第206話 踏んだり蹴ったり

 「おい、アレ.....」

 「ああ、“ヤ〇チンの和馬”だ」

 「マジかよ。居るんだな。そんな高校生」


 .......天気は晴れだが、俺の心は雨である。


 学校に着いてから昼休みまでずっと周りの生徒が騒がしい。


 最初はなんだろうと思ってたけど、実はそのヒソヒソ話の内容がバイト野郎だったことに先程気づいたのだ。


 「噂じゃあの生徒会長と寝たって話だぜ?」

 「私も聞いた」

 「生徒会長、いつもカップルに当たるからそういうのは苦手な人だと思ってた」


 おそらく、いや絶対会長のせいだろうな。今朝のバイトで言ってたアレだよな。


 「それが本当は強姦したんじゃないかって話だ」

 「え、犯罪じゃない.....」

 「通りであのガタイだ。レ〇プするために鍛えたんだろう」


 モテるためです。


 いやまぁ、本当は趣味なんだけど。


 「俺も普段アイツと居るが性癖はかなりヤバいぜ?」

 「裕二が言うなんて........」

 「も、もしかしたら私たちも―――」


 おいこら。なんでお前まで紛れてんだよ。


 俺は裕二の居る所まで直行して馬鹿な友人の耳を引っ張った。


 「ちょ、こっちこい」

 「あッーーーー!! 犯され―――」

 『ボスッ!』

 「ウッ?!」 


 腹パンしたら黙ったぞ。便利だな、暴力って。


 「おいおい。どうしたんだ、和馬さんよ。いつの間に童貞からヤリチンにジョブチェンしたんだよ」

 「してないよ。いや、否定しにくいな、それ」

 「どっちなんだって」

 「........イニDだ」

 「お前怒られるぞ」


 どうしよう。噂が広まるの早すぎで恐怖しかわかない。昨日まで普通の学生生活だったのになんで急に変わったの。


 女子からはゴキブリでも見るかのような視線だし。


 男子からは性犯罪者でも見るかのような視線だし。


 「このまま激化したらいじめにつながるぞ。........PTAに相談するか?」

 「逆にPTAに目をつけられない? 俺、ヤリチン(仮)だよ」

 「とりあえず様子見するか」

 「........裕二は俺を信じてくれるのか?」


 裕二が鼻で笑う。


 「ばーろ。“ヤリチン”である俺が同種を見分けできなくてどうする。童貞とヤリチンじゃオーラが違うんだよ」

 「嬉しさ半分、悲しさ半分だな」


 「お前はヤリチンの皮を被った童貞だ」

 「やっぱ悲しさが9割9分だ」


 くそ。なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ。


 会長のせいだぞ。どうしたら“童貞”が1日で“ヤリチン”になるんだよ。むしろ俺が教えてほしいよ。


 「しばらくはほとぼりが冷めるまで生徒会長に会わない方が良いかもな」

 「だな。変に現状が悪化するかもしれない」


 こうして俺は放課後まで恥辱を耐え抜いて帰宅するのであった。






 「はぁ」


 俺は放課後、自宅の近所の公園のブランコに座ってため息を吐いた。


 会長のせいと言えど、またあの人に強く当たると機嫌を悪くしそうで怖いんだよね。爆弾扱ってるみたいだ。


 というか、理由聞けば良かった。今朝は俺を「セフレにしたから」とか意味わかんなさすぎて思考停止したもん。


 「俺、これからどうなるんだろ.......」

 「大丈夫、ドロップアウトしてもうちがあるから」

 「はは。自分も葵さんと一生いたいです。結婚してください―――って、葵さん?!」


 考え事していたら隣のブランコに葵さんが座っていた。しかも制服姿。えっっっろ。いやエロくはないか。


 「い、今気づいたの? というか、無意識にセクハラしないでよ」

 「す、すみません。その恰好ってことは帰宅途中ですか」

 「うん」


 それで偶々公園を通ったら俺が居たから話しかけたと。


 つうか、軽い気持ちで言った俺も悪いけど人のプロポーズをセクハラ扱いしやがったぞ、この長女。


 「さっき『ドロップアウトしても』って言いました?」

 「え、違うの?」

 「違いますよ!!」


 なんでそうなる。巨乳会長といい、巨乳長女といい、なんなの。


 男子高校生が公園のブランコでため息を吐いていたら「ドロップアウトしたなあいつ」って疑うの?


