤点取ったら補講で冬休みが減っちまう」

 「裕二君、何事もタダじゃないんだよ? 何も要らずにできるのは呼吸くらいだ」


 俺はこれでもかとくらい裕二に教えることをもったいぶった。


 もちろん、普段の俺ならばこいつの勉強に付き合っている。でもこの時期は違う。タダじゃ駄目だ。


 「ふふ。和馬、セフレを抱くのも無料タダだぜ」

 「...。」


 なんか見返りが大きくてもこいつを手助けしたくないな。抵抗を感じるのが童貞野郎である。


 「はぁ」

 「なんだ。何時に無く恩着せがましいじゃねぇか」

 「ほら、今月の下旬に“性夜の日”があるだろ」

 「“聖夜の日”な」


 そう。俺が裕二に求めているのはセフレの紹介である。それもクリスマスまでにな。


 学生のうちにセフレでもいいから“聖夜”を“性夜”にしたい。童貞を捨てたい。


 「ふぅん? まぁ、俺もクリスマスはその予定だから別に和馬が居てもいいけど」

 「ふっ。9教科のうち何を教えてほしい。平均点は取らせてやる」

 「全部ッ!!」


 全部。........全部かぁ。言っといてなんだけど、骨が折れそうだ。


 でも裕二から良い返事が聞けたんだ。こいつには絶対に赤点を回避させよう。


 「可愛い子が性欲を持て余してるんだ。楽しみだな、和馬」

 「ああ、俺もついに...。やべ、想像したら勃っちまった」

 「やめろ」


 裕二がマジ顔で言ってきた。そりゃあそうだ。周りの人に勘違いされたら困るもんな。


 「しかし、お前。.....良いのか?」

 「?」

 「いや、“初めて”は初心な女の子としたいって処女厨発言してたじゃん」

 「ああー。それなんだけど...」


 俺は裕二に力説した。


 曰く、お互い始めたが望ましいけど、よく考えたらカップルにおいて身体の関係って大切じゃん? 男が下手なら幻滅されるかもしれないじゃん?、と。


 曰く、初めてで緊張して萎えちゃったり、早漏だったら一生の傷になるじゃん?、と。


 曰く、慣らしておきたい、と。


 「難儀だな」

 「同情しないで」

 「まぁ、クリスマスに卒業できるのはロマンチックなんじゃない?」

 「裕二!!」


 やっぱ持つべきものは友人ヤリチンに限る。おこぼれが貰えるもん。


 ただ一つの懸念すべき点はコイツと穴兄弟になるということだ。贅沢言ってられない。ついて行こう。


 「まぁ俺が卒業したのは〇学4年の時だけどな」

 「.....。」


 ちょっと殺意が湧いた。









 「おじゃましまーす」

 「テキトーに寛いで」


 放課後、俺たちは学校付近の近所のサ〇ゼで勉強する予定だったが、なんと同じように考えていた学生が居たらしく、店の中を埋め尽くすほど賑わっていた。


 ということから、空きになるまで時間がかかりそうだったので俺んちで勉強会を開くことになった。


 「いやぁ、お前んちは親とか居なくていいよな。一人暮らしみたなもんじゃん」

 「まぁね。でもそれはそれで寂しいよ」


 と、言ってるが、高校生になってから中村家でバイトを始めたので、千沙や陽菜、桃花ちゃんがちょくちょく遊びに来るからそう思うことは少なくなった。


 「んじゃ、どの科目からする?」

 「そうだなぁ。一番ヤバそうな数学だな」

 「わかっ―――」


 と言いかけた瞬間。


 「お兄さんのクズッ!! アフピ代くらい出してくれてもいいじゃん!」

 「「......。」」


 玄関の方向から半年前から悩みの種である生意気JCの声が聞こえてきた。


 「あ」

 『ピンポーンピンポーン』


 そして申し訳程度に後から鳴らされたインターホン。依然としてうちの中は静かだからそんな音が鳴り響く。


