第207話 体育館倉庫で・・・

 「ってことで、高橋、このテニスボースを倉庫に片付けといて」

 「ええー」


 天気は晴れ。今日はもう全ての授業が終わり、いつものように帰ろうと思ってたら担任の教師からテニスボールを二つ渡された。


 「なんで自分が......」

 「お前の対戦相手が倒れたからだろ」


 5時間目、つまり6時間目が終わった現在の一つ前の授業たいいくでは男女合同でテニスをやっていた。


 その際に、倒れてしまった女の子のポケットにテニスボールが二つ入っていたのだ。


 「自分、何もしてませんよ?」

 「何もしてなくても前科が物語ってたんじゃないか。おそらくだが」


 なんで俺が片付けないといけないのか。それは女の子が「きゃあ! ヤリチンからサーブボールが来たわ!」とか言って勝手に自滅して倒れちゃったのだ。

 

 失礼しちゃうよね。


 顔は好みじゃないけどヤリチンらしく犯してやろうか。顔は好みじゃないけど!............ぐすん。


 「先生はあの噂を信じてるんですか?!」

 「........いや別に」


 「なんですか今の間! それにさっきから目を合わせてくれまんね?!」

 「最近の子のそういった価値観がよくわからない」


 「先生でしょ?!」

 「先生は先生でも数学教師だ。保健体育の先生に相談しなさい」


 「このクソ数学教師ッ!」

 「くそ?!」


 仕方ない。面倒だがこのテニスボールを倉庫に持って行こう。そんでそのまま家に直行しよう。


 「......自分がひきこもりになったら担任のせいにしますから」

 「わ、我が校としても“経験過多ヤリチン”による嫌がらせは初めてなんだ」

 「......。」

 「強く生きろ。テニスボール頼んだぞ」


 これ、あと5つ集めたら願い叶えてくれないかな。


 ちなみに願う内容は「俺に彼女を」である。そこはブレない和馬君。ヤリチンの誤解を解いてほしいなんて生ぬるい望みはしない。


 それで彼女作ってからヤリチンになればいいんだ。現状の順序が大幅に狂っているだけ。







 俺は倉庫にボールを持って行っている途中、すれ違う生徒たちが俺のことを見て言う。


 「見て、アレ」

 「ああ、テニスボール二つ持ってやがる」

 「まさしく、ね」


 いやどこが?


 “まさしく”、なんだよ。黄色いボール二つでタマタマってか。馬鹿にしてんのか。


 小学生じゃねーんだよ。


 「あれ、倉庫開いてるな」


 倉庫の出入り口は両側から閉める引き戸となっていて、そのうちの片方が開いていたのだ。誰か居るのかな。


 「あ、会長」

 「ん? バイト君じゃないか」


 中に入ったら何かの冊子とペンを手にした会長と会った。備品のチャックとかしてたのだろう。


 「ちょうどいい! 本当は次のバイトまで我慢しようと思ったんですけど我慢なりません!」

 「あ、性欲処理?」

 「あんたに物申すんだよ?!」


 俺がそんなことするわけなくもないけど今頼むわけなくもない#$?&〇¥!!


 そして備品倉庫の中に入って会長に文句を言った。ここなら生徒に見られることはあるまい。


 「どうするんですか?! これじゃあ夢見た青春がどんどん遠退いていってしまいます!」

 「はは。お気の毒に」

 「他人事だと思って! そもそもなんで自分を“セフレ”にしたんですか?!」

 「やむを得ない事情があってね」

 「どんな状況?!」


 くそ。もしかして以前の生徒会室での一件か?


 仕返しにしてもタチが悪いよ。


 「会長は良いですよね。もうみたいですから余裕なんでしょう」

 「っ?!」

 「人を巻き込まないでくださいよ。自分が悪かったので謝りますから」


 俺は突き放した言い方をして会長にぶつけた。


 とりあえず、これ以上噂に尾鰭おひれが付かないようにしなければ。


 「............だって、.....い」

 「はい?」

 「ワタシだってまだ全然何もしてない!!」

 「っ?!」


 “何もしてない”って、それはないでしょう.....。


 「容姿で決めつけるのはいい」

 「.....。」

 「交際経験が豊富なのは否めない。でも内容は糞だ。良い関係が続いたこと無いんてないんだ」

 「........。」

 「結局、君も他と同じだ。ワタシを知って媚び売ってくるか、決めつけて終わりかのどちらかで、君はその後者ってことだね」


 会長が今までにないくらい冷徹な目でバイト野郎を見てきた。

 

