第214話 セクハラッシュ
「今日はまず玉ねぎの後片づけをします!」
「うおぉぉぉおおおおおおお!!!」
「うわっ。なに?! 何事?!」
天気は晴れ。12月に入ってからまた一段と寒くなったこの時期は、いくら外で動く仕事をするとは言っても、よっぽどのことが無い限りそう汗はかかない。
バイト野郎、久しぶりの葵さんに思う存分セクハ―――仕事が一緒にできそうで心躍る躍る。
「いえ、お気になさらず。でも良いんですか?」
「受験勉強のこと? 偶にはいっかなーって。数日前に試験終わったばっかだし」
「なるほど」
と、本人が言うならしょうがない。今日は好感度下がるまでセクハラ攻めしてやる。
「それに身体を動かさないと。んんー!」
葵さんはそう言って手を組んで頭上に思いっきり伸びをした。
自然と大きくて重力に逆らえなかった巨乳が少し引き上げられる。
「......。」
「ちょ! ガン見しないでよ! 視線セクハラやめて!」
「え、見せつけてたんじゃないですか?」
「なわけないでしょ!」
「あ、重いから持ち上げて支えろと?」
「言ってないし、それは気遣いセクハラだよ!」
さっきから“視線セクハラ”だの、“気遣いセクハラ”だの言ってるけどそれら何?
今日何個作る気ですか、セクハラ造語。
「揉めと? 願ったり叶ったりですね」
「変態! バイト中になには、はは発情してんの!」
「じゃあ、どうすればいいんです?」
「セクハラを辞めればいいんだよ!!」
んな無茶な。死ねと言いたいのか。
ヤだ、死にたくない。
「で、今日は玉ねぎの片付けをするとのことでしたが」
俺は葵さんに先程言われた内容を具体的に知りたかったので聞いてみた。
今現在、俺と葵さんは中村家の近くの野菜保管庫の前に居る。この中で仕事をするようだが、中村家でバイトしてからこの倉庫の中に入るのは初めてだから若干緊張している。
「えっとね、そのまんまの意味。この倉庫の中に入っている玉ねぎがあるんだけど、もう売り物にならないから軽トラで運んで捨てちゃうのがお仕事です」
野菜保管庫は一つの倉庫に二部屋あり、どちらも同じ用途で野菜を保管するのに利用しているのだとか。
今回、仕事場となる部屋には玉ねぎしか無く、もう一方の部屋にはカボチャとかサツマイモなどが保管してあるらしい。
「もったいないですね。腐ってるんですか?」
「そ。まぁ、和馬君との久しぶり仕事でこんなことするのは気が引けるけど、やらないといけない仕事だから」
「自分は葵さんとならどんな仕事でもしますよ」
「ふふ。ありがと」
笑顔が素敵だ。思わず勃っちまいそうだぜ。
葵さんがドアノブに手にした。
「じゃあ開けるよ」
「ええ。中がどんな感じが楽しみで―――」
と、言いかけた瞬間、
「「うへぇぇぇぇえええ!!」」
高校生二人は扉を開けて片足を突っ込んだが、一瞬で振り返って退避した。
「がはっ! おえっ。な、なんですか、あの悪臭は」
「ぐざいぃ。あ、あの悪臭の原因が玉ねぎだと思う。本来ならもっと長持ちするんだけど、今年は貯蔵方法が失敗しちゃったから予定より早く腐っちゃったんだ」
マジか。そりゃああの悪臭は売り物にならんわな。
玉ねぎって腐るとあんな強烈な臭いがするんだな。世のパパさんの靴下の臭いなんて比じゃねーぞ。
使用済み靴下をしゃぶしゃぶにできるくらい、パパさんの方がマシだ。
「父さんの靴下をアイマスクにできるくらい、比べ物にならないほど臭かった」
「......。」
この人も発想がぶっ飛んでるよな。人のこと言えんけど。
「実際にアイマスクにしてみたらどうです?」
「馬鹿言わないで。ファザコンじゃないんだから」
いや、ファザコンとかそういう問題じゃないだろ。
さっき開けたから少し離れている所に居るここからでも、倉庫の中がどんな感じかわかった。
「暗いですね。窓が少ないからか、日差しが入らないからですか」
「うん。野菜を貯蔵するための倉庫だからね。風通しの良さや日陰を考えた構造の小屋だから。いわゆる
倉庫の中は真っ暗って程じゃないが、雰囲気的にF〇teの〇郎君ちの倉庫みたいだ。
金髪サーヴァントいそう。
「先程は開けた直後でしたから臭さがヤバかったですけど、そろそろ大丈夫じゃないですか?」
