閑話 葵の視点 忘れた頃の中村家家族会議
「というわけで、中村家家族会議を開きます!」
「どういうわけかしら?」
「まぁ、千沙の奇行は今に始まったことじゃないし」
「長女としてそれはどうなの.....」
「で、議題は何かしらぁ?」
今日は週末で天気は晴れだった。だから千沙も祖父母の家ではなくて私たちの住んでいるここへ帰ってきたけど、どうやら今から家族会議を始めたいらしい。
「ふふ。他人事じゃないですよ?」
「他人事は家族会議にしないからねぇ」
「兄さんのことです」
「?」
少し嫌な予感がした。
「端的に言うと兄さん、学校でイジメにあってます」
「「「っ?!」」」
「.......。」
やっぱり。
アレだよね? この前、偶々彼と公園で会った時に相談されたアレだよね?
「そ、それはどういう.....もしかして、不良の彼女に手を出したのかしらぁ?」
「か、和馬がイジメられるなんて想像できないわ。どっちかって言うとスる側じゃない」
「ああ。なんたって、あのメガネの下にはガチムチバーサーカーが潜んでいるからな」
皆してすごい被害妄想。
これには流石の私も同情.......いや、公園で私も彼に同じこと言ってた気がする。ごめんなさい。
「きっとメガネで地味そうな感じをいいことに、色々されているに違いません」
「「「「色々?」」」」
「ええ。休み時間にはサンドバッグ、自腹パシリ、一方的なプロレス技をかけられて、一通り済んだらトイレに逃げて便所飯です」
「「「「便所飯.......」」」」
それは居たたまれない。
千沙がこんなに早く帰ってくるということはきっと和馬君の家に寄ってから、本人にそれを聞いてすぐ家に帰ってきたのだろう。
あれれ? や、ヤリチンの話じゃなかったのかな? それとも過激化しちゃったのかな?
それを確認したいけど女子としてそれを口にするのは抵抗がある。
「千沙姉、あいつはなんて言ってたの?」
「何も。でも学校で下着がカピったらしいです」
「どういうこと?!」
「本人は頑なに話しませんでしたが、女子生徒にきっと性的な嫌がらせを受けたのでしょう」
「そ、そんな劣悪な環境に居たの」
下着がカピった?
最近そういう系のを興味本位で色々と調べているけどカピるってワードは知らない。
父さんは下を向いているし、母さんは不安げな顔で口を抑えている。
私はわからないので妹に聞くことにした。
「え、えーと、カピるってなに?」
「ググッても出ません。察してください」
「?」
「まぁ、天然のカ〇ピスが生地の上で乾燥した白いナニかです」
「??」
そう言われてもよくわからないけど、陽菜たちがわかっている様子だからきっと身近なものなんだろう。
「それにしても泣き虫さんがねぇ....」
「本人が隠しているのによくわかったね?」
「ええ。項に下手くそキスマークがありました」
「きっ?! 和馬の項に?!」
「へ、下手くそ.......」
誰がしたのかわからないけど、可能性としては彼の普段の会話からして美咲ちゃん。
他の女子生徒との関わりを聞いたことがないから誰かはわからないな。
「おそらくエッチな事に耐性の無い兄さんをいいことに、胸を押し付けたりテキトーにキスして弄んだのでしょう」
「そ、それでカピらせたのかしら?」
千沙が陽菜のその一言に頷く。
「もしかしたら面白半分で脱がせて写真を撮り、SNSなんかでばらまいているかもしれません」
「なんて悪質なの.....。ねぇ、誰をフォローすればその写真は手に入るの?」
「陽菜、手に入れたら貴方も
「くっ。今後のためにも欲しいわね」
「気持ちはわかります。良い脅しとなりますからね」
妹二人は悪質とわかってても、写真の在り処を知ったら絶対にその手を悪に染めそう。
「でも俺たちは彼の家族じゃないから関与は難しいね」
「両親に相談してないのかしら?」
「イジメも最近の出来事のように思えます」
「私、智子さん.......彼のお母さんに電話してみるわ!」
「ちょっと早計過ぎない? 心配なのはわかるけど少しは様子を見ないと」
私がこう言ったのは、さすがにこれは出過ぎた真似だと思ったからだ。
というか、皆冷静さを欠いている気がする。和馬君はもう中村家の子のように思えてくるレベルだ。
それにここに居る誰よりも多少の事情を知っている私が適切な判断を選択しなければならない。
「いや待って。なんか高橋君の母親と会話してみたいな」
「禿同ねぇ」
「ええ。どんな母親なのかすごい気になります」
「とっても優しいお母様よ?」
「.....。」
あれれ。イジメの話どこ行ったんだろう。切り替え早過ぎない?
たしかに陽菜以外、和馬君の母親に会った人はいないけど。
「じゃあイジメの件はさて置き、兄さんのお母さんに電話しましょう」
“さて置き”って言っちゃったよ。会議開いた張本人が“さて置き”って言っちゃったよ。
「しかし電話するって言っても、こんな時間に大丈夫かい?」
「まだ20時ですよ。夕方の時間帯です」
「それはあなたの体内時計の話でしょう.....」
「智子さんはそんなこと気にしないと思う。『大人は夜がメイン』って言ってたし」
「それはそれで少し意味が違うと思う。まぁ本人が気にしないならいいんじゃないかな」
かく言う私もこれはこれで興味が湧いてしょうがない。しばらく陽菜がかけた電話のメロディーが流れる。
果たして目的の人物は出るのだろうか。まるでこの場には誰も居ないかのような静かな時間がしばらく続いた。
そして、
『プッ―――。はい、もしもし、将来の陽菜ちゃんのママでーす』
「ぶっ?!!」
「「「「.....。」」」」
陽菜が盛大に吹いた。この第一声に対して、おそらく陽菜以外皆思ったことは満場一致な気がする。
子が子なら親も親だな、と。
『で、どうしたの? 眠れないの? 和馬の黒歴史聞く?』
「ちょっ、今はやめてください! あとそれは後日お願いします」
すごい。他所の子に息子の黒歴史を子守唄感覚で聴かせるなんて。
そして末の子は後日聞く模様。.....私も興味があるから聞かせてもらお。
「えーっと、私の家族に智子さんの話をしていたらお話したいって」
『え、じゃあそこにご家族の方がいらっしゃるの?』
「そうです。今大丈夫ですか?」
『もちろん。私もいつかは挨拶に行きたいって思ってたのよ』
「なら話は早いですね! スピーカーモードにしまーす」
スマホの音量が急に大きくなった。そして自然とあちら側から聞こえてくる音がリビングに響き渡る。
え、どうやったの? なんで音量ボタン押してないのに一瞬で音が大きくなったの? スマホ怖ッ。
そこで父さんが手を軽くパンと叩いてあることを提案してくる。
「よし、ここは親しみの意味を込めて渾身のネタ、“ムラムラ中村”でいこ―――あだッ?! 痛ッ! ぐッ! へぶしゃっ?!」
『?』
とんでもない発言をしようとした父に対して母はビンタ、私はデコピン、次女は肘打ち、末の子は右フックである。
一抹の不安を感じながら中村家を騒がす通話が今始まろうとしていた。
――――――――――――――――――
ども! おてんと です。
これ、アレですね。
お互い初対面なんで自己紹介しないといけないんですが、雇い主の名前危ないですね。
だってその名前は神のみぞ知る名ですもん。
.....許してください。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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