第205話 変態高校生と笑えない猫。略して変ねk

 「おはよう。バイト君」

 「あ、おはようございます、会長」


 天気は晴れ。今はまだ早朝でお外は真っ暗だが、天気予報では晴れと言っていたので晴れなんだろう。でももうこの時期は晴れてても肌寒いんだよね。


 ちなみに今日のバイト依頼の電話は昨日の23時にきた。日付が変わらないだけマシと思ってしまうバイト野郎の感覚は麻痺しているのだろうか。


 「今日は何をするんですか?」

 「ある程度大根を収穫してからそれを洗うところまでやってほしいらしい」

 「洗う?」

 「収穫したままだと泥が付いているでしょ? それを専用機械があるからそれで洗うんだ」

 「なるほど」


 今日の仕事内容は数十本の大根を収穫した後、それを水で洗うとのこと。時間があればそれらをある所に出荷するらしい。


 ちなみに“ある所”というのは市場とは別の所、つまり契約している飲食店だ。収穫した野菜を西園寺家が直々に持っていくのだとか。


 「運ぶのは良いですけど、何で運べばいいんです?」


 さすがに徒歩ってことは無いだろ。


 「バイクだよ」

 「バイク?」


 「そ。こっち来て」

 「はぁ」


 え、バイク? ピザ屋とか寿司屋がデリバリーするために使うあの原チャかな?