「うん。行ってみよ」
「了解です」
「あ、か、和馬君が先行って。何が居るかわからないから」
「はぁ」
暗がりが苦手なのかな。
バイト野郎と巨乳長女は首に巻くっていたタオルで口と鼻を抑えながら倉庫へと近づいて行った。
当然、片手はタオルで塞がっているので玉ねぎは運べない。とりあえず様子見だ。
「うっ」
「タオル越しでこれとは.......」
「うっわ。ウジ虫がたくさんいますね」
「どうしても腐っちゃうとそれにつれて、虫が
バイト野郎は薄明かりの中、そんな虫だらけの現状を見て驚愕した。
いくら野菜を貯蔵すると言っても、こんな暗がりの中、腐って液状化しつつある重たい玉ねぎを運ぶのは大変だ。
そんでもって腐っているからハエやその幼虫などがうじゃうじゃと蠢いているのだ。さすがにバイト野郎でもうぷっとくる。
「あれ、電気が点かない」
「切れてるんですかね」
今居る地点はまだ扉の近くだから外の日差しが入ってきて近場は見えるくらいである。日陰で保存することが大切だから、当然倉庫の中は暗い。
「うーん。あっちに天窓あるからそこを開ければなんとかなるかな」
「どこですか? 自分が開けて来ますよ」
「えっとね―――」
『バタンッ!!』
「「っ?!」」
後ろの方から大きな音がしたので振り返ったが、どうやら風で扉が勢いよく仕舞ったらしい。
「なんだ扉か」
「いやいや! 落ち着いている場合じゃないよ! 暗くて見えないから開けて!」
「あ、はい」
幸い、出入口からはそう離れてない。俺は暗がりの中、扉まで足を運んだ。
が、しかし、
『ガチャッ』
「ん? あれ?」
『ガチャガチャガチャ!』
「あ、あれー」
なんか開かないんですけど。なんかドアノブ自体も錆びて古かったし、ドアラッチが何かに引っかかって動かないのかな。
「ちょっと何してるの?!」
「ドアが開きません」
「そ、そんなぁ」
後ろで葵さんが恐れおののいてらっしゃる。最悪、力尽くで開けるけど。
つうか、そこまで暗い所に居るのが不安なのかな。
「か、和馬君に犯されるぅ」
「.......。」
違った。俺が不安だったみたい。
「し、しませんよ」
「嘘だぁ。ここぞとばかりに暗がりを利用して私にえっちなことするんだぁ」
「だからしませんって。さすがにこのくっさい状況下でしませんよ」
「ほんとぉ?」
「ええ、もちろんです」
うむ、どうしようか。無理に開けても良いけど壊したら嫌だしなぁ。
「とりあえずスマホのライト機能を使いましょう」
「そうだ―――ねッ?!」
バイト野郎がポケットからスマホを取り出したが、直後何かにぶつかってスマホを落としてしまった。
でっかくて、柔らかい何かにぶつかったのだ。
平たく言うと、おっぱいである。
「さ、さささ、さっきしないって言ったじゃん!」
「わ、わざとじゃないですよ」
「嘘だ! 下から舐め回すように硬いモノでなぞってきたもん!」
いや、その硬いモノってスマホですから。それが当たって落ちただけですから。
「うわぁぁあん! こんなくっさい場所で犯されるなんてヤだぁ!」
「落ち着いてください。スマホが当たっちゃっただけですって」
「もう和馬君のことなんて信じれないよぉ」
「........。」
あんたの巨乳のせいでぶつかったんだろ。これが陽菜だったらスカだぞ、スカ。
おっきいおっぱいでごめんなさいって謝れよ。
男を悦ばすしか取り柄の無い肉付きでごめんなさいって謝れよ。
「というか、葵さんが近くに居るからでしょう」
「暗がりが苦手な私が離れていることを良いことに、和馬君に閉じ込められるかもしれないじゃん!」
「しねーよ!」
「敬語ぉ」
め、めんどくせぇ。暗がりだといつもの3割減で尊敬の念が薄れるな。大丈夫か、この
そんな一抹の不安を抱えながら、バイト野郎はもうしばらく巨乳長女とこの仕事をしなければならないのであった。
―――――――――――――――
ども! おてんと です。
次回はこの回の続きです。許してください。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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