閑話 葵の視点 ここで真打ち登場

 『初めまして和馬の母、高橋 智子です。いつも息子がお世話になっています』

 「初めまして。高橋 真由美です。和馬君にはいつも手伝ってもらえるので助かってます」

 『いえいえ、あんなのでも役に立てるのなら幸いです。使い潰してください』

 「.....。」


 すごい言い方。


 おそらくだけど、初対面でこの感じなら智子さんは人間関係に壁を作るような人ではない気がする。


 私たちはつい先程、バイトで来る和馬君の母親がどういった人なのか気になったので電話することになった。


 親しみやすい人っていうのが第一印象かな。母さんのママ友の誕生かもしれない。


 「父の『ザザッ!』です。息子さん、とても良い子ですね。あ、“息子”というのはそっちの意味じゃなくて―――ふぐッ?!」

 『今雑音が入りましたね。あ、そっちの息子って意味じゃなかったんですか? すみません、はしたなくて』

 「ほら、勘違いされてたじゃないか。肘でたないでよ。ったく」

 『はは。旦那様はシモもいける口なんですね。助かります』


 電話して1分足らずらずでカオスな通話タイムへ。もう何がなんだかわからなくなってきた。


 初対面ですよね? そんな疑問が頭を過ってしょうがないんですけど。


 「父さんは黙ってて。ゴッホン! 長女の葵です。和馬君はとても頼りになりますね」

 『あら、貴女が葵ちゃんなのね。息子がいつも口にしてたわー』


 「え、そうなんですか?」

 『うん。貴女とどうしたらイチャつけるのか、口説けるのか、本買って研究してたのよ』


 「なっ?!」

 『ごめんね? 迷惑だよね。私からも常日頃から「和馬じゃ無理。ラブドールで我慢しなさい」って言い聞かせてるんだけど.....』


 本当にすごい母親だ。実の息子を応援どころか現実逃避を勧めているよ。


 い、いやまぁ、応援されても相手である私的にはごにょごにょ.....。


 「はは。だから兄さんは諦めて妹にぞっこんなんですね。少し腹立ちますが」

 『今度はどなた? 随分可愛らしいお声ね』


 「それもそのはず、私が可愛すぎるせいで兄さんにとって愛して止まない存在となってしまいましたから。千沙です」

 『ああ、陽菜ちゃんが以前言ってた次女の千沙ちゃんね? 初めまして』


 「ええ。初めまして」

 『ふふ。和馬は三姉妹に囲まれて果報者ね』


 「ちなみに私には何か言ってませんでした?」

 『自画自賛自己中フルアーマー独裁者だって』


 「息子さん、ぶっ殺していいですか?」

 『いいけど、殺人罪であなたの人生棒に振っちゃわない?』


 いや、本当にすごいね。もうなんとも言えないくらいすごい。


 事実だとしてもよくそれを包み隠さずストレートに言えるなんて、メンタルどうなってるんだろう。


 『あ、もしかして和馬もそっちに居ます?』

 「いません。少しお話したいなと思っただけです。夜遅くにごめんなさいねぇ」

 『なるほど。私も電話越しですがご挨拶ができて嬉しいです』


 彼はほぼ毎日一人であのアパートで過ごしているんだから、智子さんや父親は居ないよね。そう考えると寂しいのかな。


 『アルバイト募集していないのに無理に雇わせてすみません。うちのバカ息子が迷惑かけてませんか?』

 「そんなこと―――」

 「なんですか、あの性欲むき出しな男子高校生は。娘たちが何度危ない目に遭ったと―――」

 「ちょ! やめてよ! そんなこと言う必要ないでしょ?!」

 「そうよ! そこは目を瞑れば素敵な人じゃない!」

 「陽菜、そこが問題点なんですよ。瞑っていいんですか」


 『ごめんなさい! うちの子だから心配だったんですよ。なんとかなると思うのですが.......』

 「「「「「せんでいい! せんでいい!」」」」」


 去勢というワードに、さすがの私たちでも待ったをかけなければならなかった。


 『ちなみに、千沙ちゃんが言っていた“兄さん”って和馬のこと?』

 「ええ。和馬さんは私の兄です」


 『生んだ覚えはないのだけれど.......』

 「後天性みたいな妹ですから」


 『病気みたいな言い方ね』

 「ヤンデレは属性に無いです」


 なんか会話がズレている。


 陽菜に聞いてみたけど、陽菜は智子さんに千沙と和馬君がどういった関係かまでは言ってないらしい。説明が面倒だからとのこと。


 そうなると和馬君が「千沙って子を妹にしました」的なことを言わないと、初対面で息子に妹ができてしまった事実を打ち付けなければならなくなる。


 というか、話しぶりからして知らなさそう。


 『うーん。一度会ってみたいわね』

 「私も兄さんのお母さんと会って話してみたいです」

 『ちなみに妹かどうかは私が決めるからね!』

 「え、なんで親が介入してくるんですか?!」


