第211話 騒音バイクで配達してええんか

 『ブンブン! ブゥンブゥン! ブゥゥウウン!!』

 「くちゃくちゃ。美咲ぃ、今からコイツで走りいくから後ろ乗れよぉ」

 「次呼び捨てしたら陰毛全部引き千切るから」

 「すみません。ナマ言ってすみません」

 「ガム吐き捨てて? バイト中だよ」

 「噛んでません。ただの演技です」


 天気は晴れ。今日も今日とていつものように西園寺家へバイトしにきた俺は、調子乗ったことを会長に言って怒られてしまった。


 今居る所は近所の人気のない空き地で配達バイクを試乗しているところだ。この場にはバイト野郎とドS会長しかいない。


 俺は一旦エンジンを切る。


 「で、どう?」

 「まぁ、自分も原付バイクを偶に乗ってますから、少し大きいくらいですぐ慣れると思います」

 「それは頼もしい」


 午後の中村家のバイト開始時刻まで午前中はここで働くのだが、そのうちの1時間使ってバイト野郎はバイクの試乗を兼ねて練習しているところだ。


 健さん曰く、事故られても困るからバイトの時間でちょくちょく練習しろ、と。


 ちなみにこのバイクは以前、達也さんから貸してもらったサイドカー付きの125ccバイクである。


 「でもなんで会長が自分に付き添うんです?」

 「あ、またそういうこと言うんだ」


 「いやそうじゃなくて―――」

 「やっぱりバイト君にとって私は邪魔者以外の何者でもないらしい」


 「わーい。会長が居てくれるとなんだか頼もしいや」

 「ふふ。そうだろう、そうだろう」


 面倒くせぇ奴。


 先週、会長が備品倉庫でバイト野郎に逆セクしてからこっちは気が気でしょうがないのにね。


 本音を言えば、しばらく近寄らないでほしい。無意識におっきしちゃいそうだ。


 「まったく......。少しは感謝したらどうだい? 先輩がこうやって運転の仕方を教えてあげているんだから」

 「そういえば会長はなんかしらの運転免許持っているんですか?」

 「いや? 18になったら普通免許は取ろうかと思ってる」


 何も持ってない奴から教わらなきゃいけないの?