 今更だよ。わざとだと思うけど。


 「.....お前、童貞じゃなかったのかよ」

 「.....ちょっと待ってろ」


 俺は急いで声の聞こえた方へ向かった。


 『ガチャ』

 「おい、バカ野郎。もうほんとバカ」

 「あれ? 今日は怒らないの? お兄さんの焦り顔見たかったのに」

 「お前、そんな理由で今まで叫んでたの?」

 「うん。これじゃあ叫び損だよ」


 “叫び損”ってなに。


 「今、ダチが来てんだ」

 「嘘?!」

 「悪いな」


 言っといてなんだけど、俺全然悪くないよね。


 「うっわ。じゃあさっきのアレ、聞かれてたってこと?」

 「そうだね」

 「すっごいヤバい子みたいじゃん」

 「実際にヤバい子だよ?」


 桃花ちゃんは諦めて引き返そうとしたが、俺は彼女の手を掴んでそれを阻止した。そして容赦なく強引に家の中へ連れ込んだ。


 ここだけ見れば、完全に誘拐犯である。


 「ちょ、なに?!」

 「はは。せっかく来たんだ。上がってけ」

 「え?! 友達居るんでしょ?!」


 俺が桃花ちゃんを強引に連れてきたのは、さっき叫んだ誤解を裕二に解いてほしいからだ。


 現在、ただでさえ学校ではヤリチン騒動で困ってるんだからな。


 「お、戻ってきたか非童貞。って、誰? その可愛い子」

 「っ?!」

 「非童貞って言うな。ちゃんと新品だ」

 「新品(笑)」


 巨乳JC、知り合いのヤリチン竿役とご対面である。


 否、この巨乳JCは援助交際のプロであるからヤリマン女だ。


 故に言い直すとヤリマンJCとヤリチン竿役のご対面とも言える。


 「ちょちょちょ! お兄さん、こっち来て!」

 「え」

 「いいから!」

 「あ、はい」


 俺はヤリマンJCに奥のキッチンの方まで連れてかれた。


 「何あの人?! 超イケメンじゃん! お兄さんと違って!」


 俺と違って.....。地味にオールタイム傷つけてくるよな。


 「あ、ああ、うん。イケメンだよね」

 「イケメンが居るなら先に言ってよ!」

 「いや、来るならお前が先に言えよ」

 「私のはサプライズだからね!」


 あ、そう。反省の“は”の字もないな。


 桃花ちゃんの顔は真っ赤だ。しかしここに居ても裕二に申し訳ないので俺たちはキッチンを後にした。


 「あ、戻ってきたか。忙しいな。もしかして先約?」

 「いーや。コイツ、ちょっと頭おかしいから気にし―――なっ?!」

 「?」


 桃花ちゃんが俺の片足を踵でグリグリと踏んできた。


 その意図は余計なこと言うな、と言わんばかりに。


 「初めまして。山田裕二だ」

 「は、初めまして。隣に住んでいる米倉桃花です」

 「見たとこ君は中学生かな?」

 「はい!」


 さすが、相手がイケメンの時は態度が違うな。顔赤いぞ。


 「で、さっき玄関で言ってたことって?」

 「.......。」

 「ほら、自分の口で説明しろよ」


 見ていて滑稽である。可哀想に。


 もしあの嘘でこの場を貫くなら君は、俺と中〇しセックスをヤったことをイケメンに告白しなければならない。


 誤解を解いたら解いたで、玄関先で発言したアレは頭がおかしいからですと、イケメンにそんな印象を与えてしまう。


 「え、えっとぉ」

 「?」


 どっちに転んでもこのヤリマンJCに罰を与える良い機会だ。


 さぁ、どう出る?


 「そ、そのまんまの意味です.......」

 「「え」」


 マジか。前者かよ。お仕置きセックス確定だぞ。

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