 そうか、会長の今までの元カレは駄目系が多かったのだろう。それで満足できなかったんだ。


 だから若くしてこんなにとっかえひっかえ―――もとい場数が違うのか。


 「どんな体験だったかは知りませんが、きっと手を繋いだり、キスをしたり、抱き合ったこともあるんでしょう」

 「......ない」


 「はは、またまた。未経験者からしたら会長の第一印象は皆そんなもんです」

 「......。」


 「はい。俺もそうだったのかもしれません。今回の件で自分もよくわかりました。人から自分がどうみられるのかを」

 「......そう」


 会長と違って俺は美形じゃないし、そもそも今回の原因を作ったのは会長だがな。


 「ヤリチンだからたくさんヤってきたのだろう。彼女一人じゃ物足りないから他の女性を抱くのだろう。そんな目で見られてきました」

 「可哀想に......」


 他人事だと思って相槌打ってないよね?


 「会長が俺の青春にとって邪魔って言ったのは嘘じゃないです。謝ります」

 「わかってくれれば―――」

 「ですがそれとは反面、会長は万人が認める美人ですから今後ともお付き合いしていただきたいです」

 「............え?」


 いつか本当に会長のセフレになれるよう、俺はこの関係を終わらしたくない。そう、いつかの日のために仲違いなんかしたくないんだ。


 だから精一杯謝ろう。


 「君、それ言っちゃうとワタシの身体目当てみたいじゃないか」

 「......いえ、決してそういう訳じゃ」

 「いや、さすがにソレとしか聞こえないよ」


 ふむ。本音がついポロって出てしまったな。


 美人と仲良くしたいなんて健全な男子高校が言うのは“ワンチャン”を狙っているからと相場が決まっている。


 これは............マズったな。


 「いや、これはですね。これからも会長を知って軽率な行動を取らないようにと」

 「今更取り繕っても説得は難しいよ」

 「......さいですか」


 やべ。また怒られっかも。


 会長がなぜか俺に迫ってきた。俺はそれにつられて後ろへと数歩下がった。


 「まぁ、バイト君とは今後とも学校以外で一緒にいることは多いんだ」

 「そ、そうですね。西園寺家でのアルバイトがありますから」

 「それに元々、ワタシもこんなことで君を手放したくない」

 「て、手放したくないですか?」


 俺の背中が倉庫の扉にぴたりとくっついた瞬間、会長は開いていた方の引き戸を閉めた。


 そして、


 『ドンッ!』

 「ひゃうッ?!」


 壁ドンされた。思わず変な声が出ちゃったじゃん。


 「か、会長?」

 「バイト君は面白いよね」


 「はい?」

 「自分に非があればちゃんと謝って、反省して、以前のように関係を戻したいと言う」


 「普通かと」

 「相手に非があっても自分のせいだと錯覚して、謝って、自分を戒めるよね」

 「そ、そんなことないですよ」


 どうした、会長。


 倉庫の中、暗くてよくわからないけど、なんか会長色っぽくなっている気がする。


 おかしいな。運動してないのに火照るような時期じゃないと思うんだけど。


 『ガチャッ』

 「っ?!」

 「つまりだ。早い話、君はワタシの身体に魅了されている。残るは“心”だ」


 会長ぉぉぉおお、今鍵締めましたよね?! 何する気ですか?!


 いや、ナニする気ですか?!


 「ふふ。ワタシは今まで“受け身”だったんだ。今回もその縛りでいこう」

 「な、なんの話ですか―――」


 俺はなにを言ってるかわからない急接近してきた会長から距離を取ろうとしたが、


 「会長ー、こっちの仕事は終わったんですがそっちはどうですかー?」

 「っ?!」


 外から女性の声が聞こえた。


 まずいぞ。こんなとこ見られたら現状の噂が悪化する。


 会長が俺の耳元で話す。


 「あ、書記の子だ」

 「は、早く隠れないと!」


 「動かないで? 一歩でも動けば君に連れ込まれて犯されそうになったと叫ぶ」

 「ふぁ?」


 なに言ってんのこの人?! さっきの話聞いてた?!


 「会長ー? 聞こえてますかー? というかなんで閉まってるんです?」


 あ、なるほど。黙ってやり過ごすつもりですね。


 鍵は締めてますし、書記の人は備品のチェックを終えて戻った会長とすれ違っちゃったみたいな。


 「ごめんね。鍵が錆びてないか内側から試してたんだけど、滑りがあまり良くないかな」

 「っ?!」

 「あ、中に居るんですね? なるほど。じゃあここで待ってます」


 マジでなに言ってんの?!


 「ふふ。楽しくなってきた」


 ドSかッ。

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