 いや、逆に親なくして兄妹はおかしいでしょ。血は繋がってないけどさ。


 『あんなのをなぜ兄にしたのかわからないけど、そこは今度会ったときにじっくり話しましょ』

 「仕方ないですね。お会いできるのを楽しみにしています」

 『こっちこそ』


 この二人は会っていいのだろうか。嫌な予感しかしなくて怖いよ。


 『あの子、家に一緒に居るときは中村さんの話ばっかりしちゃってて、とっても楽しそうに話すから母としても嬉しい限りです』

 「そんな滅相もない。高橋君――和馬君はいつも仕事熱心ですよ。夏の暑い日も文句ひとつ言わずに最後までやり遂げるので非常に助かります」

 『ありがとうございます』

 「ちなみに学校のことで何か話していませんでしたか?」


 ちょ、それ今聞く?! ここで“経験過多ヤリチン騒動”聞く?!


 父さんは「任せろ」と親指をぐっと立ててキメ顔してきた。こちらとしては不安でしかない。


 『いえ、特に』

 「なんかこう、遠回しな言い方になりますが、学校でイジメに遭ってたりとか」


 全然遠回しじゃない! ドストレートに言ってるよ!


 『あの子に限ってそんなこと.......』

 「例えば性的な嫌がらせを受け―――痛ッ」

 「あなたは黙ってなさい」

 「えっと、アレです! 何か悩みは無いかなと!」

 「そうそう! 普段私たちばっか和馬に助けれらていますし、なんか悩みがあれば相談に乗ろうかと思ってまして!」

 「本人は口にしなさそうなんで」


 駄目だ。父親なんか頼ってられない。やっぱり任せない方が良かったんだ。


 引き返せなくなった私たちは智子さんにそれとなく和馬君のことを聞いてみた。


 『そうですねー。特に学校の方は何も聞いてないので悩みがあるのか知りませんが、「彼女が欲しい」って常日頃から苦しんでます』

 「「「......。」」」

 「予め言っておきますが、うちの娘は誰一人としてあげませんか―――らっ?!」

 「だからあなたは黙ってなさい」


 母さんが父さんの頬をビンタした。


 “苦しんでる”ってほど彼は切羽詰まっているのだろうか。


 でもこうして智子さんの話を聞くと、どうやら最近の和馬君のことはあまり知らないみたいだ。和馬君自身が言ってないってことかな。


 『はは。賑やかなご家庭ですね』

 「騒がしくてすみません」

 『ああ、いえ。.......でもだからですかね。和馬が中村さんのとこにずっと居たいって言うのは』

 「智子さん.......」


 どっちの意味なんだろう。


 常日頃から「付き合ってください」「結婚してください」と言うセクハラのせいで、どっちの意味合いを持った“居たい”のかがわからない。


 『今更ですが、どうかこれからもあの子のことをよろしくお願いします』

 「ええ、こちらこそ」

 「今日はありがとうございました」

 「智子さんと話せて楽しかったです」

 「やはり兄さんのお母さんですね」

 「わかる。まさしく親子って感じよね」


 皆最後に一言ずつ言って智子さんとの通話はお開きとなる。


 夜も遅い。そもそも仕事で和馬君と離れ離れの生活をしているのだから、こんな時間に長話では迷惑になるかもしれない。


 今日は本当に挨拶だけにしておかなければ。


 『あ、そうそう。最後に聞きたいんだけど、和馬が「合鍵もう一個作って良い?」って聞いてきたのは、アレって陽菜ちゃんと進展が―――』

 「あッー! あッー! 違います! 私じゃないです! じゃあ!」

 「私ですね。その分は」

 『え、どういう―――ブツッ! プープー....』


 陽菜が慌てて無理やり通話を終了させた。


 きっと続きは「進展があったことだよね?」とかなんかだろう。生憎だけど、合鍵の件は息子さんの妹の誕プレです。


 陽菜はアレで私たちに隠したつもりなのかな。少なくとも私と母さんにはバレバレである。


 「いやぁ、気難しい性格だったらどうしようかと思ったよ」

 「ええ。最後何言ってるかわかりませんでしたが、賑やかな人でしたね」

 「そ、そうね! 最後なんて言ってたのかわからなかったわね!」

 「「......。」」


 そして一家の大黒柱と父譲りの鈍感な次女は末の子の気持ちなんて気づきもしないのである。



――――――――――――



ども! おてんと です。


次回はいつも通り土日に1回の公開でいつも日曜にしますが、

せっかく10月31日ですし、土曜日のある時間帯に特別回を公開しようかと思います。


本編とは関係ないです。許してください。


内容は......察してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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