 「なんでそう思うんですか.......」

 「か、和馬君のことだからてっきり女子生徒を強姦したのがバレて退学したのかと」

 「今すぐレ〇プしましょうか?」

 「ごめんなさい。許してください」


 俺、童貞ですよ。.......ぐすん。


 でも悲しかな。今悩んでいることとそう遠くない話だからな。勘が良いというかなんというか。


 「で、どうしたの?」

 「.......自分にかまってて良いんですか?」

 「後輩の悩みを聞くのも先輩の仕事だよ!」

 「本音は?」

 「息抜き」


 俺も息子ヌかせようかな。すぐ本音言いやがって。


 後輩の悩みを息抜き感覚で相談に乗る先輩なんか初めて聞いたぞ。


 それから俺は葵さんに悩みの原因を話した。


 「本当は嘘ついて襲ってたり.......」

 「してません」


 「む、無自覚でシたって線は?」

 「ありません」


 「自分では和姦と思っていても、実は強姦だってことに気づいてなくて―――」

 「よし。今から葵さんで実践してみますので事の真偽をその身体で判断してください」

 「ごめんなさい。許してください」


 この人の中で俺がどういう奴かってよーくわかったわ。


 というか、JKの口から“和姦”ってパワーワード出たよ。


 「今度、あっちでバイトがある日に美咲ちゃんに聞いたら?」

 「そうします」


 「でも原因がわかっても対策のしようがないね」

 「そうなんですよ。ったく、“ヤリチン”で周りから蔑まれるなんて初耳ですよ」


 「逆にこれを利用してこれから経験ぶるのはどう? もし死ぬまで卒業できなかったら周りからの印象だけでも卒業しておきたくない?」

 「逆に葵さんが“ヤリマン”だとして同じ立場になってみたください」


 「.......ヤだね。そんな人生」

 「少しは発言に気をつけてくれません? 配慮無さ過ぎて尊敬の念が薄れてきましたよ」

 「ご、ごめん」


 くそ。まだ経験してないのに周りの人からの評価が裕二と同じだよ。いや、あいつより酷い気がする。


 「結局は時間が経過しないと解決できなさそう」

 「はい。でもそれはそれで厄介なんですよ」


 「?」

 「ほら。自分は甘酸っぱい青春を送りたいって前々から言ってるじゃないですか」


 「ああ、そういえば」

 「ヤリチンなんてレッテル貼られると非常に困ります。彼女できませんよ」


 「ほ、本気で作る気なんだ。その中身で高望みしすぎじゃ.......」

 「.......。」

 「いたいれふぅ痛いですごへんなはいぃごめんなさい


 処女は黙ってろ!


 俺は抓っていた長女の頬から手を離した。


 「そういえば、葵さんが進学する理由って交際が目当てなんですよね?」

 「ちょ、誰なの?! そんな根も葉もないこと言ったの!」

 「真由美さんです」

 「絶対違うからね! 本人が言うんだから違いない!」


 ん? それどういう理屈? 犯人は皆そうやって自分は違うって言うんだけどな。


 「葵さんも自分とあんま変わらないじゃないですか」

 「全然違うから! 変態な和馬君と一緒にしないでよ!」

 「ひどッ!」

 「それに和馬君はまだ16じゃん。私は18なんだよ?! 焦らないといけないの!」


 それ本音じゃん。交際目当てって言ってるようなもんじゃん。


 行き遅れみたいな言い方するな。この美女がッ。


 「あ、それなら自分と付き合います?」

 「正気の沙汰とは思えませんね」


 敬語やめろ。


 俺って葵さんからの好感度そんな高くないのな。学校から帰っても良いこと一つもないよ。


 はぁ。踏んだり蹴ったりな一日だなぁ。



―――――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


先日、を新作として公開しました。


その名も「大根」!


公開して後悔しました。これほど興味をそそらないタイトルってあるんだな、と。


安定の“農家”で“バカ騒ぎラブコメディー”です。許してください。


よろしければご笑納(?)ください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る