 「なに勝手にヘルメット外しているの? ほらちゃんと被ってよ」

 「......。」


 会長にハーフヘルメットを被れと尤もな指摘を受けたが、バイト野郎はコレ被るのに抵抗があってしょうがない。


 以前、達也さんが俺の頭を採寸し、それに合う丈夫なハーフヘルメットを買ってくれたのだが、バイト野郎はコレがどうにも好きになれそうにない。


 なぜか。


 「ぷっ。可愛いね」

 「家に自分のがあるんですけど、自前の使っていいですか?」

 「駄目に決まってるじゃないか。馬鹿にしてる?」


 今も尚、馬鹿にされているのは俺の方だけどね。


 そう。この白色のハーフヘルメット、可愛らしくも天辺に葉っぱに似せた緑色の棒が装飾されているのだ。


 どっからどう見ても野菜の“カブ”のようなハーフヘルメットなのである。


 「これ、風で取れませんかね?」

 「取れたら処す。死守して」

 「......。」


 横暴にも程があるんじゃないだろうか。


 でもそんな心配が要らないほど、腹立つくらい頑丈に葉っぱはヘルメットにくっ付いている。ちょっとやそっとでは取れないだろう。


 「頭にカブをってる......ふっ」

 「あの、そんなに面白いですか?」

 「え、面白くないの?」

 「全然」


 運転者としてはオヤジギャグを素直に面白がるほどの物じゃないです。


 「このヘルメットをデザインしたのは達也さんでしょう? ったく。伊達にバイクに“ヤサイおんじ君”とかアホみたいな名前付けてませんね」

 「デザインしたのはワタシだ」

 「......すごく素敵なヘルメットです。きっと売れますよ」

 「後でお仕置き確定ね」

 「......。」


 くそぅ、くそぅ。


 「もしかしてコレ、手作りですか?」

 「ヘルメット自体は既存の物だよ。そこに穴をあけてその作り物のカブの葉を固定している」

 「さいですか」


 兄が兄なら妹も妹だな。他人が乗るからって遊びやがって。


 「今失礼なこと考えなかった?」

 「はは。まさか」

 「ふぅん?」

 「ぎゃ、逆にどうしてそう思うんです?」

 「ワタシが逆の立場だったらそう思うから」


 自覚あんならこんなもんヘルメットに付けんなよ。


 処すぞ。性的な意味で。


 俺は再びエンジンをかけてアクセルをひねった。


 『ブンブン! ブゥンブゥン! ブゥゥウウン!!』

 「あの、試乗してから思ったんですけど、なんでこんなにうるさいんです?」

 「普通じゃないの?」

 「いやいや。コレ、どう見てもヤンキーのバイクですよ」


 マフラーを見ると、絶対に社外品だろって思えるくらい銀色に輝いていた。


 「ワタシの知るバイクは皆こんなだよ」

 「偏見です。どう見ても所々改造してますよ」

 「バイト君も薄々気づいていると思うけど、アレは昔不良だったから」

 「ああ、それでバイクをイジるのが得意なんですね」

 「たぶんね」


 イジるのが好きなのかもしれないけど、配達用のバイクにこんな騒音要らない。


 ただでさえバイクの横っちょには“ヤサイおんじ君 4号”と、カブみたいなヘルメットで目立つのにさ。


 「こんなにうるさいと悪目立ちしちゃいますよ」

 「そうだね。ワタシからアレに言っておこう」

 「こんな変なヘルメットだと悪目立ちしちゃいますよ」

 「そうだね。反省しない子には後でヘルメットの裏にア〇ンアルフアを塗ったくって被せよう」

 「すみません。頭皮死ぬのでやめてください」


 ア〇ンアルフアは洒落にならん。一生こんなヘルメット被って生きていくことを覚悟しないといけない。


 『ブゥゥゥゥン!』

 「サイドカーがあると倒れないので安心ですね」

 「勢いつけてカーブを曲がってみなよ。サイドカーが浮いて転ぶから」

 「事故しないように気を付けます」


 サイドカーが付いているので停止時や低速レベルなら転倒することは無いだろうが、会長の言った通り、カーブでは速度をつけすぎるとバランスを崩して転んでしまうかもしれない。


 まぁバイトなんだし、焦る必要はない。ゆっくり配達しよう。事故は怖いしな。


 「いやぁー楽しいですね」

 「......。」

 「会長?」

 「...ワタシも乗りたい」

 「え」


 乗るってサイドカーに? まだ何も載せていないから綺麗だけど、そもそも野菜置き場なんだから人が乗るには少し狭い気がする。


 一応座席はあるけど角ばってるし。俺じゃあまず乗れないな。


 「まぁ、頑丈そうですし乗っても平気みたいですね」

 「じゃあ決まりだ」


 「いいんですか? 仕事せずに遊んでて」

 「いいや。これは遊びじゃない。君の運転がちゃんとできているかの監視だよ」


 「物は言いようですね」

 「うん。教官って呼んで」


 “うん”って言っちゃってるし。


 でも会長がいくら女子とは言っても、ここに乗せるのはちょっと抵抗しちゃう。サイドカー付きでも初の運転で人を乗せるのはなぁ。


 「駄目?」

 「うっ」


 会長が上目遣いしてきた。普段のドSさとギャップがあって辛抱たまらん。


 「事故っても知りませんからね!」

 「ゆっくりでお願い」


 バイト野郎は本来載せるべき野菜を載せずに、会長を乗せることにした。


 「「......。」」


 サイドカーの座席の位置はバイクを操縦している俺より低く、実際に乗ったら窮屈そうだった。


 それもそのはず、会長の身長はバイト野郎より数センチ低いだけだから苦労するのは当然である。


 「キツそうですね」

 「太ってるって言いたいの?」

 「とんでもない。元々人が乗るような仕様じゃないですから」


 会長にデブだとかブスだとか言ったらそれこそ市中引き回しの刑だ。


 無免許なんて知ったことないと言える運転でな。


 「じゃあ公道走って」

 「いきなりですか.....」

 「慣れてきたら公道でってアレに言われたでしょ」

 「はぁ」


 俺は会長を乗せたまま空き地を出て少し公道を回ることにした。ちなみに会長の分のヘルメットも俺とお揃いでカブのハーフヘルメットである。


 おかげで俺たちは歩道を歩く人たちに奇異な目で見られる羽目となった。


 赤信号で停止しているときのこの辛さ。通行人がめっちゃ見てるよ。早く青になってくれ。


 「会長、そろそろ戻りますよ」

 「ん。......やっぱ窮屈だね」

 「っ?!」


 どうやら窮屈さに耐えられなくなって、会長は座席の上で体育座りになった。


 その際、折り畳んだ足を巨乳に押し付けたので、胸がむぎゅうって俺に視覚的ダメージを与えてきた。


 「......。」

 「ガン見しないでよ。視線バレバレ」

 「す、すみません」

 「ほら、信号青」

 「あ、はい」


 会長に指摘され、俺は再び運転し始めた。


 ああー、このおっぱいに包まれたいなぁ。


 「バイト君さ」

 「?」

 「歩道に居るJKとか若妻に目移りしちゃって事故りそう」

 「......。」


 ぐうの音も出ないね。



――――――――――――



二日あけてしまいました。お久しぶりです。


ども! おてんと です。


前回もお知らせした通り、しばらくは控えめスタイルとします。許してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る