 俺は疑問に思いながら会長に連れられて西園寺家が管理する物置小屋に向かった。


 そこには達也さんと一台のバイクがあった。


 「お、来たか」

 「おはようございます」

 「仕上がってるんだよね?」


 「おう。コレが宅配に使う.....“ヤサイおんじ君4号”だ!!」

 「「......。」」


 ネーミングセンス.....。


 達也さんの言う“ヤサイおんじ君”と呼ぶバイクは、50ccの原チャとは違って一回り大きい125ccのバイクだ。


 しかも左側にサイドカーが装着されている。


 「ヤサイおんじ君4号、だ!!」

 「あ、はい。かっこいいです」

 「バイト君、無理しなくていいよ」


 上司をヨイショするのも仕事ですから。


 「それで、達也さん。このバイクはいったい―――」

 「以降、ヤサイおんじ君と呼ばないと減給な」

 「“4号”じゃ駄目ですか?」

 「許さん」


 さいですか.....。


 つうか、“4号”って。今までの歴代の事情を知りたいわ。


 見ればバイクの右側、サイドカーの左側共に“ヤサイおんじ君”って塗装されているし。


 まだ藤原と〇ふ店と書かれていた方がかっこいい。これバイクだけど。


 「話進めてよ」

 「ああ。和馬にはこれを運転して、朝一で契約している飲食店に野菜を持って行ってもらいたい」

 「自分がですか?」


 さっき会長にそんなこと言われてたけど、マジで俺がデリバリーするんだ。


 .....野菜を。


 「おう。おめー、二輪免許持ってんだろ」

 「え、持ってたの?」

 「ええ。高校入ってすぐに取りました」


 「以前言ってたしな」

 「てっきり無免許で運ばされるのかと思った」


 いや、むしろそれは止めろよ。なに知らなかったフリでバイト野郎に無免許運転させようとしてんだ。


 「こんなバイクあったんですね」

 「ああ。結構年期入ってるが、ちゃんとメンテしてるから平気だ」

 「なんかわくわくしてきました」

 「だろ? 童貞でも男だもんな。バイクに憧れるもんよ」


 一言余計。コレで轢くぞ。


 「買ったんですか?」

 「いーや。うちにトラック2台あんだろ? あれがまだ1台だったときに使ってたバイクなんだよ。サイドカーは知り合いから貰った」


 「なるほど」

 「そんときからこいつを使ってちょくちょくいろんな店に宅配してたんだよ」


 「宅配って.....。このサイドカーに野菜を?」

 「おう。一応人を載せられるが、仕事だから野菜しか載せない。うちで作る野菜は大根とかキャベツで嵩張かさばるからな」


 それでサイドカーか。たしかにバイクの後ろに荷物を積むよりかはたくさん載せられる気がする。


 「まぁ、本当は配達してもらいたいところだが練習もしてほしいしな。数日はちょくちょく乗って操縦に慣れてくれ」

 「了解です」


 おおー。まさか農家の仕事をしていてバイクでデリバリーすることがあるなんて。


 家にも50ccの原チャがあるけど全然乗ってないしな。それにこっちのバイクはサイドカーが付いているからか横幅がかなりある。


 「いやぁ、すっごい楽しみです」

 「はははは! そうだろう、そうだろう」

 「.....。」


 「オートマですか」

 「おう。それと後で頭を計測すっから。仕事終わったらちょっと付き合え」

 「......。」


 「ヘルメットですか。達也さんが以前乗っていたのなら既存の物でもいいんじゃないですか?」

 「ばっかお前、俺が乗っていたときはノーヘルだったんだよ。だからねーんだよ」

 「..........。」


 ノーヘル。前から思ってたけど、達也さんって絶対学生時代はヤンキーだったよね。そんな感じがするもん。


 というか、最近全然乗ってなかったけど俺は原チャ持ってるし、自前のヘルメットあるぞ。


 「安心しろ。ちゃんとしたメーカーもん買うから」

 「え、いいんですか?! わざわざ―――」

 「バイト君。仕事が先。バイクの話は後ででいいでしょ」


 おっと。今までだんまりだった会長がなんか言ってきたぞ。


 そりゃあそうか。バイクに興味無さそうだし、説明聞いてても暇だよな。


 「ぷぷ。バイクに妬いてんのか、お前」

 「は?」

 「ま、まぁ、会長の言うこともごもっともです。仕事してきますね」


 俺はなんか兄妹喧嘩をおっ始めようとした二人を強引に止め、そのまま会長と大根畑に向かった。


 「その、契約している飲食店はここから結構距離があるんですか?」

 「徒歩だと時間が掛かるね。バイクなら10分もしないで着くと思う」

 「なるほど」


 複数あるらしいので、朝届けるとなるとそこそこ時間がかかってしまうらしい。同時にメインの市場に出荷しなくてはならないため、朝は本当に忙しいなのだとか。


 「じゃあ大根の採り方から教えるね」

 「お願いします」


 バイト野郎たちは現場に着いた後、さっそく大根の収穫を行った。畑には他に誰も居なかったが、すでに健さんたちが収穫するための道具やコンテナを置いて行ってくれたらしい。


 前回は種をずっと蒔いていたので収穫をしていない。


 つまり初なのだ。初収穫。


 「市場に出荷する大根とは別に、飲食店へ持っていく大根は合計で30本」

 「ということは、自分の今日の仕事内容は30本持ち帰って洗うんですね?」

 「そ。運ぶ際は量が量だし、この運搬機を使う」


 その運搬機と呼ばれる機械はエンジンが搭載されたキャタピラー式の機械である。


 俺たちはさっそく30本を目安にどんどん収穫していく。二人だから30本なんてあっという間だ。


 「わ。これ面白い形てしてますね?」

 「ふふ。たしかに大根に足が生えているみたいだ」


 畑から大根を引っこ抜いていった途中で変な形の大根を抜いてしまった。


 これにはさすがの会長も微笑んでしまったみたい。見ると本当に大根は足が生えているようだ。テレビとかでたまーに見るソレである。


 「成長過程で土が偶々硬かったり、石なんかが紛れ込んでいるとそうやって形がかわっちゃうんだよね」

 「.....珍しいですね」


 「いや? 割とあるよ。そういうのは売れないからうちで食べるんだ」

 「えっとそうじゃなくて、会長が」

 「ワタシ?」


 俺はこくりと頷いた。だって笑うところを見るのが久しぶりなんだもん。


 「ほら、最近の会長がご機嫌斜めでしたし」

 「誰のせいだと?」

 「じ、自覚してます。すみません」

 「.....別に」


 そう。以前、バイト野郎が生徒会室でやらかしちゃったことや、バイトの仕事ミスで会長が最近冷たいのである。


 「まぁ、もう気にしてないし、別にいいよ」

 「え、あ、そうですか」

 「その代わりちゃんと身体で払ってね」

 「バイト頑張ります」


 女の子から「体で払ってね」とか言われるとすっごい興奮するけど、今は素直にセクハラできない。


 「あ、“身体で払う”で思い出した」

 「?」


 会長が手をぱんぱんと叩いて汚れを落としていた。そしてバイト野郎に向かって片手を差し出す。


 ん? 握手か?


 「君、ワタシのセフレになったからよろしく」


 .................んん?



―――――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


最近のコンテストで「5分で読書」がありますよね。


あれ、読むのが楽しくてついたくさん読んでしまいます。


そして気づいたら短編小説を書いてました。


ってことで、ここで新作です!


、その名も「大根」!


相変わらずこの作品も“農家”してますね.....。ラブコメです。許してください。


近日公開しますのでよろしければご笑納(?)ください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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